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炎の戰乙女  作者: 合歓稲
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第4話 皇帝の告白

彼女は、何度も何度も心の中で問い続けていた。

――なぜこの人は、こんなにも優しくしてくれるのだろう。

だが、それを口にすることはできず、ただ彼の腕の中で身を委ねていた。


ふと、彼の手がそっと彼女の頭に触れ、優しく撫でた。

驚いた彼女が視線を上げると、彼はただ静かに、温かな眼差しを向けていた。


「君に話したいことがある」


その言葉は、柔らかく、それでいて何かを決意した声音だった。

そして、彼の口から紡がれたのは、彼女にとって信じがたい内容だった。


「君は…死にたいと思っていたことを、初めて出会ったときから感じていたよ。

心の中で、誰かに終わらせてほしいと――そう叫んでいた」


「そして、俺と剣を交えた時に『大陸一の剣士…この人なら』と」


その言葉に、彼女は息を呑んだ。

間違いなかった。剣を交えた瞬間、彼の強さに圧倒され、

同時にこの人なら自分をこの苦しみから解放してくれると、そう願っていた。


「でも…俺は、君を殺したくなかった」


彼の言葉が、静かに、だがはっきりと胸に届いた。


そう、確かに彼の剣には――殺意がなかった。

命を奪うための剣ではなく、彼女を救おうとする意志が、そこにはあった。


「精霊を通して、君の心の叫びは痛いほどに感じていた。

何度も剣を交える中で、君から伝わるその思いとは裏腹に、俺は君に惹かれていった」


「戦場の外で、君はどんな表情をするのだろうか。

もし、君が“生きる”ことを選んだなら、何を思い、何を望むのだろうと…」


「そして――君の笑顔を見たいと、そう思うようになったんだ」


その言葉に、彼女の頬は熱を帯びた。

恥ずかしさに耐え切れず、目を逸らし、顔を伏せる。


「今日の昼間、君が窓の外を見つめながら浮かべた笑顔…美しかった」


「えっ……」

自分でも気づかぬうちに、笑っていたのか。

それを、彼に見られていたなんて――。


恥ずかしさは頂点に達し、彼女はさらに俯いてしまった。

だが、彼の言葉は止まらない。


「今まで多くの人と接してきたが、誰かに特別な感情を抱いたことはなかった。

けれど――君だけは違った。

心が騒ぎ、目が離せなくなっていた」


そして、彼は優しく、しかし真っ直ぐに言った。


「君が好きなんだ」


その一言に、彼女の心は大きく揺れた。

あまりに不意で、あまりに真っ直ぐで――。


「…あ、あの、私…!そんなことを言われるような存在じゃありません…!」


思わず飛び出した言葉。

だが、彼は穏やかに首を横に振った。


「もちろん、君の気持ちは尊重する。だが、これは俺の正直な想いだ。

だから――君に憐れみで接しているわけじゃない。それだけはわかってほしい」


それは、まるで彼女が心の中で問いかけていたことを見抜いたかのような言葉だった。


今までの人生で、自分を“人”として見てくれたのは、これで二人目。

そして、彼女は気づいた。


――私を、本当に“ヒト”として見てくれている人が、ここにいる。


そう確信したとき、彼女はようやく、心の奥に抱えていた想いを、

少しずつ、彼に打ち明けようと決意した――。

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