有能であれども（断罪編）
頂いた報酬をエリーゼさんと半分こにしながら、さて次の町へはどう行こうかと相談中、ちらりと馬車が目に入った。
あれで行ければいいのだけれど、この先の町もやはり流行り病中らしく運航を停止してるらしいのだが
「ああお二人でしたら北東の町まででしたらお送りしますよ、確かに流行り病はコワイですが帰りに治療してもらえるのでしたら喜んでお運びしましょう！もちろんお代は結構です」
治療した患者の一人が手を上げてくれた、治療の恩義を感じてくれたのかもしれないが報酬をもらった以上こちらも仕事としてやったこと。それ以上は貰い過ぎになってしまう
とはいえ運んでもらえるのはありがたいので好意に甘え運んでもらうことに。ただし、着いたときにしっかり報酬として銀貨５枚ほど渡しておくのは忘れなかった。
「いいんですか？こんなに」
「もちろん。たった二人のために馬車を出して、しかも流行り病で怖かったでしょうに。ありがとうございました」
こうしてエリーゼとセイジは二人で町を移動しながら流行り病はもちろん怪我などを治療し歩いていた。その噂は寄った町以外にも流れており、流れの聖女様がいると人々の中で言われていた。
実際はごりごりの体格のいい男だったのだが。隣にいるエリーゼの姿と混じったのか、噂とはそういうものらしい
そしてそんな噂が流れている頃、ある町の執事の身に不幸が舞い降りることとなった。
領主の館ががれきの山になり、さてどうしたものかと住んでいたもの全員が途方に暮れる中でその領主が王都より帰還してしまったのだ
「ななな、なんじゃこりゃー！？わしの屋敷がどうしたんじゃこりゃ！！」
「お怒りはごもっとも、しかし領民を責めないでやってくださいませ。この流行り病で怒りの矛先を失った領民たちのはけ口だったのでしょう。幸いにして死傷者はおりません」
自分の行いが悪かったと思ってなどいない執事はもちろん詳しい説明などしない。当たり前のことをしただけだと思っているのだから。
「何領民が！？流行り病で籠っていてストレスが溜まったか・・・しかしそれにしてもなんでわしの屋敷を。というか随分大通りが活気にあふれていたが流行り病はどうした？わしが聖女様派遣の嘆願をしている間に収まったのか？」
「はい、どうやらみな無事に治ったようでして。こうして元気に過ごしております、元気過ぎて屋敷を壊すくらいには」
セイジが治したと確認していないのもあるのか執事は一切そのことに触れない。勝手に治って勝手に暴れたのだと、それはある意味で間違っていないのだろう。あきらかに事実とは思えないだけで
「そうかそうか、それは良かった・・・では管理人に詳しい話を聞きたいから呼んでくれ。報酬も弾まなくてはな！隔離施設の管理など危険な仕事を引き受けたのだから」
管理人の話が出てようやく執事の額に汗が流れた。まずい、と
「万一があってはなりません、管理人も感染してないとも限りませし私が話を聞いて参りましょう」
もちろん上手く丸め込む気だったのだが、それは既に遅かった。
執事が何をしたのかを、この町で知らないものなどいないのだから。それはこの屋敷にいたものも例外ではない
「それには及びません、既に使いのものをやって呼びに行かせましたので」
そう答えのはメイド長であった。その目は明らかに怒っており、視線だけで人が殺せるのではと思わせるほど。その目に領主も違和感を感じていた
その答えはすぐに分かることに
管理人の口から語られたのは執事の人とは思えない所業。確かに合理的な判断ではある、ある意味間違ってなどいない。しかし治ったかどうかの確認もせず、飯は出すからそこにいろなどと町の恩人にあるまじき行為
「しかもその恩人は早々に町を去り次の町に治療へと向かったというではないか！それを何が勝手に治っただ！お前には人としての良心がないのか！！領民が屋敷を壊すのも当たり前だろう命があっただけ感謝しろ！」
領主と周りにいる者の怒りに執事はその場にへたり込む
そしてさらに悪いことにこの執事、実は執事ではなく家を取り仕切る家令だったのだ。特に主人不在の間はＮＯ１となりそれに逆らえるものはいなかったろう
「お前のようなものは我が領地には不要だ、どこへなりとも出ていけ。もちろん紹介状など恥ずかしくて出せん！市民が払った額と治療してくださった方への謝礼はお前の貯金から徴収する、銀貨１０枚以外置いて出ていけ！」
「お、お待ちください。私はただこの町のことを考えて行ったに過ぎないのです！結果感染は最小限に留まり、死者の数も抑えられたではありませんか」
「本当に治っているかの確認もせず、結果恩人を閉じ込めた言い訳がそれか。やはりお前は無能だったらしい、平時にしか使えぬものなど不要だ。首があるだけマシと思え」
男の貯金はセイジが市民からもらった額よりはるかに高い、謝礼を加えてもほぼ男の全財産ということもなかった。それが銀貨１０枚まで減らされるのは少なからぬ謝意を見せるためだろう
バカ者は処罰した、という
ただ残念ながらセイジが謝意とこのお金を受け取ることは無いのだが・・・
初作品となりますがいかがでしょうか？
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