表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/53

第3話 「スクールカーストの現実」

 新しい学校に通い始めて数日が経った。大輔は少しずつクラスに慣れてきたものの、まだ自分から話しかけることに躊躇があった。休み時間、彼は一人静かに席に座り、教室の様子を見渡していた。

 教室内は賑やかで、クラスメイトたちは自然とグループを作って、楽しそうにおしゃべりをしている。その中心には、やはり浅見結衣がいた。


「結衣さん、今日の体育すごかったよ! あのバスケのシュート、完璧だった!」

「いやいや、たまたまだよ。みんなも頑張ってたし」


 結衣は笑顔で謙遜しているが、周りのクラスメイトたちはさらに盛り上がっていた。彼女の一挙一動に反応し、楽しげに会話が続く。誰もが結衣に話しかけ、彼女の返答を待っている様子だった。

 大輔はその光景を遠くから見つめながら、このクラスにも前の学校と同じスクールカーストみたいなものがあるんだなって思った。だって、例えば浅見さんの周りにいる人たち、何気に運動部だったり綺麗な女の子だったりで、僕みたいな冴えないのがいないんだよな。って決して羨ましくはないんだからね。

 ただ、良いクラスだなって感じるのは、グループがいくつかあるだけで誰かを妬んだり、いじめがあることはないんだな。


「進路とか将来のことを考えると、最終的にはみんな社会に出て、仕事をしていくわけだ。でも、もし僕がイケメンで、何でもできる人間だったなら、今のままでいいのかもしれない。変わらなくても、誰かが僕を受け入れてくれるかもしれない。でも、現実はそうじゃないから、変わらなきゃいけないんだ。」


 大輔は、ふと立ち止まる。心の中でずっと抱えていた思いが、少しずつ言葉になっていく。


「人と話せないよりは、話せる方がいい。勉強ができないよりは、できた方がいい。人に優しくしないよりは、優しくした方がいい。性格が悪いよりは、良い方がいい。だってさ、イケメンや美少女って、何をしても『天然だね』とか『小悪魔っぽい』とか、好意的に受け取られることが多いんだ。でも、僕みたいな陰キャが同じことをしたら、簡単に『クズだ』って言われる。」


 大輔は少し笑って、でもその笑顔は自分自身に向けたもので、苦笑いに近かった。


「じゃあ、僕ができることって何だろう?それは頑張ることしかないじゃないか。人と話せるように努力して、勉強も頑張って、自分を少しずつでも変えていくことしかできない。でも、それでいいんだ。少しずつでも、自分を変えていけるなら、きっと未来は変わるはずだ。」


 彼の言葉は、誰に向けたものでもなく、自分自身に言い聞かせるように、静かに心の中に響いていた。


 その時、突然背後から声がかかった。


「城山。お前もバスケやるか?」


 振り返ると、佐藤がにこやかに立っていた。彼はバスケ部のエースで、クラスでも人気者だ。大輔は一瞬戸惑いながらも、すぐに首を振った。


「佐藤くん。いや、俺はいいや。あんまり運動得意じゃないから。誘ってくれてありがとう。」

「そうか。でもやってみれば案外楽しいぞ!」


 佐藤は肩を軽く叩いてから、他のクラスメイトたちのもとへ戻っていった。大輔はその背中を見送りながら、ため息をついた。


「気にかけてくれて、優しいんだな。佐藤くんて」


 教室の後ろの方では、数人の生徒が静かにスマホをいじったり、本を読んだりして過ごしていた。大輔は、そのグループに属しているわけではないが、かといってクラスの中心にいるわけでもない。自分の居場所がどこにあるのか、はっきりと見えなかった。

 そんな中、ふと前の方で結衣がこちらを見ていることに気づいた。彼女の瞳が一瞬、大輔を捉えたように感じた。驚いた大輔は、心臓が一気に高鳴るのを感じた。

 あれ?浅見さんが…俺を見てる?って流石に自信過剰すぎか。まあ、でも浅見さんってどこかミステリアスだよな。美人ていうステータスはあるけど、それ以上に話をうまく回せるというか、すごいんだよな。じゃなきゃ、あんなに人が集まらないよな。


「でも、今の俺には話にいくのは無理だな…」


 彼女に話しかける勇気は、まだ大輔にはなかった。結衣は相変わらずクラスの中心にいて、周囲との会話を楽しんでいる。彼女の背中がまるで違う世界の住人のように感じられ、大輔は自分がその世界に入れないことを再確認した。

 それでも、彼は心の奥底で感じていた。何かが変わるべきだと。このままではいけないと。


「俺も…少しは動いてみるか」


 自分の居場所を見つけるために、大輔は少しずつでも行動を起こす必要があると感じた。結衣に話しかけるのはまだ先かもしれないが、それでも、何かを変えるための一歩を踏み出すべきだと心に決めた。

 大輔は再び結衣を見た。彼女は笑顔を浮かべて、周りと話している。その姿はまぶしくて、手が届かない存在に見える。それでも、大輔は彼女との再会をただの偶然とは思えなかった。彼女との出会いが、自分にとって大きな意味を持つものであると感じ始めていた。


「いつか…話しかけるチャンスが来るはずだ」


 そう思いながら、大輔は教室の窓から外を眺めた。まだ春の風が優しく吹き、桜の花びらが舞い散っていた。彼の心にも、これからの新しい展開への期待が少しずつ芽生えてきた。


筆者の励みになりますので、よろしければブックマークや★の評価をお願いいたします。温かい応援、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ