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第35話 文化祭前日

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 第35話 文化祭前日


 放課後、教室には文化祭の準備を進める生徒たちの熱気と、にぎやかな笑い声があふれていた。大輔もその一員として、ドリンク係のみゆきと一緒に、机や段ボールを駆使して即席の調理場を作り上げていた。


「次はコップとドリンクを並べるだけかな…」と、大輔が手を止めたそのとき、みゆきのところへ結衣、咲希、明里がやってきた。


「みゆき〜、お疲れさま!」


 結衣がにこやかに声をかける。


「お疲れさま〜。みんな、準備は順調?」


 みゆきも笑顔で応えた。


 その時、ふと教室のドアが開き、西園寺が現れた。彼は軽やかな足取りで結衣に近づくと、自然な流れで手伝い始めた。


「浅見さん、この箱を少し移動させようか?こっちの方が見栄えが良さそうだよ。」


 西園寺が優しい口調で提案し、結衣も嬉しそうに頷く。


「ありがとう、西園寺君。助かるよ!」


「気にしないで。文化祭だからね、みんなで楽しまなきゃ。」


 2人の会話が和やかに進む様子に、大輔は微妙な感情が胸の中でうずまくのを感じた。西園寺が結衣に冗談を言って笑いを誘うと、その笑い声が心に刺さるように響いた。


(まただ。結衣さんが西園寺君と話ているところを見るとなぜかモヤモヤするな……)


 みゆきと咲希はその様子に気づき、そっと大輔に近づいてきた。


「ねえ、大輔君。ちょっとムッとしてる?」


 みゆきがくすっと笑いながら囁いた。


「え、えっ?そんなことないけど!」


 大輔は慌てて否定するが、内心のモヤモヤが隠し切れない。


「ふふっ、大輔君って本当にわかりやすいね〜。あの2人が仲良くしてるのを見ると、ちょっと嫉妬しちゃうでしょ?」


 咲希も微笑みながら大輔をからかう。


「べ、別に!そんなこと…ないよ!」


 大輔は顔を真っ赤にしながら視線をそらしたが、みゆきと咲希の笑いは止まらない。


「ほらほら大輔君、結衣が戻ってきたよ。まだ顔が赤いなぁ~。」


 みゆきが軽く肩を叩くと、大輔は慌てて深呼吸し、表情を整えた。


 結衣が戻ってきたとき、大輔は勇気を振り絞って彼女に声をかけた。


「結衣さん、僕も少し手伝おうか?」


「あ、大輔君!ありがとう、助かるよ!」


 結衣はすぐに大輔の方を向き、彼に近づいて仕事の説明をし始めた。その瞬間、西園寺の表情が一瞬だけ曇るのを、大輔はしっかりと見ていた。


「浅見さん、あとでまた手伝うから、今は城山君と頑張ってね。」


 西園寺は少し硬い笑みを浮かべながら軽く手を振り、その場を去っていった。結衣はその背中を一瞬見送った後、大輔に向き直り、にっこりと微笑んだ。


 その様子を見ていたみゆきが、大輔の耳元でそっと囁いた。


「ねえ、さっきの西園寺君と結衣とのやり取り、気になるの?」


 !?


「えっ、い、いや、なんと言いますか……」


 大輔は慌てたように答えたが、内心では西園寺とのやりとりが引っかかっていることに気づいていた。


「結衣は大輔君と話す方が楽しそうだよ。だから、結衣といるときはもっと自信を持ちなよ。」


 咲希が茶目っ気たっぷりに言い、大輔の反応を楽しんでいるようだった。


 その言葉に、大輔は少しだけ肩の力が抜けたように感じた。結衣が自分を優先してくれたことに気づき、胸の奥で何かが温かくなるのを感じた。


 その時、教室の中央で委員長が手を叩いて、みんなの注目を集めた。


「みんな、ちょっと注目して!明日はついに文化祭本番だ!最高の一日にするために、みんなで力を合わせて頑張ろう!」


 教室中に自然と拍手が湧き起こり、その瞬間の高揚感と期待感が教室全体を包み込んだ。大輔も拍手をしながら、周りの仲間たちと一緒にこの瞬間を共有していることを実感した。


 結衣と視線が合い、お互いに微笑み合う。文化祭前夜の空気が、彼らの胸の中にある希望と期待をさらに膨らませていくのを感じながら、大輔は明日の本番に向けて一層の自信を持って臨むことを決意したのだった。


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