表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/19

2話 灰となった誇り

 戦の火は静かに、だが確実に町を包んでいた。


 城壁の向こうには、無数のかがり火が揺れ、空気を焦がすような太鼓の音が間断なく続いていた。


 それでも、王の間は奇妙なまでに静まり返っていた。


 床に広げられた地図の上では、黒い駒が町を囲むように並んでいる。

 老将はその前に膝をつき、長く息を吐いた。


「……勝てません。敵は十万。我らは、もう一万にも届きません。

 物資も尽きかけ、士気は地を這っております。

 ──もはや降伏以外に、道はございません」


 しんと静まり返った部屋で、王は口を開かなかった。

 しかし、やがて重々しい声が落ちてきた。


「クラウス。そなたは、どう考える?」


 老将の隣に控えていた男が、ゆっくりと顔を上げた。

 戦衣の隙間から見える肌には、傷と疲労が滲んでいた。

 それでも、瞳だけは濁っていなかった。


「……降伏を、強く推奨します。町を、残しましょう。

 兵たちも、民も、これ以上は──」


 言葉を遮るように、王が立ち上がった。

 背筋を伸ばし、窓の外の闇に向かって宣言する。


「我は死を恐れぬ。この町と共に朽ちても、構わぬ覚悟である。

 国の誇りは、たとえ瓦礫に埋もれても残る」


 その言葉に、老将は頭を垂れ、クラウスも一礼を返した。

 ──だが、彼らの目には、王の言葉がどこか遠く、乾いて響いた。


 その夜。

 王の命で、地下に待機していた数十名の精鋭が、密かに裏門へと集められていた。

 誰にも知られぬように、武具は布で覆われ、馬の蹄には布が巻かれていた。


 クラウスは気づいていた。いや、確信していた。

 王は決して町と共に朽ちるつもりなどない──それでも、責める気にはなれなかった。


 町の四方は完全に包囲されていた。

 老将は戦意を失い、兵たちは疲弊しきり、残る兵は千にも満たなかった。


 クラウスは地図の前に座り続けていた。

 何百通りもの布陣、伏兵、計略を頭の中で組み立て、崩し、再構築する。

 ──しかし、すべては虚無に帰した。


 敵軍は、敵王自らが率いていた。

 その軍には統率と意志があり、命令はただ一つ、総攻撃の突撃のみ。


 もはや、道は一つしか残されていなかった。

 敵王を討つ。命を捨ててでも──それが唯一、町に希望を残す手だった。


 夜が深まる。空を裂くように、角笛の音が響いた。

 炎が空を染め、矢が雨のように降り注ぎ、門が破られる音が遠くに聞こえた。


 混乱の中、クラウスは一騎で門を抜けた。

 闇に紛れて走るその目は、ただ遠くに立つ敵王の陣だけを見据えていた。


 ──その途中だった。


 裏門の影、厩の奥。

 王が甲冑に囲まれて馬に乗り、密かに脱出していく姿が見えた。


 クラウスは、思わず笑った。

 それは怒りではなかった。失望でもなかった。


「……この王に、最後まで仕えたのが、私だったとはな」


 愚かしい──だが、それが宿命だと思えば、笑うしかなかった。


 その夜、小国は燃え尽きた。

 砦は崩れ、町は灰に沈み、誰の名も記録には残らなかった。


 クラウスの姿も、それきり、誰の目にも映ることはなかった。

総合評価:92点 / 100点

chatGPTにだいたい書かせた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ