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第34話 文化祭の買い出し

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 第34話 文化祭の買い出し


 放課後、商店街のにぎわいの中、三人はリストを手に持ちながら次々と必要なものを買い集めていった。


「ねえ、こうやってみんなで文化祭の準備をするのも、文化祭の楽しみ方で私好きだな」


「尾上さんの言う通りだね。同じ景色でも違った景色に見えるね」


「確かに〜!良いこと言うじゃん。あっ、次はこっちのお店だよ!」


 みゆきは自然と大輔の腕を摘んで方向を示す。


「う、うん…」


(もう〜、みゆき、ずるい!大輔君と距離が近すぎるし)




 みゆきが少し大輔に近づいて地図を確認しようとした瞬間、結衣が突然ぷくっと頬を膨らませた。その様子を見たみゆきが、思わずくすっと笑いをこぼす。


(あらあら。ちょっとやりすぎちゃったかな?ってあれでも結衣は嫉妬してるって気づいてないんだろうな〜)


 みゆきは大輔から離れ結衣に近づき少し煽る。


「あっれれ〜?もしかして結衣ちゃん、焼きもち焼いてるのかな?」


「そ、そんなことないもん!」


 結衣は、顔を真っ赤にして否定する。


「ふふっ。もう、本当に結衣は可愛いなぁ」


「でも、大輔君ってちょっと鈍感なところあるよね。結衣、そう思わない?」


 大輔は、彼女たちのやり取りに少し困惑しつつも、その状況が微笑ましく、つい笑顔を見せてしまう。


「大輔君、みゆき、早く次のお店に行きましょ!!」


「「了解〜」」


 みゆきと大輔は、結衣のあとを追い次のお店に入り無事買い物は終了した。


「じゃあ、みんなのバックに入れて笠井先生のところへ行こう!」


「はいはい、リーダーについて行きますよ。結衣も急いで!」


 みゆきが茶化しながらも結衣と一緒に大輔の後を追った。その二人のやり取りを眺めながら、大輔は自然と微笑みがこぼれ、楽しい時間を過ごしていることを改めて実感していた。


「じゃあ、今日の買い物ミッションはこれで完了だね!お疲れさま!」


 みゆきが満足そうに言った後、ふといたずらっぽく声を掛けた。


「あっ、そうそう、大輔君。結衣を送っていってあげてね。」


「任されました!」


 大輔は少し照れながらも笑顔で応じた。


 時刻はすでに6時を過ぎていたが、6月なのでまだ明るく、柔らかな光が街を包んでいた。帰り道、結衣の方から提案があった。


「せっかくだし、少し寄り道して神社に行かない?夕焼けがきれいに見えるはずだよ。」


 突然の誘いに大輔は驚きつつも、頷いた。


「いいね。久しぶりに行こうか。」


「夕焼けの神社って、二人で見ると特別な意味があるんだって。ロマンチックでしょ?」


 結衣が冗談めかして言った。大輔は顔を赤らめ、視線をそらした。


「ねえ、大輔君。今年の文化祭、みんなで準備するのが本当に楽しいよね。でもさ…」


 結衣はちらりと横目で大輔を見上げ、声を少しだけ低くした。


「こうして、大輔君と二人で過ごしてる時間の方が、もっと特別かも…なんて思っちゃう。」


「えっ!?そ、そんなこと…!」


 大輔は驚いて顔を赤らめ、思わず視線を逸らした。しかし結衣は逃がさないように、彼にさらに体を寄せる。彼女の笑顔はどこか意味深で、少しのいたずら心が込められているようだった。


「大輔君って、本当にかわいいよね。すぐ顔が赤くなるし…そういうところ、私、結構好きなんだよね。」


「も、もう冗談ばっかり……」


 大輔は動揺し、心臓がますます早く鼓動するのを感じていた。結衣の言葉にどう返していいのかわからず、ただ困惑するばかり。


「冗談じゃないよ?」


 結衣は笑顔のまま、大輔の肩にそっと頭を載せた。その瞬間、大輔は思わず息を飲んだ。彼女の柔らかな髪が軽く頬に触れ、胸の奥が熱くなる。


「だ、大輔君、今ドキドキしてるでしょう? 私も、今ちょっと緊張してる…」


 結衣は大輔の肩に甘えるように体重をかけ、目を閉じた。二人の距離は、まるで消え去ってしまったかのように近かった。


「ぼ、僕も……緊張してる……」


「そっか…それなら、もう少しこのままでいようかな。」


(心臓がバクバクで壊れそうだ……)


 結衣の声はささやきのようで、彼女の呼吸が大輔の耳元に感じられるほどだった。夕焼けが赤く空を染める中、二人はまるで時間が止まったかのように、ただ静かに寄り添い合っていた。


「もっと近くにいてもいい?」


 結衣は、大輔の肩に頭を押し付けるように少しだけ動かし、優しく尋ねた。その無邪気な瞳に、大輔はますます赤くなるばかりで、答えられなかった。けれど、拒むこともしなかった。


「そ、そうだね…もう少し、このままでもいいかも…。」


 やっとの思いで口にしたその言葉に、結衣は満足そうに微笑んだ。


 二人は夕暮れの中で、ただお互いのぬくもりを感じながら、言葉にならない何かを共有していた。空が少しずつ暗くなる中で、微かな鳥の鳴き声だけが響いていた。


 結衣のそんな無邪気でありながら、どこか大輔を攻めるような態度に、大輔は胸が高鳴り、ドキドキが止まらない。しかし、同時にその時間を心から楽しんでいる自分にも気づいていた。


「じゃあ、そろそろ帰ろっか。実はね、こうして大輔君に送ってもらうの、少し楽しみにしてたんだ。」


「えっ…そうなの?」


「うん。なんというか、特別扱いされてるみたいで、嬉しいんだ。」


「じゃあ、今日も最後までしっかりエスコートさせてもらいます!」


「ふふっ。じゃあ、お願いね。」


 神社からの帰り道、二人はしばらく言葉を交わさずに歩き続けたが、その沈黙が心地よく、自然とお互いの存在を感じながら並んで歩くことが、当たり前のように感じられた。


 結衣の家の前に到着すると、彼女は振り返って、「また明日、学校でね。」と、やさしく手を振って別れを告げた。


 大輔も手を振り返し、彼女が家に入るのを見届けると、その日の出来事を思い返しながら、自然と微笑みが浮かんでいた。


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