閑話 猫と交う
うちの親が猫を飼うのを許可してくれたのは、オレンと逢って二週間後のこと。
"金回りが良くなったから"なのか、何もなかった以前とは違い、室内は光で満たされている……。
「名前はもう決めたの?」
「みかん色だから、みかんで良いかなって」
「……猫にしては珍しい色だね。長毛種だから、掃除は徹底しないとな」
それは私がやるという前提で、親は関与しない。
「よろしくね。みかん」
にゃーんと猫に化けたみかんが、鳴いた。
*
みかんと寝るということは、当然お誘いもあった。
初めてだから怖いと言うと、「最初は誰だって、そう言う。する気になったら呼んでくれ」と、枕の横で寝た。
いや、したい。
めっっっっちゃしたい。
獣人と寝るという神秘性に、心が躍る。
怖いと言いながら最後までやり遂げ、オレンの隣でニマニマする。
当時7歳だったので、ゴムとか言われても何のことだか分からなかったが、「初潮がないならいいか」と、熱っぽい気持ちで満たされた。
その後も、父親のパチンコが大当たりしたり、母親がたまたま買ったスクラッチが当選(小さな等だが、当たらないよりはマシ)したりと嬉しいことの連続だが、時々不安に思うこともある。
オレンが居なくなったら、この幸せに終わりが来るんじゃないかって。
そうならないために、彼の言うことは何でも従った。
従順で、優しい自分を取り繕った。
本来なら川に飛び込んで死んだはずの命が、こうして生きられるのだから。
「……様って、なんですか。うちには、そんな人居ませんが」
外が騒がしい。
教祖さまって、何だ。
信者と母親の会話に、耳を傾ける。
「いや、確実にいる。今まで気付かなかったことがおかしい。教祖さま、ここにいらっしゃるんですよねー?」
何の団体だろう。
新興宗教か何か?
昼寝をしていたみかんを起こすと、やれやれとした顔でベッドから降り、人の姿で信者たちと対面した。
一番驚いたのは、母親だ。
今まで飼っていた猫が実は化け猫なんて、想像する方がおかしい。
「みよ……一体、どういうこと? 彼らは一体、何者なの?」
「……分からない」
「分からないじゃないわよ! 変な人たちが家に押しかけてきて、私怖かったんだから!」
……オレンは、どこに行ったのだろう。
教祖さまと言われていたから、元いた場所に戻ったのかな。
だとしたら、知りたい。
何か、手がかりはないだろうか。
「こんな物までよこして、本当に気持ち悪い。みよもそう思わない?」
住所は、ここから近い。
「永遠の会」か……。
母親はぐしゃぐしゃにして捨てたけど、そこに行けばオレンに会えるんだ……。
「絶対に関わらないこと。いいね?」
うん、そうする。




