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【受賞・書籍化】無能だと追放された王女、謎スキル【草生える】で緑の王国を作ります  作者: 灰猫さんきち
第6章

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74:新しい技術


 魔道帝国の皇帝は御年六十二歳。物静かな人物ながらも、年齢を感じさせない辣腕の持ち主と評判だった。

 クロエは苦笑した。


「で、その成果とやらはどんなものかしら」


「先に交易品の見学でいいかな。こっちのは披露するのに少し準備がいるから」


 彼が振り返った先では、馬車から荷物が降ろされている最中だ。


「分かったわ。それじゃあまず、ムーンローズの花畑を。あの花は夜に咲くから、今は開花していないけどね。冬の寒い中でもちゃんと咲くのよ」


「紫のバラ、魔除けの花か。実に興味深いね」


 親しげに話しながら歩いていく二人の後を、レオンは少し下がってついていく。

 初冬の村は既に薄っすらと雪が積もっているが、道行く人々の表情は明るい。クロエは村人たちの挨拶を受けながら、村の名物を紹介していった。







 一通り村を案内して広場へ戻ってくると、馬車から荷物を降ろすのは終わっていた。

 賓客用に用意された移動式天幕の中に入って、クロエはヘルフリートに向き直る。


「さあ、次はあなたの番よ」


「もちろんだ。これを見てくれ」


 ヘルフリートは小箱を取り出した。まるでジュエリーを収めるような、小ぶりで豪華な箱だった。

 丁寧な手つきで箱を開ける。中に入っていたのは――親指の爪ほどの大きさの結晶体だ。多面体で透明。虹色の光が複雑に反射して、美しい。

 クロエは思わず身を乗り出して覗き込み……ぐらりとめまいを感じて額を押さえた。虹色の光が渦を巻くようで、目と脳とにひどく負担がかかったのだ。

 ヘルフリートは慌てて小箱のふたを閉めた。


「ごめん、注意が足りなかった。これは高濃度の魔力結晶体。直視すると濃すぎる魔力に当てられてしまうんだ」


「魔力結晶体……?」


「そう! これこそが我ら魔道帝国の最新の研究成果さ。この小さな結晶で、平均的な魔道士およそ千人分の魔力を内包している。高純度の魔力燃料、名付けて『魔晶核ましょうかく』という」


「千人分!?」


 クロエは思わず声を上げた。

 これまで魔法は個人の体内魔力を使って発動させる以外になく、たとえ大魔道士と呼ばれる人物であっても一人の魔力は上限があった。それがこの小さな結晶で千人分とは。

 ヘルフリートは得意げな表情で続ける。


「これがあれば、魔力不足はほぼ解決できる。今の帝国では、魔晶核を新たなエネルギー源とした魔導具を数多く開発中だ。実に画期的で未来を変えるようなものばかりだよ」


「魔導具……。仮にだけれど、魔導具ではなく土地に養分として与えるのは可能かしら」


 クロエがとっさに考えたのは、荒れ地の魔力が枯渇していた時期のことだ。水分や他の成分と同じように、魔力は土地の豊かさの指標となる。


「あぁ、そういう使い方もできるね。さっき見せた魔晶核は未使用で純度の高いものだが、使っていくと内包魔力が消費されていく。純度が高い状態じゃあもったいないけど、ある程度使った後に肥料のように土地に撒けば、魔力の補給になるはずだ」


 ヘルフリートは感心した様子でメモを取った。


「この魔晶核は小さい。でももっと巨大でもっと魔力を持たせた魔晶核も完成しつつあるんだよ。そうなればどれほど巨大な機関を動かせることか。今までは夢物語に過ぎなかった構想が、一気に現実味を帯びてきたんだ」


 言いながら、荷物の箱から別のものを取り出す。高さ一フィート(約三十センチ)ほどの小さな風車のような代物だ。

 ヘルフリートは風車の土台の部分のふたを開けて、魔晶核をはめ込んだ。スイッチを押すと風車の羽がくるくると回り始める。そよぐ風がクロエの蜂蜜色の髪を揺らした。


「面白いだろ? これは試作品だからこんなに小さいが、魔晶核と機構を巨大化すれば本物と同じ大きさでも再現できるはず」


「風車を再現? 風の吹かない地域でも風車を使えるということ?」


「そうなるね。まぁ粉挽き目的であれば、わざわざ羽を回す必要はない。粉挽きの歯車を動かす動力として魔晶核を使えばいい。つまり魔晶核は万能のエネルギー源になり得るってわけ!」


「すごい……」


 クロエは思わず呟いた。粉挽きの機械が実現すれば、この村のように水車と風車が使えない場所でも小麦粉の大量生産ができる。

 機械はもちろんのこと、大容量の魔道具も開発されるだろう。今までは子供だましのような出力だった魔導具の性能が、飛躍的に伸びる。


「あと、僕のお気に入りはこれ」


 ヘルフリートはまた違うものを取り出した。一抱えほどの大きさの箱だった。

 ふたを開けてみると、ひんやりとした冷気が流れてくる。中には氷が詰まっていた。


「これは氷の魔道具だ。肉を凍らせておけば腐らなくなるのは、きみも知っているだろう。今までは数少ない氷属性のスキルを持つ魔道士がせっせと働いていたけれど、これからは違う。この魔道具と魔晶核さえあれば、こうやって箱の中に冷気を閉じ込められる。物流と兵站に革命が起きるよ!」


 クロエは胸の前で手を握り合わせた。想像以上の話に心臓がどくどくと脈打っている。


「すごいわ、ヘルフリート。でもいいの? 魔道帝国の最新の成果を、こんなに公開してしまって。本来は秘匿されるべき情報では?」


「我が国だけの力では、足りない部分もあるんだ。特に魔晶核の作成には、その土地の魔力が影響する。さらに効率化を推し進めるためにも、国外での調査が必要だと判断したんだよ。皇帝陛下と元老院の一致した意見だ」


「魔晶核の作成。そういえば、魔晶核はどうやって作るの?」


 あの複雑な虹色の輝き。クロエはどこかで見たようなことがある気がするものの、思い出せない。新しい技術の高揚感に反してどこか胸騒ぎがするのに、はっきりとした考えがまとまらない。

 ヘルフリートは人差し指を立てて振ってみせた。


「それはもう少しだけ秘密。当面は帝国の機構と魔道具を売り渡すから、それを使って欲しい。魔晶核はもちろん、完成品をバラして分解するなりで、いつかは本質に届くと思うしね」


「あぁ、なるほど。そういうこと」


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