第27話 八坂稲荷神社にて
その日の昼食後、大輔のスマホにライムの通知が入った。結衣さんからのメッセージだった。
(結衣)「今日、放課後、神社で会えない?」
大輔は少し驚きつつも、すぐに返信を送った。
(大輔)「了解。何かあった?」
だが、結衣さんからの返事は少しそっけなかった。
(結衣)「神社で話すね。」
その短い返答に、大輔は少し気になった。普段の結衣さんなら、もっと軽やかな返事が来るはずだが、今回は違った。何か怒っているような気がしてならなかった。
(大輔)「わかった。じゃあ、放課後に。」
それから授業中や休み時間に結衣さんをちらりと見たが、彼女は友達と楽しそうに話していた。笑顔も普段通りで、特に嫌なことがあったようには見えない。大輔は少しほっとしつつ、やはりどこか引っかかるものがあった。
(気のせいかな…?でも、なんで神社で話したいんだろう。)
放課後、大輔はいつもの八坂稲荷神社へ向かった。夕暮れ時の神社はいつも通り静かで、鳥居の影が長く伸びている。結衣さんが待っている場所へ近づくと、少し遠くを見つめている彼女の姿が目に入った。
「お待たせ。」
「ううん、私も今来たところだから。」
二人は階段に腰を下ろした。オレンジ色の夕焼けが空を染めている。しばらく無言のまま過ごしていたが、結衣さんは突然、少し低い声で問いかけてきた。
「ねぇ、大輔君。なんか私に隠してること、ない?」
その言葉に大輔は一瞬固まり、真剣な結衣さんの表情に戸惑った。
「え…?隠してること…?」
彼女の視線は真っ直ぐで、軽い冗談ではないとわかった。大輔は真剣に考えたが、心当たりがなかったため、首をかしげるしかなかった。
「うーん…特に思い当たることはないけど…」
結衣さんは一瞬、眉をしかめてため息をついた後、再び口を開いた。
「今日、昼に購買でパンを買ったんでしょ?教室で一緒に食べようと思って待ってたのに、戻ってこなかったから…」
「あぁ、そうか…。購買でパンを買ったときに、偶然梨香さんに会ってさ。流れで一緒に食べようって話になったんだ。だから、戻るのが遅くなったんだよ。」
大輔は少し焦りながら、正直に答えた。彼の説明を聞いた結衣さんは、少し納得したようだったが、その表情にはまだ何か引っかかっている様子があった。
(梨香が購買に来るなんて珍しいな…。あの子、普段はお弁当派なのに…。)
「そっか…。ごめんね、なんか急に言っちゃって。でも、全然教室に戻ってこなかったから、お昼食べ損なったのかと思って心配しちゃって…」
「心配してくれてたんだ、ありがとう。次からは、ちゃんとライムで連絡するよ。」
「うん、それがいいかも。そうしてくれると、安心するし…」
夕焼けがますます色濃くなってきた頃、結衣さんは少し疲れたような表情を見せた。そして、ふと大輔に体を寄せ、彼の肩に頭を預けた。
「えっ…!?」
大輔は突然の出来事に驚き、体が固まった。彼女の柔らかい髪の感触が肩に伝わり、心臓が一気に早くなった。
「ごめんね。ちょっと疲れちゃったみたい…」
結衣さんが力なく呟いた。彼女の言葉に大輔は少し戸惑いながらも、優しく彼女の体重を受け止めた。
「だ、大丈夫だよ。ゆっくり休んで。」
しばらくそのまま、二人は静かに夕焼けを見つめていた。大輔は内心、どうしたらいいのかわからなかったが、結衣さんの重みがなんとなく心地よく、ただその場に流れる穏やかな時間を感じていた。
(なんだろう。大輔君にこうやって体を預けていると、嫌なことや辛いことが溶けていくというか、安心するなぁ…)
・・・・
やがて、結衣さんがそっと体を起こした。
「ありがとう。少し楽になったよ。」
「そっか。良かった。」
大輔は少しホッとしたように笑ったが、まだ心臓はドキドキと早いままだった。そして、ふと思い立ったように結衣さんに言った。
「結衣さん、一人で帰るのは心配だし、送っていくよ。」
結衣さんは少し驚いた表情を浮かべたが、やがていつもの明るい顔に戻り、にこりと笑った。
「ありがとう、大輔君。じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな。」
二人はゆっくりと神社の階段を降り、夕闇に包まれた街へと足を向けた。




