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第4話 告白

 昼休みの鐘が鳴り響き、教室が賑やかになった。やっと昼休みだけど、大輔はいつも通り、誰にも声をかけられずにそっと立ち上がった。弁当を持って、屋上へ向かう階段へ足を運ぶ。そう。僕のお気に入りの場所は、鍵がかかっているから絶対に誰も上がってこない屋上への階段。ここはボッチには最高。ここなら誰にも邪魔されず、ゆっくりと自分の時間を過ごせる。

 階段の途中に腰を下ろし、弁当を広げていると、下の方から声が聞こえてきた。


「浅見さん、ここまで呼び出して悪い。ちょっといいかな?」


 その声はどこか緊張していて、大輔は自然と耳をそばだてた。階段の隙間から見えるのは、上靴の色からおそらく3年生の少しイケメンの先輩と浅見さんの姿。


「浅見さん、俺は…ずっと君のことが好きだったんだ。よければ付き合って欲しい。」


 大輔の心臓がドキリと跳ねた。思わず視線を隙間に集中させてしまう。まさかこんな場面に遭遇するとは。


「君の笑顔や優しさに惹かれたんだ。お願いします!!」


 その言葉に、浅見はしばらく黙っていた。大輔は息を潜め、次の展開を待っていた。

 やがて、彼女は軽く息をつき、冷静に返事をした。


「優しいって言っていただき、ありがとうございます。でも、ごめんなさい。先輩とは、あまり話したこともないし…よく知らない相手と付き合うのは無理です。実は、中学の頃からずっと告白されることが多くて、正直、もう嫌なんです」


 彼女の声には、疲れたようなトーンが混ざっていた。先輩は言葉を失ったようだったが、やがて小さくうなずいた。


「そうか…ごめん、無理させて」


 そう言って、先輩は下を向きながら階段を下りていった。大輔は息を殺し、先輩が通り過ぎるのを待った。モヤモヤした気持ちが心の中に残っていた。


「浅見さん、告白に…疲れてる?」


 結衣はしばらくの間、じっとその場で立っていた。深いため息をつくと、彼女も静かに階段を下りていった。結衣は、大輔の存在には気づかないまま、昼休みの残り時間を終えた。

 昼食前にすごい場面を生で見てしまった。人生で初めて遭遇したけど、する方もされる方も大変だな。僕の場合は、お付き合いというより、友達が先だけどな。


 放課後、大輔はずっと心に引っかかっていた気持ちを整理するため、八坂稲荷神社に向かっていた。ここで夕日でも見て帰ろうかな。人のことなんだけど、モヤモヤするし。何より、心がとても落ち着くのだ。

 神社の境内の入り口の夕日が見える位置へ座り夕焼けで光がオレンジ色に染まっている景色をぼんやり見ていた。


 浅見さんが告白を断った理由…かぁ。浅見さんは、あれだけの美人であれば、何回も告白を受けたことはあるよな。だけど、彼女がそれに嫌気が差していると知り、驚きを隠せなかった。自分は、いつも声をかけるのが大きなストレスだった。ただ、断るのも同じくらいストレスだったんだな。確かに相手を傷つけるしな。そりゃ、ああなるか。しかも友達じゃなくて恋人でしょ。僕も浅見さんと同じ意見だけど、綺麗ってだけでなんで恋人にしたいんだろうな。ちょっと妹の葵にも相談してみようかな。

 そんなことをつぶやきながら、ふと石段を見下ろすと、誰かが登ってくるのが見えた。夕焼けに照らされたその姿は、浅見結衣だった。


「えっ、また…?」


 彼女が神社に来るとは思わず、大輔は驚いた。階段をゆっくりと登る結衣の姿は、どこか疲れているようにも見えた。やがて彼女が石段の上にたどり着くと、大輔と目が合った。


「城山君…? どうしてここに?」

「え、僕? いや、たまたまここで夕焼けを見てただけだよ。ここの夕日って最高なんだよ。浅見さんこそ、どうしたの?」

「私も…ただ、ここに来たかっただけ。今日はちょっと色々あって、ね」


 二人は言葉少なに石段に座り、しばらくの間、夕焼けを見つめた。沈みゆく太陽が、二人を静かに包んでいる。

 夕焼けが境内をオレンジ色に染める中、大輔と結衣は八坂稲荷神社の石段に座っていた。結衣が疲れたようにため息をつく姿を横目で見ながら、大輔は思い切って口を開いた。


「浅見さん。今日屋上で告白されていたの見ちゃったんだ。ごめん。黙っているのもいけないと思って。」

「そう、見られてたんだ」

「ごめん、僕はいつもあそこでお弁当食べているんだ。ごめんなさい。わざとではないです。信じてほしい…」


 大輔は申し訳なさそうに言うと、結衣は軽く肩をすくめて、笑ってみせた。


「別に、隠すようなことでもないし。でも…あんな場面見られちゃうとちょっと恥ずかしいね」


 結衣がそう言いながら、足元に目を落とす。大輔は少し間をおいてから、再び口を開いた。


「僕は告白されたことなんて当然ないけどさ、断るのって、精神的にかなり疲れるよね。それは経験がなくても、さすがにわかる」


 結衣は驚いたように大輔を見つめた。彼がそんな風に感じているとは思わなかったのか、彼女の表情が少し柔らかくなった。


「でも、浅見さんはちゃんと自分の言葉で答えてた。すごいと思うよ。だって、断るのってすごい勇気がいることだろうし、すごいストレスだよね」


 結衣は一瞬、目を見開いたが、やがてゆっくりと頷いた。


「そうだね…本当にそうかも。告白を断るのってすごく疲れるんだ」

「うん、それはなんとなくわかる。僕は人とあまりコミュニケーションを撮るのが得意ではないから、告白されるなんて場面に立ったことはないけど、想像するだけでかなり大変そうだなって思う。」


 大輔は少し気恥ずかしそうに笑いながら続けた。


「それに、輪の中心にいるってのも大変そうだよね。みんなに合わせたり、自分だけの意見を貫けなかったりすることも多いだろうし…」


 結衣は大輔の言葉をじっと聞いていた。彼がそうやって、自分の立場や気持ちを理解しようとしてくれることが、少し意外で、少し嬉しかった。


「でも、僕みたいなボッチはボッチでさみしいよ。だけど、人に合わせなくて楽ってのもあるんだ。まあ、自虐みたいだけどね」


 大輔が少し照れ笑いを浮かべると、結衣もくすっと笑った。


「城山君、意外と自己分析できてるんだね」

「まあ、ね」


 大輔は少し照れながらも、結衣の笑顔に少しだけ安堵していた。彼女が少しでも元気になってくれたのなら、それで良かった。


「ありがとう、城山君。誰かにこうやって話せて、少しだけ楽になった気がする」

「そうなら良かった」


 二人はしばらく無言のまま、夕焼けに染まる空を眺めていた。風がそっと吹き抜け、心地よい静寂が二人を包み込んでいた。


「そろそろ帰ろうかな」


 結衣が立ち上がり、伸びをしながら言った。大輔は隣でその様子を見ていたが、すぐには立ち上がらなかった。


「城山君、ありがとうね。今日は少し楽になったよ」


 結衣はそう言って微笑み、軽く手を振りながら石段を下り始めた。大輔はその背中を見送りながら、小さく手を振り返した。


「どういたしまして…」


 結衣の姿が見えなくなると、大輔は再び空を見上げ、ぼんやりと夕焼けを眺め続けた。彼女と話した時間が、まだ心に温かく残っているようだった。


「もう少しだけ…ここにいようかな」


 そう呟きながら、大輔は夕焼けの中で一人、静かに心を落ち着ける時間を過ごした。


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