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エピソード10

 「おいおい、マジか。なんで止まるんだよ!」

 

成田からの帰り道、

高速を降りて下道を走ってすぐ、自慢のイギリス車のエンジンが止まった。

スタートボタンを何度押しても反応なし。


 故障か?勘弁してくれよ、

 

ハザードを付け、ボンネットを開けると白い煙が。


 「うわぁ、なんだこりゃ・・・」

 

これは無理なやつだ。

俺はディーラーに電話して、車の引き取りにを手配した。


 「ええっ、代車が無い!本当ですか!」

 

 「すみません。ただ今の時間、全台出払っておりまして・・・誠に申し訳ございません」

 

 「・・・」

 

 このクソ寒い12月の夜中に、電車で帰れってか!

 どうなってんだよ、まったく

 二度とイギリス車は買わんぞ


 「で、一体どこなんだよ、ここは」

 

俺は、スマホで近くの駅までの道を確認した。

腕時計は、夜の10時を少し回っている。

薄暗い道は、街灯は少なく対向車もほとんど来ない。


待つ事30分、ようやくルームミラーにレッカー車の姿が見えた。

冬仕様じゃない服の俺は、エンジンのかかってない車中で寒さとの格闘に疲れた。


 「お待たせしてすみません。年末で道が混んでまして、」

 

 「はあ、そうなんですね、」

 

 「特に今日はクリスマスイブで、余計に道が、」

 

 もう言い訳はいいから、早く持って行ってくれ

 

引き渡しの伝票にサインし、俺の車はレッカーに引かれて闇へ消えた。


 にしても、寒い

 東京の冬って、こんなに寒かったっけ?

 これは雪になるかもな

 

相手先との交渉が予想外に難航し、気が付けば2か月以上経過していた。

なんとか年内に仮契約まで漕ぎつけたが、かなりの綱渡りだった。


俺は、スマホを見ながら歩いた。


 「この陸橋を渡れば、その先が駅か」

 

吐く息が白い。

そして、それはすぐに夜の闇に溶け込んで消えていく。

見上げた夜空には、いくつかの星が煌めく。


 こんなにちゃんと夜空を見たのって、いつ以来だろ・・・


立ち止まると、寒さが沁みてくる。

俺は、とにかく早く帰って熱い風呂に入りたかった。


その陸橋は、下が線路になっていた。

灯は無いが、電車が通るとぼんやりと明るくなる。


橋の中程まできたとき、少し先に動く影のようなものが見えた。


 ん、人か?

 

その影は、陸橋から飛び降りようとしていた。

俺は思わず駆け寄り、その身体をつかんだ。


 「おい、何やってんだ!やめろ!」

 

そのとき、その身体はチカラを失ったように俺にもたれかかってきた。


 「ちょ、ちょっと。おい!大丈夫か!」

 

覆いかぶさってきたその身体は、人間とは思えない程軽く、そして浮浪者特有の臭いがした。

思わず俺は橋のたもとまで戻り、ハンカチで鼻を押さえた。

暗くてよく見えないが、動く気配がない。


 えっ、まさか、死んだ?

 くそっ、ウソだろ

 早く帰って、風呂に入りたいのに、

 

俺は舌打ちしながら、スマホから救急に連絡した。

相手の性別、年齢を聞かれたが、暗くてまったく分からないと答えた。


5分もかからず、サイレンを鳴らして救急車が来た。

俺は駆け寄る救急隊員に、陸橋の中央付近を指差した。


 「あなたが通報者ですね」

 

 「はい」

 

 「あなたも救急車に乗っていただけませんか」

 

 「えっ、どうしてですか?」

 

 「暴行された形跡があります」

 

 「暴行って、俺は通りがかっただけで何もしてませんよ」

 

 「乗っていただけないのなら、この場で警察呼びますので」

 

救急隊員は、携帯電話を取り出した。


 「あっ、ちょっと、ちょっと。わかりましたよ、乗りますから」


俺を乗せた救急車は、サイレンを鳴らして出発した。

病院と何やら連絡を取り合っていたが、

毛布をかけた浮浪者には、特に何もしていない様子だ。 

救急車は、すぐに近くの夜間救急センターに入った。


 「先生が来るまで、ここでお待ちください」

 

看護師にそう言われた俺は、誰もいない廊下のベンチに座った。

夜の病院、全く音が無い。

しばらくスマホを触っていたが、時間の経過と共に少しずつ苛立ってきた。


 まったく、いつになったら俺は帰れるんだよ

 

電話番号も伝えているし、このまま帰ってもいい気がしてきた。

何かあれば、連絡してくるはずだ。


 「もう電車もなくなるし、帰ろう」

 

俺はカバンを肩にかけ、立ち上がった。


 「あなたが第一発見者ですか?」

 

手術着を着た背の高い男が、俺の後ろから声をかけた。


 「あっ、はい、そうですが、」

 

手術着の男は、俺に近づいてきた。


 「あなた、あの人の関係者ですね」

 

 「えっ?」

 

 「これは運ばれて来た人が所持していたスマホです。バッテリーが切れていたので少し充電しました」

 

手術着の男が、俺に見せたスマホの壁紙は、

ネックレスをした幸せそうな女と男の写真だった。


 「この写真の男性、あなたですよね」


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