閑話 オレンと月士
だいぶ変わってるが、お気になさらず
幸せってなんだろうと思った、幼少期。
家に居ても学校に居ても楽しくなくて、橋の下から濁った川を見つめる。
ーーこの中に飛び込んだら、間違いなくしねるよねーー
飛び込む勇気がなくて、今日も通っただけで諦める。
その帰り道、一匹の猫に出逢った。
"何かの間違いであれば"良いと、思った。
怪我をした猫を放っておくことができず、家にあった物で手当てした。
すると、猫は喋った。
「……え?」
もにょもにょっと口が動き、猫から人型に変わる。
「助かった。カラスにいじめられたんだ。驚かせてすまない」
「い……、いいえ」
その男性は、「オレン」と名乗った。
聞きたいことは山ほどあるが、私が何か言う前に、オレンは私の鞄を指さした。
「……何か、食べれる物はないか。空腹で死にそうだ」
「あ……、あります。口に合うか分かりませんが」
「食べれる物なら、なんだっていい」
オレンに食べ物を与えると、さっきまで色を失なっていた肌に、重ねて色を加えたような気になった。
「髪も梳かします」
だがオレンは「それはいい」と、手で制止する。
「君の家に、お邪魔しても構わないか」
「え……?」
「悪いようにはしない。猫として、飼ってもらいたいだけだ」
「だ……、ダメです! うちの親が許さないです!」
「……そうか、親の許可が必要なのか。ならこうしよう。"親が居ない間"に、お邪魔しても構わないか」
何、言ってるんだ。
うちの親は細かいし、他人の出入りは極力禁止だ。
友達と遊ぶ時は外と決まっていて、家に入れることは許されない。
入れようものなら、地獄の大掃除が待っている。
それくらい、他人を信じられないのだ。
「大丈夫。そうならないように、君が動いてくれれば良いのさ」
「……できますかね」
「できるとも。何かあった時は、その都度助ける」
「ーーーー今、なんて」
目を開けると、そこにはオレンが居なかった。
あれは、夢だったのだろうか。
一応、あげた菓子を確認してみる。
減っている……。
「ーーーーこんなところにメモ書きなんて、あったっけ……」
枕の隣に「昨日会った公園で、待っている。食べ物は必ず持ってこいよ」と、達筆な字で書かれていた。
親の目を盗んで食べ物を持って行くのは勇気がいるが、やるしかない。
でないと、後の「神さま」は消えてしまう。
「今日はパンか」
家にある物を盗むことができず、小遣いの中から出した。
近所のパン屋さんで買ったものだが、オレンの口に入るだろうか。
「……美味しい。ほんとは、店内で食べるものだがな」
「いいえ。店内で食べたら、"貴方さまが美しすぎて"、逆に食べづらいと思われます」
「……そう、だな。今は、どこそこの浮浪者の身だからな」
「何かあったんですか」
「深夜にギターを弾く奴が居て、うるさかったんだ。注意したら『これやるから許せ』と言われて、柿ピーを貰った」
……変な、人だな。
「……これは、君が貰ってくれ。私は怖くて食べられない」
「分かりました。これは私が何とかします」
どっかに捨てよう。そうしよう。
浮浪者って、案外身近に居るんだな……。
ほんとは家に入れさせてあげたいけど、何て言われるか分かったもんじゃない。
「……銭湯、行きませんか」
「せんとう? 勝ち負けを競うのか?」
「私が出すので」
お風呂に浸かる前に、必要なものをこちらで揃えた。
どうしよう、小遣いが減っていく……。
かといって、親の金を取るわけには……。
「みよ! 昨日お父さんが宝くじ当てて、臨時収入が入ったわ! 十万円よ!」
そのお金で、私の小遣いが増えた。
これなら、オレンに貢ぐことが可能だ。
近いうちに、続き書きたい




