エピソード02
「あー、ここのコーヒー、なんでこんなにウマイんだ」
土曜日、午前10時。
天気の良い土曜日の午前は、ここと決めている。
表通り3丁目にあるオープンカフェ。
ホコ天になることもあって、極めて静かだ。
夏の終わりを告げる心地良いそよ風と、時折聞こえる野鳥の声が俺の心をリフレッシュさせてくれる。
先週、妙な影につけまわされている気がしたが、
おそらく気のせいだろう。
「また、お会いしましたね!」
ブーー!
飲みかけのコーヒーを全部吐き出したのは、言うまでもない。
俺は、悪夢を見ているのだろうか?
「もー、汚いですわね」
そう言いながら、彼女はハンカチで俺の口元を拭いた。
その顔は、天使のような笑顔だ。
「きっ、君は!」
「はい、この前美術館でお会いした私です」
「なっ、なぜ、ここに、」
「探偵さんにお金を払って、あなたのこと調べましたの。綾部京一郎様」
「・・・」
調べた?俺を?
どーやって・・・
顔の写真は撮られてないはずだし、
個人情報となるものは、何も話してないはずなのに
「探偵さんによると、先週の土曜日にここに来て常連のような振る舞いをされていた、とレポートに書いてあったので、もしかしたらって思って来たら、本当にいらしていた!ので、あー、これはやっぱり運命かなーって!」
何が運命だよ、
しっかり調べた結果だよね?
「よく、俺、あっいや、僕のことを調べられましたね。個人情報は何も見せてないと思いましたが、」
「京一郎様が乗った車のナンバーを覚えました。それを元に、探偵さんに調べていただいたんです」
あ、そう、
よく覚えられたね
っていうか、あの時俺は全力疾走したんだけど、
よく追いついたなー、
陸上選手か?
「今日は、護衛は無しですか?」
「護衛?何の話しですか?」
「っで、俺、あっいや、ぼっ、僕に何か用ですか?」
俺は、まるでヘビに睨まれたカエルだ。
だが、心臓をバクバクさせながらも冷静さを装った。
と、その時、
彼女は、大きく息を吸い込んだ!
「私と結婚を前提に、お付き合いくださいませんかーーー!!」
くださいませんかー
くださいませんかー
くださいませんかー
・・・
周りのテーブルの視線が、いっきに俺に突き刺さったのは言うまでもない。
手を止め、ヒソヒソ話しをしながら俺をガン見している。
ちょっと、ちょっと、ちょっと!
これって公開処刑だよ!
店の客と従業員全員の視線が、完全にロックオンされてるじゃないか!
「えっ、えーっと・・・すっ、少し、考えさせて、いただけませんか・・・」
あっ、怒ってる、怒ってる
向かいのテーブルの年配の女性が、「お前は、なんでハイって言わないの!」って真っ赤な顔で、俺のこと睨んでるよ
なんか、ヤベえぞ、
充満する怒りのオーラで、押しつぶされそうだ
これは店を出た方がいいけど、出れない事情が、
「遅くなりました!」
かあー、ダメだ、
最悪のタイミングで来ちゃったよ・・・
「あれ、先輩、この女性は?」
「そう言うあなたは、京一郎様とどのようなご関係ですか?」
「あたしは大学の後輩。綾部先輩に論文で聞きたいことがあって来たのよ。で、あなたは誰?」
「私は、京一郎様と結婚を前提にお付き合いを申し込んでいる者です」
「えっ、・・・ケッコン?いっ、今ケッコンって言った?」
「はい、結婚を前提に、お付き合いを申し込んでいる者です」
「えええー!」
ちょ、ちょっと、声が大きい
ゴゴ、ゴゴゴゴー
落ち着け!
やっ、やばい・・・
彼女の闘気が、どんどん膨らんでいく
「先輩ー!」
大学の後輩と名乗る若い女は、ジャケットを鷲掴みにして、俺をめちゃくちゃ揺さぶった。
「あたしが付き合ってって言った時は、仕事が忙しいから無理って言ったじゃない!なのに、なんなのよ、ケッコンって!」
「ちょっと、何をされているんですか!その手を放しなさい!」
俺、終わったかも・・・




