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第43話 すれ違い その1

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 第43話 すれ違い その1


「城山君、ちょっと相談したいことがあるんだけど…」


 放課後の教室で、西園寺が大輔に声をかけた。大輔は軽く驚きながらも、西園寺の表情が真剣だったため、無視することもできず頷いた。


「西園寺君。なんの話?」


 西園寺は少し戸惑った表情を浮かべながらも、話を切り出した。


「実は、隣のクラスの鈴木美香さんのことが好きになったんだ。それで、放課後に告白しようと思っているんだけど、呼び出すための手紙を書こうと思うんだ。俺は、自分の秘密を話すのに城山君が一番安心できると思ったから今話ているんだ。」


「えっ、僕でいいの?」


 西園寺は頷き、さらに話を続けた。


「実は今右手が痛くて、文字を書くのが少し難しいんだ。だから、僕の言う通りに手紙を書いてくれないかな?」


 大輔は一瞬迷ったが、西園寺の真剣な表情を見て、しぶしぶ了承することにした。


「分かったよ。でも、本当に僕でいいの? 手が治ってから自分で書いた方が良いんじゃない?」


「いや、今の気持ちを早く伝えたいんだ。それに君なら大丈夫だよ。信頼してる。」


 西園寺は少し照れたように微笑み、大輔に感謝の意を伝えた。


 教室の一角で、大輔は西園寺の言う通りに手紙を書き始めた。内容はシンプルで、しかし少し緊張感を漂わせるものだった。




 こんにちは。

 突然ですが、お話したいことがあります。

 もしよければ、放課後に本館4階で少しだけ時間をもらえませんか?

 待っていますので、来ていただけると嬉しいです。

 よろしくお願いします。




「流石に名前は自分で書くよ」と西園寺は言い、大輔は手紙を手渡した。「うまく行くといいね」と、大輔は応援の気持ちを込めて微笑んだ。





 次の日の昼休み、西園寺は浅見結衣に手紙を差し出しながら声をかけた。


「浅見さん、この手紙が教室の廊下に落ちてたんだけど、これ…なんだと思う?」


 結衣は怪訝そうな表情を浮かべながら手紙を受け取り、開かれた封の中を確認すると、内容を読み始めた。


「これって…告白の手紙…?」


 結衣の目が驚きで見開かれた。しばらくの間、手紙をじっと見つめていたが、やがてその視線は特定の文字に留まった。


「この字…まさか…でも、あり得ないよね?」


 結衣は一瞬言葉を飲み込み、手紙を握りしめるように持ち直した。彼女の心がざわめき、不安と疑念が入り混じる。西園寺の前で動揺を見せまいと、軽く首を振って自分を落ち着かせる。


「ちょっと、もう一度見せてくれる?」


 結衣はわずかに震えた手で手紙を取り直し、今度は文字を一つ一つ丹念に見つめた。その瞬間、彼女の顔から血の気が引いた。


(これ…間違いない…大輔君の字…でも、なぜ?)


 内心の動揺を隠し切れない結衣を見て、西園寺は軽く肩をすくめ、口元にわざとらしい笑みを浮かべた。


「あれ?誰が書いたか分かったのかな? もし、落とした人がいれば返さないといけないし……」


「い、いえ…何でもないです。」


 結衣は言葉を絞り出すように答えたが、その目はなおも手紙から離れず、何かを探し求めるかのように揺れていた。




 次の日の昼休み、大輔の元に西園寺が申し訳なさそうな表情でやってきた。


「ごめん、城山君。昨日の手紙、どうやら落としてしまったみたいなんだ…」


「えっ?それは大変だね。また書こうか?」


 大輔は申し出るが、西園寺は首を振った。


「大丈夫だよ。もう手もだいぶ良くなったから、次は自分で書くよ。本当にありがとう。」


 大輔は少し安心したように微笑み、「それならよかった」と言って別れた。


 しかし、次の日から結衣の態度は急に冷たくなった。大輔が何か話しかけても、素っ気ない返事しか返ってこない。その変化に、大輔は戸惑いを隠せなかった。


「結衣さん、なんか最近元気ないみたいだけど、どうかしたのかな?」


 放課後の教室でみゆきに尋ねるが、みゆきはただ曖昧な笑みを浮かべるだけで、明確な答えはくれなかった。咲希も何か言いたげだったが、口を閉じてしまった。


(なんだろう…何か、僕が悪いことをしたのかな?)


 心が重くなる大輔は、放課後、いつもの神社へと足を運んだ。夕陽が沈みかけ、辺りは赤く染まっていた。


 石段を登り、境内に辿り着くと、大輔は静かに石段に腰を下ろした。夏になり風が生暖かく、彼の頬を優しく撫でる。すると、知らぬ間に涙が頬を伝っていた。


「僕…何か、悪いことをしたのかな…?」誰に聞くでもなく呟く。


 思い切って、スマートフォンで結衣にライムを送るが、既読にはなるものの返事は返ってこない。その画面を見つめる時間が、どれだけ長く感じたか知れない。


(また、あの孤独な学校生活に戻るのかな…)


 夕陽が完全に沈む頃、大輔はベンチから立ち上がり、ゆっくりと神社を後にした。彼の心には、かつて感じたことのある痛みが再び広がっていた。


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