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第21話 勉強会の買い出し

 放課後の夕暮れ、大輔は下駄箱の前で靴を履き替えていた。その時、後ろから明るい声が響いた。


「大輔せんぱ〜い!」


 振り返ると、梨香がこちらに向かって手を振りながら駆け寄ってくる。夕方の柔らかな陽光が彼女の髪を照らし、軽やかに揺れていた。


「梨香さん、どうしたの?」


「勉強会のこと、よろしくお願いしますって伝えにきました。」


「こちらこそよろしくね。今から勉強会に出すジュースとお菓子を買いに行くけど、一緒に買い物に行く?近くの駅前のスーパーとかでさ。」


「ぜひ。一緒に行きたいです!」


(やった〜。これってデートみたいじゃない? 大輔先輩は鈍感だから、少しずつ距離を縮めないと…)


 梨香は内心でドキドキしながらも、できるだけ自然に振る舞おうと努めた。


 二人は駅近くのスーパーに向かって歩き出した。夕方の風が心地よく、街の雑踏が二人の間に微妙な距離感を作っていた。店内に入ると、カラフルなお菓子や飲み物がずらりと並び、大輔と梨香はカゴを持ちながら品定めを始めた。


「そういえば、結衣さんのお菓子の好みって知ってる?」


 その質問に、梨香の顔が一瞬曇り、頬を膨らませた。(もう、大輔先輩、デリカシーなさすぎ…。私が隣にいるんだから、まずは私の好みを聞いてくれないと…)心の中で不満をつぶやきつつも、口には出せない梨香は、無言で大輔を見つめた。


「わ・た・し・は?」とやや不機嫌そうに声を漏らす。


「やばい。そっか、まずは梨香さんの好みを聞かなきゃダメだったよね…」と大輔はすぐに反省し、申し訳なさそうに笑った。


「ごめんね、梨香さん。梨香さんはどんなお菓子が好きですか?」


 ぱ〜っと笑顔に戻り、「私は〜、チョコレートクッキーが一番好きです!!」


「そっか。僕もチョコが好きなんだ。好み似てるね。」


 梨香は、その一言に驚き、顔が真っ赤になった。(不意打ち…! こんなこと言われたら、私…)


 思わず手で頬を押さえた梨香の心はドキドキし、言葉が出ない。先輩と自分の好みが似ているなんて、何だか嬉しすぎる…その気持ちを必死に隠そうとした。


 ちょうどその時、ふいに背後から声がかかった。


「大輔君?」


 振り返ると、そこには結衣が立っていた。偶然にも同じスーパーに来ていたようで、驚いた表情を浮かべている。結衣の笑顔はいつものように柔らかく、ただどこか少し張り詰めた空気が漂っているように感じた。


「結衣さん!偶然だね。ゴールデンウィークの勉強会に備えて、お菓子を買いに来たんだよ。」


 大輔が少し照れくさそうに笑いながら説明すると、梨香もにっこり笑って加わった。


「そうそう、私もたまたま学校帰りに大輔先輩と会ったので、一緒に来させてもらいました。」


「もう、大輔君。来るなら教室で誘ってくれればよかったのに。」


「何かごめんね。」大輔が申し訳なさそうに答える。


 結衣はそのやりとりを見ながら、心の奥でモヤモヤした感情が膨らんでいくのを感じた。梨香と大輔が楽しそうに一緒にいるのを見るたび、胸の奥が少しざわめく。なぜだろう…。こんな気持ち、どうして?


(なんで私、こんなに気にしてるんだろう…ただの友達なのに…)


 それでも、そんな感情を隠しながら結衣は笑顔を保ち、冷静に話し続けた。


「私も今ちょうどお菓子を買いに来たんだよ。みんなで勉強するなら、美味しいものがないとね。」


「良かった。じゃあ、3人で一緒に選ぼう。ちょうど結衣さんの好みのお菓子を探してたんだ。」


「えっ?そ・そうだったんだ…。じゃあ、一緒に選ぼうね。」


 その後、3人で店内を回りながら飲み物やお菓子について話し合った。結局、チョコレートクッキーやポテチ、ジンジャーエールを購入することに決めた。


「これで準備はバッチリだね。」大輔が満足そうに言うと、梨香と結衣も頷きながら微笑んだ。しかし、その笑顔の裏には微かな緊張感が漂っていた。表面上はニコニコしているものの、2人の間にはどこか張り詰めた空気が漂い始めていた。


(なんだろう…。結衣さんも梨香さんもニコニコしているのに、何か変な感じがする…)


 大輔がその違和感に気づきつつも言葉にできないまま、スーパーを出た後の帰り道について話し始めると、方向が同じ結衣と梨香は一緒に帰ることになった。大輔は一人で帰ることを告げ、別れを告げた。


「それじゃあ、また勉強会でね。」


「うん、またね!」梨香と結衣が手を振りながら言い、大輔は先に帰路についた。


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