９話 戦の前兆
戦いに勝つために、生き残るために──ノルド──かつてクラウスと呼ばれた将軍──が選んだ道は、ただ一つだった。
奴隷兵としてこの砦に送られた者たちを、生かして戦場から戻すこと。
彼自身に残された責務は、それだけだった。
彼は彼らと向き合い、語り合い、必ず鍛え直して共に戦うと約束し、過酷な訓練を始めていた。
ノルドは、かつて最年少で将軍に抜擢され、数万の兵を動かした実績を持つ男だった。
その知略は戦局を動かし、数に劣る軍勢でも勝利を掴んできた。
しかし今、彼に与えられたのは、正規兵ではない。
名も知らぬ、傷ついた奴隷兵三千──だが彼にとっては、それで十分だった。
目の前の命を見捨てることはできない。
戦場に戻るならば、共に生きて帰る。そうでなければ、戦う意味すらない。
ノルドはそう決めていた。自ら先頭に立ち、時に膝をつき、兵と同じ地に身を伏せる。
砦の空気は、見えない刃のように張り詰めていた。
風も声も、石垣の影に吸い込まれて、どこか遠くへ消えていく。 その静けさの中で、ノルドは兵たちを見つめていた。
彼の周囲を囲むのは、重い鎖と傷だらけの肉体を持つ三千の男たち。 砦に配された奴隷兵部隊──他の将たちからは使い捨てと見なされていた者たち。
だが今、この部隊の中心にはノルドがいた。 兵士たちは彼の命令を受け、黙々と訓練に励んでいた。
声を荒げず、姿勢を崩さず、従う理由はただ一つ。 彼の言葉だけが、“生き残る”方法を知っていたからだ。
「おつかれさま、少しだけ休憩しませんか？」
その声は、剣ではなく花に似ていた。
マルレーネが、籠を抱えて現れた。 焼きたての芋の香りが風に乗って漂い、兵たちの頬にわずかな緩みを与える。
「今日はよく太ったのがあったの。……これで力をつけて。」
彼女が手渡す芋に、兵の一人が、感謝の言葉と共に手を伸ばした。
その仕草を見て、他の者たちも静かに列を作りはじめる。 鉄のように固まっていた空気が、すこしだけ、やわらいだ。
訓練は苛烈を極めていた。 ノルドは兵たちを個別に分類し、適性に応じて役割を与えていく。
腕力のある者は近接戦、軽い者は潜伏と速攻。負傷兵には補助と罠工作。 どんなに不揃いな駒でも、配置次第で刃となる──それが、彼の戦法だった。
「傷、見せてくれる？」
マルレーネがそっと膝をつき、兵の手に包帯を巻いていた。
自分の火傷もそのままに、相手の痛みに手を伸ばす。
「がんばってね。みんなでがんばって、みんな死なないで。」
兵は言葉も返さず、小さく頷いた。
泥に潜る。敵の中に紛れる。死体に交じって気配を殺す。
ノルドが教えるのは、栄光から最も遠い戦い方だった。 それでも彼は言う。
「勝てぬなら、欺け。騙して、逃げろ。相手に死んだと思わせろ、背後を見せさせろ。──生き延びろ。」
マルレーネが洗濯物を抱えて砦に戻ってきた。
「血は乾くと体によくないの。大変だと思うけど、あきらめないで。」
誰もが口を開かない中、その言葉は静かに胸に沈んでいった。
再び、訓練が始まる。
訓練場には重たい空気が流れ、汗と泥が混じり合う。 敵の足跡を読む技術。一瞬で罠を仕掛ける速度。
死地を生き抜く知恵を、ノルドはすべて教えた。
「その髪では敵の動きが見えないわ。」
マルレーネが一人の兵の前にしゃがみ、研いだ小さな鎌を手に取る。 ごつごつした肩に布をかけて、手早く切りそろえる。
これで、大丈夫。相手の動きもきっとよく見えるはず。」
兵の目元が、わずかにほころんだ。
「戦争とは騙し合いだ。」ノルドの言葉だ。 その哲学が、この部隊のすべてに染み込んでいた。
生き残るために、誇りも手段も選ばない。 だが──誰も彼を卑怯者とは呼ばない。
なぜなら、彼は常に兵を“死なせない”ために戦っていたからだ。
「街の人も言ってたよ。“この砦の兵、何かが変わった”って。」
砦の入り口でマルレーネがそう声をかけた。 あどけない言葉に、一瞬だけ、数人の兵が振り返る。
ノルドは、そんな兵たちを見て、小さく頷く。 命令では得られぬ信頼が、静かに根を張っていた。
再び、泥に体を沈める訓練が続く。 重い足取り、曇った眼差し。
それでも、一歩ずつ、彼らは“戦える者”へと近づいていった。
その夜、マルレーネは寝付けずにいた若い兵の横に座った。
「皆、怖いの。私も怖い。でも……あなたなら、十人相手でも勝てるわ。」
その冗談のような優しさに、兵は少しだけ目を閉じた。
砦の門に伝令の声が響いた。
「敵軍、接近中！ 黒い鷲の旗を確認！」
ノルドは、これから始まる熾烈な戦いを予感していた。
ノルドは、全員を見渡して言う。
「……ここまでだ。あとは、お前たち次第だ。」
奴隷兵たちは正規兵に組み込まれ、真っ先に死地へ向かう──それは、ノルドも同じだった。
返事はなかった。だが、その沈黙こそが覚悟だった。
雨が降り出した。マルレーネが濡れた兵の肩に布をかける。
「風邪なんか引いたら戦えないわよ。……ちゃんと勝って、帰ってきて。」
そして、彼女は小さく息を吐く。
「私は、みんなが好き。……必ず、戻ってきて。」
あふれる涙を必死にこらえ、気丈に言い切った。
ノルドが顔を上げる。マルレーネと目が合った。
その目にあるものは、恐れではなかった。
「……クラウス……生きて、帰ってき……」
彼女は、最後まで言えなかった。目は真っ赤に腫れていた。
そしてノルドは、深く静かに、頷いた。
この話は、chatGPTが旨く書いてくれた。
総合評価：97 / 100点 おもしろいかな
chatGPTでは、自ら案を出すのは無理。案は私が考えた。
会話もぼろぼろ、無理やり、地の文に合わせて泣ける話とした。
