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エピソード11

 「一度顔を見て、写真の人か確認いただけませんか」

 

 あっ、あの浮浪者が・・・

 あの浮浪者が、東条家のお嬢さんなのか?

 ウソだろ

 まさか・・・そんなはずない、

 そんなこと、あり得ない!

 

 「ちょっと、聞こえてますか?」

 

手術着の男は俺の肩を掴んだ。

その衝撃で、俺の意識は戻った。

 

 「ほっ、本当に、・・・あの写真の女性が、救急車で運ばれた人ですか」

 

 「女性であることは間違いありませんが、写真の人かどうか、それを確かめてください。あなたなら分かるのでは?」

 

手術着の男は、鋭い目線を俺に投げかけた。


 「・・・霊安室は、どこですか」

 

 「いえ、ICUにいます」


 「ICU!じゃ、生きてるんですか」

 

 「ええ。ですが、もう無理だと思います」

 

 「えっ・・・無理、」

 

 「私から言わせれば、あの状態で生きている方が不思議ですよ」

 

 「・・・どんな状態ですか」

 

 「全身に複数の打撲。とくに胸への打撲がひどく、肋骨が4本折れています」


 - 暴行された形跡があります -

 

 「体重は36キロ。おそらく、一か月近く何も食べてなかったのでしょう。所持品は、握りしめていたスマホと、写真と同じネックレスが首にあるだけです」

 

俺は言葉を失った。

  

 「全身の衰弱が激しく、多臓器不全で感染症の疑いも。はっきり言って、手の施しようがありません。もっと早く病院にきていただければ、助かったんですが、」

 

 「・・・」

 

 「生きているうちに会うなら、今しかありませんよ」

 

 「どこですか、ICUは!」

 

俺は誰もいない病院の廊下を走った。


 あの浮浪者が、本当に彼女なのか・・・

 ウソだ、

 ウソであってほしい

 彼女から、スマホとネックレスを盗んだ別の女かもしれないじゃないか、

 

 顔を見るまでは、分からないさ

 でも、もし、本当に彼女だったとしたら、

 

教えられた病棟のエレベータを降り、すぐ前にあるICUの扉を開けた。


ベッドに仰向けになっているその人は、酸素マスクをしている。

俺はゆっくり近づき、顔を覗き込んだ。


とても表現できないその顔は、

紛れもなく、俺に優しく微笑んでいた、あのお嬢さんだ。


 間違いない、

 彼女だ・・・

 

鼓動を止めるような圧力に、押しつぶされそうになった。

氷点下の海に投げ出されたように、体温が急降下し身体が震えた。

全身のチカラが一気に抜ける。

意識が遠くなり、立っているのが精一杯だ。


 どうして、

 どうして、こうなった・・・

 

閉じていた彼女の目が、ゆっくりと開いた。


 「俺だ、俺だよ・・・京一郎だ、わかるかい?」


彼女は、瘦せこけたその顔をゆっくりと声の方に向けた。

そして、骨のような指で酸素マスクを外した。


 「・・・きょ・・・きょう・・・さ・・・ま・・・」

 

俺は、震える彼女の手を握った。


 「もしかして・・・あの後、君は家を出た、のか・・・」

 

彼女は、ゆっくりと頷いた。


こみ上げてくる何かで、呼吸が乱れた。

俺は、崩れるように床に這いつくばった。


 「すまない!・・・許してくれ!・・・きっ、君が本当に・・・家を出るなんて、思ってもみなかった」

 

俺は、床に額を打ち付けた。


 「俺は、俺は、なんてバカなことを・・・君に・・・」

 

何度も打ち付けた。


 「許してくれ・・・すまない・・・許してくれ・・・」

 

 「・・・きっ・・・きょう・・・さま・・・」

 

彼女の消え入るような声に、俺は顔を上げた。


 「・・・さっ、さいごに・・・きょう・・・さまに・・・あえて・・・・・・わっ、わたしは・・・うれしい・・・」

 

変り果てたその顔で、彼女は笑った。

 

 「死なないでくれ!・・・頼む、・・・俺は・・・俺は・・・」

 

 「・・・きっ・・・きょう・・・さま・・・」

 

俺は、彼女の口元に顔を近づけた。


 「ひっ・・・ひとつ・・・だけ・・・・・・おねがい・・・を・・・」

 

呼吸が乱れて息が出来ない。

大声を上げて叫びそうになるのを、俺は必死に堪えた。

 

 「・・・れっ・・・れいこ・・・って・・・よんで・・・くっ・・・ください・・・」


俺は、立ち上がった。

彼女をベッドから抱き上げ、その全身を抱きしめた。


 「麗子・・・大好きだよ」

 

彼女の目から、涙が一筋流れた。


そして、

彼女の手は、チカラを失った。


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