騙す者と騙される者
セイジらが帰った後のマルボロン王城の中は荒れた
正確には王城のとある一室だけなのだが
「それで兄上、なぜそのような言動になられたのですか。昨日までの素直な兄上はどこに行かれたので?頭でもぶつけたのなら聖人に診てもらいましょう」
第二王子がそうも言いたくなるのも仕方ないだろう、それほどまでに第一王子ホアンの変わりようは凄まじいものだったのだから
「何を言うかと思えば。頭なんぞぶつけておらんわ。それより時間が惜しい、研究所及び研究員の育成施設の場所選びをせねばならん。国絡みの事業だ、場合によっては王太子殿下のサインもいるからあとで書類に目を通してくれ」
黙って頭を抱える第三王子であり現王太子のフリードは事態に追いつけないのか、それとも爆発したいストレスでか頭を抱え無言であった。
「兄上、説明してください。俺もフリードもそのお姿に納得できないのです、もしや別人が入れ替わった可能性すら疑うほどに」
去ろうとするホアンの手を第二王子テンスが掴み止める
これまで兄弟仲は悪くはなかったものの、特別良くもなかった三人
なんせ一人は奔放一人は黙々鍛錬、一人は病床でとそれぞれ別々の道を歩いていたのだ。
それが今久しぶりに一つの道を歩いている以上話し合いは必要だったろう
「やれやれ、時間がないというのに。別人に入れ替わる、それはある意味正しい。これまで俺は愚か者の振りをしていたのだからな。しっかりみんな騙されて、信じてくれていたのだろう?大変だったのだぞ、皆に隠れてこっそり勉強などするのは。講師も愚か者相手では真面目に教えてはくれないしな」
溜息混じりにそう説明し出すホアンに二人の王子は口を開けて呆然とする。これまでそれこそ10年近く見てきた兄の姿が偽りのものだったのだから驚くのも無理はないのだろう
「な、なぜそのような。そんなことをする意味がないではありませんか。そうすれば今も王太子でいられたのでは?」
「別に俺は王太子でありたかったわけではない。俺が守りたかったのは国だ、それこそ王侯貴族の務めだろう。考えてもみろ、俺がもし真面目に王太子なんぞしてたらどうなるか。まず間違いなく貴族からの妨害がくるぞ、父上と違って周りの貴族の好きにさせる気はなかったしな。そうなると俺の暗殺あるいはお前らのどちらか、それか両方を指示する貴族が出て国が混乱する。最悪内乱もあり得るわけだ、隣国との関係もイマイチな状態で」
そうなれば内乱の隙に乗じて開戦されかねない、そう幼くも10歳の頃に書物と、それとぼーっと聞いていた講師の話から察してしまったホアン王子は決めたのだ。無能なふりをしておこうと
そうすれば今の貴族らも自分を黙って支持して他の王子には手を出すまいと
その結果、対抗馬になりうる病床の第三王子も無事これまで生かされて続けていたのだ。
「・・・すべては僕のために・・・?」
「まさか、すべてなどフリードに一人押し付ける気はない。言ったろう、国のためだ」
そうは言うがホアン王子の顔は少しだけ笑っていた。今まで愚か者の振りをしていたホアンだが、この時の表情は疑いたくない、そう思い二人の王子も一緒に笑ってしまった。
その後談笑はしばらく続き、特に第二王子テンスの聖人との旅の話は二人にとって愉快な笑い話だったらしく室内が笑いにつつまれる
笑い話にまだできないのはテンス本人だけだったろう・・・地獄のような不眠の旅を
初作品となりますがいかがでしょうか?
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