第3話 「スクールカーストの現実」
新しい学校に通い始めて数日が経った。大輔は少しずつクラスに慣れてきたものの、まだ自分から話しかけることに躊躇があった。休み時間、彼は一人静かに席に座り、教室の様子を見渡していた。
教室内は賑やかで、クラスメイトたちは自然とグループを作って、楽しそうにおしゃべりをしている。その中心には、やはり浅見結衣がいた。
「結衣さん、今日の体育すごかったよ! あのバスケのシュート、完璧だった!」
「いやいや、たまたまだよ。みんなも頑張ってたし」
結衣は笑顔で謙遜しているが、周りのクラスメイトたちはさらに盛り上がっていた。彼女の一挙一動に反応し、楽しげに会話が続く。誰もが結衣に話しかけ、彼女の返答を待っている様子だった。
大輔はその光景を遠くから見つめながら、このクラスにも前の学校と同じスクールカーストみたいなものがあるんだなって思った。だって、例えば浅見さんの周りにいる人たち、何気に運動部だったり綺麗な女の子だったりで、僕みたいな冴えないのがいないんだよな。って決して羨ましくはないんだからね。
ただ、良いクラスだなって感じるのは、グループがいくつかあるだけで誰かを妬んだり、いじめがあることはないんだな。
「進路とか将来のことを考えると、最終的にはみんな社会に出て、仕事をしていくわけだ。でも、もし僕がイケメンで、何でもできる人間だったなら、今のままでいいのかもしれない。変わらなくても、誰かが僕を受け入れてくれるかもしれない。でも、現実はそうじゃないから、変わらなきゃいけないんだ。」
大輔は、ふと立ち止まる。心の中でずっと抱えていた思いが、少しずつ言葉になっていく。
「人と話せないよりは、話せる方がいい。勉強ができないよりは、できた方がいい。人に優しくしないよりは、優しくした方がいい。性格が悪いよりは、良い方がいい。だってさ、イケメンや美少女って、何をしても『天然だね』とか『小悪魔っぽい』とか、好意的に受け取られることが多いんだ。でも、僕みたいな陰キャが同じことをしたら、簡単に『クズだ』って言われる。」
大輔は少し笑って、でもその笑顔は自分自身に向けたもので、苦笑いに近かった。
「じゃあ、僕ができることって何だろう?それは頑張ることしかないじゃないか。人と話せるように努力して、勉強も頑張って、自分を少しずつでも変えていくことしかできない。でも、それでいいんだ。少しずつでも、自分を変えていけるなら、きっと未来は変わるはずだ。」
彼の言葉は、誰に向けたものでもなく、自分自身に言い聞かせるように、静かに心の中に響いていた。
その時、突然背後から声がかかった。
「城山。お前もバスケやるか?」
振り返ると、佐藤がにこやかに立っていた。彼はバスケ部のエースで、クラスでも人気者だ。大輔は一瞬戸惑いながらも、すぐに首を振った。
「佐藤くん。いや、俺はいいや。あんまり運動得意じゃないから。誘ってくれてありがとう。」
「そうか。でもやってみれば案外楽しいぞ!」
佐藤は肩を軽く叩いてから、他のクラスメイトたちのもとへ戻っていった。大輔はその背中を見送りながら、ため息をついた。
「気にかけてくれて、優しいんだな。佐藤くんて」
教室の後ろの方では、数人の生徒が静かにスマホをいじったり、本を読んだりして過ごしていた。大輔は、そのグループに属しているわけではないが、かといってクラスの中心にいるわけでもない。自分の居場所がどこにあるのか、はっきりと見えなかった。
そんな中、ふと前の方で結衣がこちらを見ていることに気づいた。彼女の瞳が一瞬、大輔を捉えたように感じた。驚いた大輔は、心臓が一気に高鳴るのを感じた。
あれ?浅見さんが…俺を見てる?って流石に自信過剰すぎか。まあ、でも浅見さんってどこかミステリアスだよな。美人ていうステータスはあるけど、それ以上に話をうまく回せるというか、すごいんだよな。じゃなきゃ、あんなに人が集まらないよな。
「でも、今の俺には話にいくのは無理だな…」
彼女に話しかける勇気は、まだ大輔にはなかった。結衣は相変わらずクラスの中心にいて、周囲との会話を楽しんでいる。彼女の背中がまるで違う世界の住人のように感じられ、大輔は自分がその世界に入れないことを再確認した。
それでも、彼は心の奥底で感じていた。何かが変わるべきだと。このままではいけないと。
「俺も…少しは動いてみるか」
自分の居場所を見つけるために、大輔は少しずつでも行動を起こす必要があると感じた。結衣に話しかけるのはまだ先かもしれないが、それでも、何かを変えるための一歩を踏み出すべきだと心に決めた。
大輔は再び結衣を見た。彼女は笑顔を浮かべて、周りと話している。その姿はまぶしくて、手が届かない存在に見える。それでも、大輔は彼女との再会をただの偶然とは思えなかった。彼女との出会いが、自分にとって大きな意味を持つものであると感じ始めていた。
「いつか…話しかけるチャンスが来るはずだ」
そう思いながら、大輔は教室の窓から外を眺めた。まだ春の風が優しく吹き、桜の花びらが舞い散っていた。彼の心にも、これからの新しい展開への期待が少しずつ芽生えてきた。
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