エピソード07
彼女の家は、家と言うより屋敷だった。
都内にこれだけの豪邸を持つとは、さすが財閥の末裔。
車が門の前に止まると、木製の大きな門がギギーという音をさせながら観音開きに開いた。
どこかで監視カメラで見ているようだ。
木彫りの大きな表札には、明朝体で東条の文字。
松の木がある砂利の庭を進んだところで、俺は車を止めた。
彼女は車を降り、俺を玄関へ招いた。
玄関を開けると、屋敷の使用人と思われる女性がお辞儀をしていた。
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
俺は招かれるまま、歩く度に軋む木の廊下を歩いた。
「こちらで、ご主人様がお待ちです」
障子を開けると、木の床に木製の大きなテーブルがあり、正面に椅子に座った男女がいた。部屋にある物は、どれも高価な調度品のようだ。
「さ、座ってくれ」
「失礼致します」
「家内から、君のことを少しは聞いている。私は娘の父親だ、こっちは家内の弘江」
和服を着た弘江と呼ばれた女性は、微笑みながら頭を下げた。
「初めまして、綾部京一郎です」
「綾部君は東大出身だそうじゃないか、学部は何だ?」
「法学部です」
「おお、では仕事は弁護士かね?」
「いえ、司法試験には合格しましたが、司法修習は受けず、自分でベンチャーを立ち上げました」
「ほうー、ベンチャーをね」
着物の袖で腕を組んだ父親の背中越しに、俺の白い車が見える。
「どんな会社なんだ、従業員は何人いる?」
「私は、特許を12件持っております。それを企業様に使ってもらい、売上の何パーセントかをライセンスフィーとしていただいております」
「ほう、12件も特許を。それは凄いじゃないか」
「ありがとうございます。あと、従業員は私一人だけです」
「なんだ、個人経営か」
「はい」
遅れて、お嬢さんが障子を開けて中に入ってきた。
服を着替えていたようだ。
彼女は、和服ではなく洋服だ。
正面の両親に軽く会釈して、俺の隣に座った。
「君のあの白い車は、イギリス製の高級車だな」
父親は後ろを振り向き、大きなガラスから見える俺の車を見た。
「そこそこ儲かっているようだな、」
「お蔭様で順調です」
「そうか、実際どのくらいなんだ。昨年の実績ベースでの売上はいくらかね」
「恐れ入りますが、申し上げられません」
「なに、」
「企業秘密です」
「君は、うちの娘と結婚するつもりじゃないのかね」
「まだそうとは決まっておりません。娘様と実際にデートしたのは、今日が初めてです」
「・・・そうか。だが、うちの娘が君に惚れているのは確かだ」
「もし、正式に結婚となった暁には、私の会社について余すことなくお話しさせていただきます」
「だが、男の会社状況を娘の結婚の検討材料にすることは、世間一般の常識だと思うがね」
「それは理解しております。ですが、何分特許を扱うという性格上、徹底した秘密主義でないと会社の存続はおろか、私の命の危険性もはらんでおります。何卒、ご理解いただきますようお願いします」
「徹底した秘密主義か・・・ま、わからんでもないがな」
「失礼します。お茶をお持ちしました」
「ああ、入ってくれ」
障子があけられ、玄関で出迎えた使用人と思われる女性が、紅茶とクッキーが入ったバスケットを載せたワゴンを押してきた。
カチャという音と共に皿に乗ったカップが置かれ、湯気の立つ紅茶が注がれた。
使用人の女性は、全てを運び終わると一礼をして障子を閉めた。
「まあ、わかった。君の持ち物を見れば、どんな状況か大体の検討はつく。経営は申し分ないようだな」
「ありがとうございます」
「しかも、東大法学部をご卒業。麗子のお相手に、相応しい方と存じます」
彼女の母親が、口を開いた。
ニコニコとして満面の笑みだ。
「どうだね、先程初めてのデートと言ってたが、正式にうちの娘と結婚を前提に付き合ってくれんかね。もう知ってると思うが、娘はそういう年齢だ。あまり時間が無いんだよ」
俺は、横にいるお嬢さんの顔を見た。
彼女は、真剣な眼差しで俺を見ている。
俺は呼吸を整えた。
「その件で、お二人に話しておきたいことがあります」
「ん、何かね?」




