ベッドの誘惑
五人の治療を終え、宿に帰るとそこでは元気になった旦那が宿屋の厨房で腕を振るっているところだった。
「おう!帰ってきたな!今晩飯出してやるから待ってろ」
「あんたのおかげであたしにも日常が戻ったよ、本当ありがとう。ささ突っ立ってないで座った座った」
女将さんに促されるまま席に着くと続々と料理が運ばれてくる。なんかデカイ肉やら美味しそうなパンやら・・・
「あの女将さん、普通でいいですからね?残念ながら五人治療したものの金はさっぱりだったので」
「今晩だけでいいからご馳走させてくれよ。あんたがいなきゃ夫婦共倒れだったかもしれないんだ。せめてもの感謝だよ。明日からはふつーのご飯だからねっ」
「そうだ、今晩だけ特別だから今晩は特別しっかり食え!」
二人して楽しそうというか嬉しそうに振る舞ってくれるなら断るのも悪いというもの。しっかり全部出されたご馳走を平らげてから俺は部屋へと向かった。
あぁもう何も食べられない・・・
ふかふかのベッドに誘われるよう倒れるとそのまま夢の中へと・・・あぁやっぱり人間野宿はダメだって、ベッドでしっかり寝ないと・・・
翌朝、もう昼近くになろうかという時間、静寂は破られた!
「ちょっとあんたいつまで寝てるのさ。死んでないだろうね!?朝ごはん食べて仕事しな。患者があんたを待ってるよ」
おかん顔負けの迫力と布団ひっぺがしで一気に目が覚めた・・・惰眠を貪りたいところだけど、確かに仕事はしなければならない。というか患者が待ってるってなんだ、昨日の五人はばっちり治したのだが。
女将さんに引っ張られながら下へと降りるとそこにいたのは三人。子供一人に大人の男女。
「ほら、この子の手がやけどで酷いことになってるんだって。」
言われた通り子供の手を診ようとするも身体の後ろにさっと手を回されてしまう
この感じだとたぶん最近のやけどじゃないな。他人に見られて何か言われた子の反応だ。あるいは悪戯か何かしてやらかしたか。
まぁどっちにしろやることは変わらない。
「どうする、そのやけど治したくないかい?選ぶのは君だよ」
少ししゃがみ目線を合わせる。治療において強制などありえない、同意が取れないなら俺は朝飯食って外に仕事を探しに行く。治して欲しい患者はどこかにいるだろうから
「お願いします、やけどのせいか指も動く動かないみたいで」
「ただで治してくれるって聞いたんだ、頼むうちの息子の手を治してくれ」
この時点で俺としてはやる気がなくなっていた。誰だタダって言ったアホは。
「タダじゃない、治療費はもらうよ。払える金額を払いたいと思う金額だけな。タダで治してもらおうとするなら他所に行ってください」
俺の言葉に夫婦は愕然としていた、本気でタダで治してくれると思ってたのだろうか。そんなヤツこの世にいるのか?どんな甘い世界だここは
「ほら帰ろうよ、僕の手を治してくれる人なんていないんだから」
そういって二人の手を取ろうとする子供の右手は確かにやけどの跡が。
初作品となりますがいかがでしょうか?
ブックマーク、いいね!と星頂けると喜んでもっと早く投稿できますのでぜひお願いします