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第36話 文化祭 その1

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 第36話 文化祭 その1


 文化祭当日、学校は朝から活気に満ちていた。各クラスの出し物や展示が並ぶ中、大輔のクラスのカフェも大盛況だった。


 その理由は、結衣と西園寺の美男美女コンビが接客をしていたからだった。彼らがいるだけで店の雰囲気は華やかになり、外から見ている生徒たちや一般のお客さんも次々と引き寄せられていく。


「いらっしゃいませ〜!」と、笑顔で接客する結衣と、その隣でさりげなく手伝う西園寺。二人の息がぴったり合っていて、まるで雑誌の一コマのような光景だった。そんな姿に、大輔は少し複雑な気持ちを抱きながらも、ドリンクを作り続けていた。


 やがて10時30分になり、大輔の休憩時間が訪れた。


「尾上さん、ちょっと休憩をもらってもいいですか?妹と約束があって…」


「いいよ、大輔君。楽しんできてね!」


 みゆきの笑顔に見送られ、大輔は教室を出た。


 教室を出ていく大輔の後ろ姿を、結衣はちらりと見ていた。その表情が少し曇ったのを見逃さなかった明里が、すかさず結衣にニヤリと近づいた。


「あっれれ〜? どうしたのかな〜?」


「な、なんでもないよ!」


 結衣は焦りながら、顔を赤らめて明里から目を逸らした。そんな彼女の様子に、明里はおかしそうに笑った。


 その後、西園寺がふと結衣に声をかけた。


「浅見さん、もしよかったら文化祭を一緒に回らない? 一緒に楽しめたらと思ってさ。」


「ごめんね、西園寺君。今日はみゆきたちと回る予定なの。また別の機会にでも。」


 結衣の柔らかい断りに、西園寺は少し肩をすくめながらも「了解、また今度ね」と笑顔で応じ、その場を立ち去った。


 結衣の心の中には、少しだけ複雑な感情が残ったが、すぐにそれを振り払った。


 一方で、大輔は妹の葵がいる1年生の教室に向かっていた。教室へ入った瞬間、梨香が大輔を見つけて元気に手を振った。


「せんぱ〜い、来てくれてありがとう!」


「おにい、遅いよ〜。もう待ちくたびれちゃった!」


「ごめんごめん、カフェが思ったより忙しくてさ。でも、今からは一緒に楽しもうね!」


 大輔は少し申し訳なさそうに頭を掻きながら、二人に笑顔を見せた。


「今日は楽しむって決めたんだから、思いっきり楽しみましょうね!だ・い・す・けせんぱ〜い!!」


 梨香がわざと甘えた声を出しながら、さりげなく大輔の腕に少し寄り添う。大輔は、まさかこんな展開になるとは思わず、照れくさそうに頷いた。


「…う、うん。た、楽しもう…」


 三人は笑い合いながら、文化祭の各ブースを回り始めた。途中で立ち寄ったたこ焼き屋台で、みんなでたこ焼きを注文した。すると、梨香が突然、大輔の方に体を少し寄せながら言った。


「先輩、はい、あ〜〜んしてあげますね!」


 梨香はニコニコと笑い、大輔にたこ焼きを差し出した。


「「え?ぼ、僕に?」大輔が驚いてたじろぐと、梨香がもう一歩近づいて、たこ焼きを持った手をさらに伸ばし、ささやくように「あ〜〜ん」と甘く促した。


 その仕草に、大輔は戸惑いながらも、断れずにゆっくり口を開けた。


「えへへ。先輩、赤くなっちゃってますよ?」


 梨香は楽しそうに笑いながら、大輔の反応をじっと見つめる。


「そ、それは…だって、急に…」


 大輔は言葉を探すものの、声が次第に小さくなり、言い訳も途切れがちになった。


 そんな様子に、周りの二人も笑いをこらえきれず、ほっこりした雰囲気が広がった。


(…ちょ、ちょっと梨香ちゃん!グイグイ行き過ぎ!おにい、完全にたじたじじゃん…これってまるでラブコメみたい!)



「葵ちゃんもどう?どうぞ。あ〜ん!」


 梨香は同じように葵にもたこ焼きを差し出し、無邪気な笑顔で笑いかけた。


(梨香ちゃん。天然だ! か、かわいい。)


「えっ、あ、ありがとう梨香ちゃん!」


 葵も思わず赤くなりながら、嬉しそうにたこ焼きを口に頬張った。その無邪気さに、大輔の緊張も少し和らいだ。


 その後、三人は自分のクラスの射的のブースに立ち寄り、わいわいと楽しみながら競い合った。


 葵のクラスメイトたちは、その様子を見て「あれが葵ちゃんのお兄さん?なんか優しそうだね」


 一方で、梨香と大輔の距離の近さを見た一部のクラスメイトたちは、「梨香ってさぁ、葵のお兄さんとすごく仲が良さそうだね〜」「なんであんなに距離が近いの?」と興味津々で話し合っていた。


 梨香はそのことを気にする様子もなく、大輔と楽しそうに会話を続けていた。


 文化祭の熱気に包まれた学校の中、三人は思いっきり文化祭を満喫し、笑顔が絶えないひとときを過ごした。大輔も、妹や梨香と一緒にいる時間が心から楽しいと感じていた。その楽しさは、彼の中の不安や緊張を少しずつ解きほぐしていくようだった。


 文化祭の喧騒の中、大輔はふと、隣にいる梨香の笑顔を見つめながら、自分ももっと前向きになれるかもしれない、と感じていたのだった。


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