閑話 リバーシ
「せ……、先輩?」
一ヶ月ぶりに、シイナ先輩がきてくれた。
それも、部室で作ったオムライスつきで。
「よかったら、食べてもらえるかしら」
「私の分もあるのか! それは、ありがたい!」
食いっぷりが良かったのはミカゲ先輩だけで、私は昨日の体重のこともあるので、少しだけ食べた。
「ありがとう。ほんとは、失敗作なんだ」
「……失敗作? 変な味では、なかったですけど」
「さっき食べたの、"子供向きな味"だったでしょう。今日"は大人向きなオムライス"について研究して、わざわざ有名店にも足を運んだのに、あれと同じ味が作れなかったの。食べた時はこれとこれとこれを使えば、似せることができると思ったのに、馬鹿な思い違いよね。だからこそ、研究しがいがあるものだけど」
シイナ先輩でも、哀愁に浸ることあるんだ。
いやあるか。
人間だし。
「……それでも、ちゃんと気持ちは込もってましたよ」
「私なんか、食べ足りないぐらいだ!」
シイナ先輩はふふふと笑ってから、「そうね。そういう日もあるかもね」と、空になったケースに蓋をして、風呂敷で包んだ。
用事はこれだけならしく、「たまには、遊びにきてよね」と手を振って、部室を後にした。
シイナ先輩が所属する料理研究部の部室を通ると、気軽に入れるような状況じゃないから、これは建前なんだろうな……。




