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第30話 イケメン

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 大輔は、学校には必ずと言っていいほど存在する「完璧なイケメン」の存在を思い浮かべた。西園寺光さいおんじ ひかるは、その典型だ。学業においてもトップクラスの成績を誇り、スポーツ万能で、まさにカーストの頂点に君臨している。教室でも廊下でも、彼を取り巻く人々の視線は常に彼を中心に回っているように感じる。


 女子にとって、彼はまさに学園生活の「推し」だ。けれど、大輔は密かに思っていた。


(だからって、女の子たち全員が彼に惚れるわけじゃない…はずだよな。)


 そんなことを考えていたある日の休み時間、大輔は廊下でふと結衣が西園寺に勉強を教えている姿を目にした。



「浅見さん。忙しいところごめんね。ここの数学の問題なんだけど教えてもらっても良い?」


「ええ。ここは、Xの値を。。。」


「なるほど、ありがとう。とてもわかりやすい説明だったよ。」


「ふふ。どういたしまして。でも西園寺君から質問なんて珍しかったから驚いたよ。」



 西園寺は結衣に数学を教えてもらい、結衣がそれを褒めるように微笑んでいる。大輔の心の奥に、何とも言えないモヤモヤした感情が広がった。


(西園寺君と結衣さんが並ぶと美男美女感がすごいな…。)


 結衣が教室へ戻って席へ着席したところへ、結衣と話すために教科委員の仕事で話しかける。


「結衣さん、5時間目の数学なんだけど…。」


「浅見さん〜。笠井先生から呼ばれたよ。一緒に行こう」


 西園寺が大輔が話しかけたところを遮った。


「あっ、大輔君。ごめんね。先に西園寺君と先生の所へ行ってくるね。それに5時間目のことも聞いておくから。」


「あっ…う、うん。ありがとう、結衣さん。」



 結衣は西園寺と一緒に教室を出て行った。大輔はその姿を見送りながら、胸に広がるモヤモヤを感じていた。クラスに戻ると、他のクラスメイトたちのひそひそとした話が耳に入ってきた。



「ねえ、聞いた?西園寺って、浅見結衣に気があるらしいよ。」


「マジで?やっぱり美男・美女同士でいい感じなんじゃない?」


 そんな噂話が飛び交う中、大輔は椅子に腰を下ろしながら、心の中でつぶやいた。


(結衣さんが西園寺君を好きだとは思わないけど… でも、あんな空気じゃ、噂が本当に聞こえてくる……。結局、西園寺君の方が顔も運動神経もよくて…僕にないものいっぱいある……って別に結衣さんとお付き合いしているわけでもなんでもなくて、教科委員繋がりだけだし…)


 その思いはますます大輔の心を揺さぶっていった。


 夕方、自宅に帰った大輔は、ソファーに横たわりながら今日の出来事を振り返っていた。特に、西園寺と結衣のやり取りが頭から離れない。彼女が西園寺に向けた微笑みや、優しさが、自分にはない何かを示しているようで、ますます不安を募らせた。


(結衣さんが西園寺君と仲良くしてるのは、ただ勉強を教えていただけだろうけど…それでも、何だか落ち着かない。)


 その時、妹の葵がテレビを見ながら声をかけてきた。


「おにい、今日の9時から4チャンネルで何やるの?」


「え?確か…クイズ番組だったと思うよ。」


「じゃあ、6チャンネルは?」


「6チャンネル?ああ、有名な俳優が主演してるドラマだよ。」


 葵は満足そうにうなずき、再びテレビに視線を戻した。しばらく沈黙が続いたが、大輔はふと思い立ち、葵に質問してみた。


「なあ、葵。兄としてじゃなくて、僕を一人の男として見てさ、どこか魅力的なところってあるかな?」


 葵は一瞬キョトンとした顔をし、それからクスクスと笑い出した。


「え?おにいが男として魅力的かどうかって?」


「う、うん…。その、やっぱりさ、こう…なんだか、いろいろ考えちゃって…」


 大輔がモゴモゴと話すと、葵はふと真剣な表情を浮かべて彼を見つめた。そして、優しく微笑んで言った。


「お兄、さっきも聞いたけど、4チャンネルって何の番組だっけ?」


「え?ク、クイズ番組だけど…」


「そう。じゃあ、梨花ちゃんの弟を助けたのは誰?」


「それは…僕だよ。」


 葵はニッコリと微笑む。


「そういうところだよ。お兄の良いところって…」


 大輔は、妹の言葉に戸惑いながらも、「え、ちょっと待って…結局どういう意味?」と首をかしげた。


「ふふっ、そうやって悩んでればいいのよ。せいぜい、じっくり考えてみなさいな!」


「えぇ…。全然わからないんだけど…」


 大輔は困った顔をしながらも、どこかホッとしたような気持ちで葵を見た。


 葵は再びテレビに視線を戻し、大輔は妹の軽やかな返しに、肩の力が抜けるのを感じた。何気ない会話が、彼の心のモヤモヤを少しずつ解きほぐしていった。


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