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エピソード05

 「あんな凄く高価なもの、本当にいただいてもよろしいのでしょうか」

 

 「うん、大丈夫。あの黒いカード2000万まで使えるみたいだから」

 

 「でも・・・」

 

 「それに、」

 

 「それに?」

 

 「フェアの展示品の中で君に似合うのは、女性店員が持ってきたあのネックレスだけだった。だから、決めた」

 

 「まあ、」

 

彼女は頬を染め、はずかしそうにうつむいた。

俺達は食事を済ませ、海岸線を歩いていた。


寄せては返す波の音、

南から吹く乾いた風、

向かい風に逆らうように羽を広げるカモメ。

長く居座った夏が、いつの間にか主役を奪われた10月の良く晴れた日、

インディアン・サマーと言われる、今のこの季節が、

俺は一番好きだ。


 「京様、」

 

 「ん?」

 

 「あのネックレス、今つけてもよろしいですか?」

 

 「ああ、もちろんだよ」

 

彼女はバッグから取り出し、俺に手渡した。

丁寧な包装と、頑丈な化粧箱を開けた。

貴賓と威厳を合わせ持つ、その見事なネックレスを、

俺は彼女の細い首にかけた。


 「キレイ、」

 

 「よく似合ってるよ」

 

彼女は、自分のバッグからスマホを取り出した。


 「京様も入ってください」

 

 「OK」

 

 カシャ

 

前髪を整え、腕を伸ばした彼女は、俺とのツーショットをスマホにおさめた。

写真を確認した彼女は、目を閉じスマホを胸に抱きしめた。


 一度しか会ってない男を、

 人は本当にここまで好きになれるものだろうか・・・


 「ねえ、」

 

 「あっ、はい」

 

彼女は、顔を俺に向けた。


 「君は、俺のどこまで知ってる?」

 

 「どこまで、とおっしゃいますと?」

 

 「探偵に調べてもらったんだよね。報告書には、どこまで書いてあったのかなって、」

 

 「京様が高校を2年で中退されて、東京大学に入学されてからの事が書いてありました」

 

 「・・・そう」

 

 「探偵さんには無理を言って、一週間の短い期間でお願いしましたので、詳しくお調べできなかったと思います」

 

俺はうつむき、小さく息を吐いた。

歩きながら、両手をズボンのポケットに入れる。


 「俺はね・・・施設で育ったんだよ」

 

 「えっ?」

 

 「生まれてすぐ、親に捨てられたらしい」

 

手で口を押えた彼女が、困惑の表情を浮かべていることは、

顔を見ないでもわかった。

 

 「だから、俺には親も兄弟も、親戚もいない。天涯孤独ってやつだ」

 

 「・・・そう、だったのですね・・・」

 

 「施設には、俺みたいな子供がたくさんいた。金が無いから食事もメチャ質素でさ、食べ終わってもみんな腹すかしてた。俺が夜中トイレに行くと施設の庭に立ってる奴がいて、何してるって聞いたら、お腹が減り過ぎて眠れないってさ。笑えるだろ、」

 

苦笑した俺は、彼女の足が止まっている事に気が付いた。

振り向くと、彼女は泣いていた。


 「・・・ごめんなさい・・・私、何も知らなくて・・・京様に、そんな・・・辛い過去があったなんて・・・」

 

 「昔の話しだよ。今は、楽しく人生を謳歌してる。自分で作った会社も順調だしね」

 

 「で、でも・・・私・・・」

 

彼女の涙は止まらなかった。

 

 「君は俺と結婚したいんだろ?」

 

 「・・・はい」

 

彼女は顔を上げた。

涙が幾重にも、頬を伝っている。

目が真っ赤だ。

しかし、それでも真っすぐに俺の顔を見ている。


彼女の真剣さが、俺の心に突き刺さった。

だが俺は、意を決して言葉にした。


 「たぶん、それは叶わないと思う」

 

 「えっ、」


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