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【受賞・書籍化】無能だと追放された王女、謎スキル【草生える】で緑の王国を作ります  作者: 灰猫さんきち
第6章

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87:面談終了


「なるほど……」


 皇帝は顎に手を当てる。


「魔力の逆流か。確かに命に関わる危険である。ただ、新しい技術とは危険がつきもの。安全措置は講じるが、研究の停滞となってはいけない」


「もちろんです、お祖父様。ただ……『例の計画』は見直すべきかもしれません」


 皇帝は孫に視線を向けた。感情の読めない瞳だった。

 ヘルフリートは怯んだが、それでも続けた。


「あの計画が魔道科学の飛躍をもらたす以上に、暴走と破壊を引き起こす可能性がないとはいえません。もっと検証を重ねてからでも遅くはないはず」


「ヘルフリート。客人の前で無粋な話はやめなさい。計画の是非はお前一人の意見ではなく、研究者たちの総意をまとめた上で私と元老院が決める。この話はここまでだ」


「はい……」


 皇帝の言葉は静かだったが、有無を言わせない迫力があった。


「さて、クロエ殿。孫が失礼をした。私はそろそろおいとまするが、二人はゆっくりしていってくれ」


 皇帝が立ち上がったので、クロエとヘルフリートも立って見送る。

 皇帝は来たときと同じように、悠然とした足取りで去っていった。







「はぁ~。一応、お祖父様に注意喚起ができて良かったよ」


 皇帝の背中が見えなくなってからしばし。ヘルフリートが大きく息を吐いた。やっと緊張が解けたようだった。


「あの場で言い出すとは思わなかったわ。おかげでちょっとハラハラした」


「改めて奏上すると、まともに見てもらえるかどうか分からないからね。直接言葉を届けられる今日がチャンスだと思ったんだ」


「皇帝の孫で優秀な研究者なのに?」


「優秀かどうかは、自信がなくなったけどね」


 ヘルフリートは肩を落としている。


「クロエの力を伏せた状態じゃあ、昨日の事故だけでは警告にはまだ弱い。これからもっと調査して危険性を洗い出すけど、とりあえずお祖父様の耳に入れたかったんだ。……それにしても」


 彼はテーブルに突っ伏した。腕がカップをかすめて茶が揺れる。


「完全に振られちゃったよぉ……! お祖父様から結婚を後押ししてもらうつもりが、逆効果に!」


 涙声になっている。クロエは何と声をかけていいか分からず、おろおろとした。


「あの、ヘルフリート。ごめんなさい。でも、あなたは良い人だから。きっとこれから素敵な出会いがあると思うわ。私とはこれからも友人でいてくれる?」


「それ、振った本人が言うのは最悪なセリフなんだけど!?」


「さすがに今のは同情しました」


 ガゼボの隅に控えていたレオンが、思わずといった様子で呟いた。


「護衛騎士くん! レオン! 分かってくれるのはお前だけだぁ」


 ヘルフリートはレオンにしがみつくと、おいおいと泣き始めた。レオンはドン引きしているが、無理に引き剥がすのはしない。


「あの、ヘルフリート? 例の計画というのは?」


 話題に困ったクロエが言ってみるが。


「言えない、無理! 国家機密! なあレオン、今日は酒に付き合えよ。飲まなきゃやってられないよ」


「はぁ。まあ、いいですが」


「よし! 昼間だけど飲むぞ!」


 ヘルフリートは強引にレオンと肩を組むと、引っ張るようにガゼボを出る。

 ぽかんとして見送ったクロエは、しばらくしてやっと我に返った。


「何なのよ、もう」


 レオンまでいなくなってしまったので、クロエ一人で出歩くわけにもいかない。

 仕方なく迎賓館まで送ってもらって、お風呂に入ったのだった。







 クロエはそれから、一ヶ月を魔道帝国の帝都で過ごした。

 皇帝との謁見と交易の最終確認はスムーズに済んだが、魔道帝国に学ぶ点は多かった。

 交易についてもムーンローズの化粧品は引っ張りだこで、美肌を実現するクリームはご婦人方がこぞって欲しがる。手持ちの量ではとても足りず、増産と輸入を約束した。


「クロエ殿下とお知り合いになりたくて。なんて綺麗なお肌なんでしょう。やはりムーンローズの化粧品を使っているの?」


 元老院議員の奥方のサロンで、クロエは女性たちに囲まれていた。


「ええ、そうです。私の領地には温泉もあるので、ほとんど毎日入っています。そしてお風呂上がりに化粧水とクリームを」


「まあ、いいわね!」


「化粧水もあるのね」


「クリームより日持ちがしないので、化粧水は今回は持ってきていません。原料を持ち込んで、帝国で加工しようと考えています」


 クロエがにっこり笑うと、女性たちは黄色い声を上げた。


「是非使いたいわ! お店が出来たらすぐに行かなければ」


「ご愛顧の程をお願いいたしますね」


 こうして化粧品の商売もしっかりと手応えを掴んだ。


 商売の話を勧めると同時に、クロエは帝国に学び始めた。魔道科学の技術だけではない。

 帝国は皇帝という君主を戴きながらも、元老院を置いて絶対的な権力を制限している。元老院は一定の要件を満たせば身分にかかわらず議員になれる。貴族は有利ではあるが、平民の元老院議員も少なくないのだ。

 王族を貴族が支えるセレスティアにはない視点が多く、クロエは貪欲に学んだ。


「私は追放されて領主になるまでは、何でも一人でできると思っていた。一人の能力と努力で変えられると思っていた。でも違ったの。最初、荒れ地だった時の村にたどり着いた無力感を忘れない。村人と遊牧民の力を借りて、事態を変えていけたのを忘れたくない。様々な声を拾い上げる帝国の仕組みは、素晴らしいと思うわ」


 クロエの言葉にヘルフリートは頷く。

 彼はしばらく酒浸りで落ち込んでいたが、少し前にようやく立ち直ってきた。ひどい二日酔いで真っ青になりながらも、またクロエの前に姿を現すようになった。


「元老院は、それでも問題はあるけどね。多くの声を拾い上げるということは、それぞれの主張がぶつかって決定が滞るということでもある。最終的な強権を皇帝が持つことで素早い決断ができるけど、皇帝の決定に不満を持つ者が多ければ、それはそれで混乱が起きるし」


「そうね……。合議制は小規模な集団であればよりよい選択肢といえる。でも、帝国みたいな巨大な国では意思決定の妨げになる」


「そうそう。元老院議員たちは出自の利益を代弁するから。時には国益よりも自分と自分の背景勢力を重視するんだよ。魔道帝国の規模だと、全員の合意を取り付けるのはまず無理。頭の痛いことさ」


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