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67:裁判2


 裁判長と自らの弁護人にたしなめられて、ゴルトは不承不承引っ込んだ。

 そしてロイドは語り始めた。ゴルトの命令で村に入り込み、数々の工作を行ったと。


「僕の役目は主にエレウシス人とセレスティア人の分断でした。対立を煽って村の秩序を壊し、クロエ殿下の統治に傷をつけるためです。最初はミツバチの巣箱を破壊しました。これは外部の行商人を買収・脅迫し実行犯に仕立てたものです」


 証人としてその行商人が呼ばれた。フリオのツテで連絡を取り、説得したのだ。

 親を人質に取られていた彼は最初は渋っていたが、両親ともに説得。安全を約束することで証言台に立ってくれた。


「ロイドさんの言うとおりです。年老いた両親を人質に取られ、無理矢理に金を握らされて犯行に及びました。すぐに見抜かれて、クロエ様の領主権限により罰を受けました」


「この一件は、クロエ殿下が過酷な棒打ち刑を行ったと聞いている。脅しているのは殿下ではないのか!?」


 ゴルトが言うが、行商人は首を振った。


「とんでもない! 脅したのは確かにゴルト商会です!」


「だが、器物破損の罪で棒打ちなど野蛮ではないか。いくら領主権限があるとはいえ、横暴にすぎる」


 どうやらゴルトと弁護人は、重箱の隅をつついて話題を逸らすつもりのようだ。

 暴力沙汰に慣れていない王都の貴族たちに一定の効果があったようで、「本当に棒打ち刑に?」「野蛮な……」などと声が上がっている。


「異議あり。彼の言い分は本件と直接の関係がありません」


 クロエが冷静に言うと、裁判長は頷いた。


「異議を認める。証人は証言を続けるように」


「次の争点は、盗賊と結託した盗品の横流しです」


 ロイドが言えば、聴衆のざわめきが大きくなった。次に証言台に引き出されたのは、盗賊の首領である。

 彼は自分と手下たちの減刑と引き換えに証言台に立っている。


「あー、どうも。俺は盗賊を率いていた者です。手下を連れて行商人とクロエ様の村を襲いました。で、奪った商品は村に流していた」


「……どういうことだ?」


 裁判長の問いにロイドが答えた。


「盗品を村のセレスティア人だけに格安もしくは無償で渡すことで、村の分断を煽り、同時にクロエ殿下の統治に傷をつけました。未遂に終わりましたが、折を見て村で盗品が横行していると訴え出るつもりでした」


「悪質な……」


「最悪の自作自演じゃないか」


 そんな声が上がっている。

 クロエが言った。


「事が発覚したのは、盗品の取り引き現場を村の子どもが目撃したからです。この子はエレウシス人だったばかりに、盗賊たちは誘拐をした。殺されなかったのは運が良かっただけです。……さあペリテ、その時の話をしてあげて」


 ペリテは証言台に上がると、緊張した面持ちで話し始めた。


「う、うん。あたし、夜におトイレに行きたくなっちゃって。そしたら、知らない人が荷車で商品を配っていました。荷車をのぞいたら、お洋服がありました。きれいなお花の刺繍ししゅうのやつです。でも、そのお洋服は他の行商人さんのもので、盗まれちゃったって言っていました。なんでここにあるの? って思っていたら、袋をかぶせられて、さらわれました」


「その服についても裏が取れているわ。確かに他の行商人の持ち物で、盗賊に取られたと証言されている。証言の書類はここに」


 クロエが取り出した紙には、署名入りで証言の内容が書かれていた。


「盗賊のおうちで、あの人はあたしを殺すって言いました。でもロイドおにーちゃ……ロイドさんは、手荒な真似はするなって言いました。助けてくれたんです」


 ペリテが盗賊の首領を指差すと、彼はバツが悪そうに頭をかいた。

 聴衆のざわめきがさらに大きくなる。


「あんな子どもをさらって殺す?」


「いくらエレウシス人でもあんまりでしょう」


 ざわめきが引かないまま、次に発言したのはレオンだ。


「さらに盗賊どもは、子どもの誘拐を隠蔽いんぺいするために倉庫に火を放った」


 彼は続ける。


「放火は重罪。罪に罪を重ねて悪びれない。この盗賊は悪党だが、悪党を使役した者こそが最も重い罰を受けるべきだ」


「おいおい、騎士さんよ。俺らの減刑の約束、忘れちゃいないよな?」


 盗賊の首領が不安そうに言うが、レオンは黙殺した。


「盗品の取り引きの証拠は、証言の他に帳簿がここに。盗賊の被害を受けた行商人の証言と照らし合わせて、かなりの数が証明されています」


 ロイドが帳簿を掲げて見せた。裁判官が受け取って中身を確かめている。


「これは……確かに」


 短時間で行商人の証言を取り付けるのは大変な作業だったが、フリオとロイドが奮闘してくれた。

 ゴルトはぎりぎりと歯噛みしながら、射殺しそうな目でクロエとロイドを睨んでいる。


「そして最後に、もう一つ」


 クロエが言う。朗々とした声で。


「私は暗殺者に襲われました」


「な……!?」


「暗殺者に襲われただと? クロエ殿下が!?」


 裁判官たちが絶句する。聴衆たちもさすがにざわめきを止めて、息を呑んだ。

 いくら追放されたとはいえ、クロエは王女。一国の王女であり領主である彼女を殺すなど、これ以上の罪はない。

 静まり返った裁判の場で、クロエは静かに続けた。


「ただし、この件は他のものよりも証拠が弱い。ロイド?」


「はい。僕はゴルト会長から『クロエ殿下に暗殺者を差し向けた』と口頭で聞きました」


「馬鹿を言うな! わしはそのようなこと、言った覚えはない!」


 ゴルトが必死の形相で言い募る。今までの罪も相当に重いが、王族殺しが加わるとなれば最悪だ。たとえ王太子でもかばいきれないだろう。


「でっち上げだ! 口からでまかせを言っているにすぎない!」


「状況証拠ならあるのよ」


「な、なに……?」


 クロエの目配せを受けて、薬師のザフィーラが進み出た。


「わしはザフィーラ。ミルカーシュ出身の薬師でございますじゃ。暗殺者の毒を受けたレオン様を、クロエ様と共に治療しました。暗殺者の毒は特殊なもので、タクヌスとフルプレアの混合でした。このうちフルプレアは我がミルカーシュでしか採れない毒草で、しかも地域がかなり限られます。ミルカーシュ王国としても禁制の品。しかし毒は薬にもなりますでな、ごく一部の商会が許可制のもと扱っております。――セレスティア王国で扱っているのは、ゴルト商会だけですじゃ」


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