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【受賞・書籍化】無能だと追放された王女、謎スキル【草生える】で緑の王国を作ります  作者: 灰猫さんきち
第6章

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93:王都での活動


「父上!」


 王太子が声を上げた。青ざめて必死の表情だった。


「追放と王位継承権の剥奪は、父上ご自身が行われたこと。簡単に翻しては国王の権威にかかわります!」


「黙れ。お前の領地はことのほか酷い不作だったではないか。クロエの援助でどれだけの民が餓死を免れたか、知らぬわけではあるまい」


「豊作、不作は天の気まぐれ。人の身で操ることはできません! 余裕のあるクロエが援助するのは当然で、功績ではありません!」


 王太子が食い下がるものの、王は深いため息をついた。

 クロエはここぞとばかりに口を出す。


「天候や作物の病は、確かに操れるものではありません。しかし、私の領地では豊作を目指して種々の方策を行いました。緑肥、灌漑工事、魔牛と魔羊を利用した三圃制さんぽせいの導入。限られた人手で最大限の努力をしたつもりです。兄上はどのような施策を?」


「う……うるさい! 農業政策は従来のもので十分だ。平民どもは怠け者ばかり。指示しても怠けるばかりで働かないのだ」


 クロエはやれやれと肩をすくめてみせた。


「指示の方法、方向性に問題があるのでは? 私の領民は勤勉ですわ。きちんと話し合ってお互いを理解すれば、彼らは応えてくれます」


「平民を理解など、ふざけたことを!」


「もうよい」


 国王が疲れた声で言った。


「クロエの王位継承権復帰は、既に決定した。王子よ、お前が王太子の身分を失いたくなければ、国の役に立ってみせろ」


「くっ……」


「ありがとうございます。身に余る光栄でございます」


 クロエは深々と礼をする。けれど継承権の復帰は、兄とクロエの継承争いが再開されたということ。相手を追い落とさなければ自分が破滅する。ここまで仲がこじれている以上、兄が王になればクロエに対して容赦しないだろう。


(さて。宣戦布告のタイミング、先手を取られてしまったわ)


 クロエはちらりと横を見る。大司教ヴェルグラードのフードの奥の視線と目が合った……気がした。


(大いに争ってみせろって? ふん、いいじゃない。受けて立ってやる!)


「用件は以上だ。クロエよ、王位継承権を再び得た以上は、国政に参加する義務がある。今後は会議の招集に応じるように」


「はい」


 望むところだ、とクロエは思った。正式な発言権があれば力を発揮できる。正規ルートで情報にアクセスもできる。

 クロエは正面から兄を見た。憎々しげな視線が返ってくる。

 こうしてクロエは、名実ともに『追放された王女』ではなくなった。







 クロエはそれからしばらくを情報収集に努めた。

 十五歳の成人と同時に国政から締め出されていたのだ。現状を把握する必要があった。

 判明したのは、各地の麦の出来高が思った以上に悪いということ。今年も不作が続けば、ミルカーシュのような飢饉になりかねない。

 もはや聖都市もミルカーシュ王国に援助をする余裕はなく、麦の奪い合いの様相を呈している。クロエの村が例外的だったのだ。


(北の土地の豊かさは、間違いなく精霊たちが関与している。けれど公にはできない)


 セレスティアでは精霊は邪悪視されている上に、クロエの領地だけが恩恵にあずかっているとなれば、羨望と嫉妬に晒されるだろう。兄から糾弾を受ける糸口になる。

 どこまで情報を公開して、どこから隠すか。よく考えなければならない。


 そうして臨んだ最初の会議では、意見が紛糾していた。誰もが食料不足に陥っていて、国庫やクロエの備蓄を回せと言ってくる。

 中立派や王太子派の貴族たちが声を上げた。


「だいたい、どうしてクロエ殿下の領地だけが豊作なのですか。あの地はつい最近まで不毛の荒れ地だったのに」


「何か理由が?」


「水源が見つかったことによる川の復活と、農業施策の成功と言っているでしょう」


 クロエは言うが、貴族たちは納得しない。


「王女殿下は、魔道帝国の皇孫殿下と親しい間柄でしたな。まさか、かの国から特別の技術提供を受けているとか?」


「あの魔晶核は素晴らしい技術だ。帝国では土壌改良に使っているというではないか」


 クロエの派閥の貴族たちは目を見合わせた。クロエの指示で魔晶核を使わないように言われているからだ。


「ヘルフリート皇孫殿下とは、確かに学友です」


 クロエは言う。


「しかし、セレスティア王国として受けた以上の技術提供はありません。先日私は、彼の招待で魔道帝国の帝都まで商談に赴きました。その際に触れた魔道科学の技術は非常に高いレベルでしたが、それゆえに我が国では使いこなせないと感じたのです。原理の分からないものを与えられるままに使えば、重大な事故が起こるかもしれない。保留を勧めています」


 温室の枯死事故は軽々しく口に出せない。他国の機密であるし、ヘルフリートに秘密を守ってもらっているためもある。クロエだけが約束を破るわけにはいかない。

 だが貴族たちは疑いの目を解かなかった。


 一方でクロエの派閥の結束は固い。勢力を盛り返したクロエについていけば、将来が明るいと考えている。それだけ王太子の権威が失墜しているのだ。

 クロエのそばにいれば、麦の援助を受けられるとの目論見もある。三圃制さんぽせいは新しい農法で、従来の二圃制にほせいを進化発展させたもの。ノウハウを教わり、不作を脱したいと考える者は多かった。


「私の領地の豊作は、第一に水源が見つかった幸運。第二に村人たちの努力。次に三圃制の成功です。大きな川に水が満ちたことで、土地に魔力が戻りました。自然の力です。天佑てんゆうと人の営みが上手く噛み合った結果ですわ」


 クロエはできるだけ『自然の力』を強調して、豊作の説明をして回った。精霊の名は出せないが、北の土地が豊かな魔力を内包していると説く。


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