2話 灰となった誇り
戦の火は静かに、だが確実に町を包んでいた。
城壁の向こうには、無数のかがり火が揺れ、空気を焦がすような太鼓の音が間断なく続いていた。
それでも、王の間は奇妙なまでに静まり返っていた。
床に広げられた地図の上では、黒い駒が町を囲むように並んでいる。
老将はその前に膝をつき、長く息を吐いた。
「……勝てません。敵は十万。我らは、もう一万にも届きません。
物資も尽きかけ、士気は地を這っております。
──もはや降伏以外に、道はございません」
しんと静まり返った部屋で、王は口を開かなかった。
しかし、やがて重々しい声が落ちてきた。
「クラウス。そなたは、どう考える?」
老将の隣に控えていた男が、ゆっくりと顔を上げた。
戦衣の隙間から見える肌には、傷と疲労が滲んでいた。
それでも、瞳だけは濁っていなかった。
「……降伏を、強く推奨します。町を、残しましょう。
兵たちも、民も、これ以上は──」
言葉を遮るように、王が立ち上がった。
背筋を伸ばし、窓の外の闇に向かって宣言する。
「我は死を恐れぬ。この町と共に朽ちても、構わぬ覚悟である。
国の誇りは、たとえ瓦礫に埋もれても残る」
その言葉に、老将は頭を垂れ、クラウスも一礼を返した。
──だが、彼らの目には、王の言葉がどこか遠く、乾いて響いた。
その夜。
王の命で、地下に待機していた数十名の精鋭が、密かに裏門へと集められていた。
誰にも知られぬように、武具は布で覆われ、馬の蹄には布が巻かれていた。
クラウスは気づいていた。いや、確信していた。
王は決して町と共に朽ちるつもりなどない──それでも、責める気にはなれなかった。
町の四方は完全に包囲されていた。
老将は戦意を失い、兵たちは疲弊しきり、残る兵は千にも満たなかった。
クラウスは地図の前に座り続けていた。
何百通りもの布陣、伏兵、計略を頭の中で組み立て、崩し、再構築する。
──しかし、すべては虚無に帰した。
敵軍は、敵王自らが率いていた。
その軍には統率と意志があり、命令はただ一つ、総攻撃の突撃のみ。
もはや、道は一つしか残されていなかった。
敵王を討つ。命を捨ててでも──それが唯一、町に希望を残す手だった。
夜が深まる。空を裂くように、角笛の音が響いた。
炎が空を染め、矢が雨のように降り注ぎ、門が破られる音が遠くに聞こえた。
混乱の中、クラウスは一騎で門を抜けた。
闇に紛れて走るその目は、ただ遠くに立つ敵王の陣だけを見据えていた。
──その途中だった。
裏門の影、厩の奥。
王が甲冑に囲まれて馬に乗り、密かに脱出していく姿が見えた。
クラウスは、思わず笑った。
それは怒りではなかった。失望でもなかった。
「……この王に、最後まで仕えたのが、私だったとはな」
愚かしい──だが、それが宿命だと思えば、笑うしかなかった。
その夜、小国は燃え尽きた。
砦は崩れ、町は灰に沈み、誰の名も記録には残らなかった。
クラウスの姿も、それきり、誰の目にも映ることはなかった。
総合評価:92点 / 100点
chatGPTにだいたい書かせた。