Dream1 「男女の友情は存在するか」
Dream1
「男女の友情は存在するか」
■登場人物
・俺
・A子
・親戚達
・犬
俺は今北海道に住んでいるが、昔東京にも住んでいた時期があった。
東京では舞台を中心に役者活動をしていたが、
特に成功することもなく北海道へと帰ることになった。
A子とは東京時代にとある舞台の出演がきっかけで共演者として知り合った。
誕生日、血液型、身長が全て同じで1つ年下の女の子。
顔も可愛く明るい性格ではあるが清楚な感じではなくギャル寄りである。
とても気が合い舞台期間中は仲が良かったが、
恋愛感情に発展することはなく、
舞台の終わりとともに連絡を取ることもなくなった。
それから2年後にそれとなく連絡をしてみた。
俺が寂しくなったからだ。
昔から恋愛体質で寂しくなると女性に連絡を取りたくなる。
我ながら、女性を利用しているようで嫌になる。
ただ、その時にふと思い出したのがA子だったためなんとなく連絡をした。
すると偶然にも自分の近くに住んでいることが分かった。
その時俺はたまたま実家から送られてきた大量の野菜を処理できず困っていたため、
久しぶりに会って野菜を渡すことになった。
A子の住所を聞き家まで野菜を届けるとA子から提案があった。
A子 「この後時間ある?昼飯でも食べない?」
俺に対してA子が恋愛感情を抱いてる訳もなく、ただの友人としてのランチだ。
特に断る理由もない。
2人で近くのハンバーグ屋さんでご飯を食べた。
少し良さげなハンバーグだった。
そしてご飯の後、またA子からの提案があった。
A子 「この後どうする?カラオケでも行く?」
俺はこいつが歌がうまいのを知っている。
俺も歌はうまくないがカラオケは大好きだ。
でもなぜかこの時に俺は葛藤した。
なぜなのかは今でもわからない。
歌をききたいし歌ってストレス発散もしたい。
きっと楽しい時間にもなるだろう。
もちろんこいつと二人きりの空間でエロい雰囲気になるような間柄でもない。
俺 「いや、今日は帰るわ」
俺はなぜか断った。
デメリットなど一つもないのに。
ただ、その日から頻繁に連絡を交わすようになった。
9割はあっちが一人暮らしの部屋から酒を飲んだ状態で
テレビ電話を急にかけてくるものだった。
俺は、正直夜が弱い。
酒も飲めるが好きではない。
一緒に飲むようなモチベーションにはならないが、
酔った可愛い子のテレビ電話を断る理由なんてない。
いつも楽しくお互いの話をして時間が過ぎる。
A子 「眠かったら寝てもいいんだよ?」
俺 「いや、大丈夫だよ」
深夜2時は、普段22時就寝の俺にとっては決して大丈夫ではない。
でも切りたくないのだ。
酔いと眠気の混ざった声で聞かれる女の質問に「NO」と言えるか?
次の日が眠かろうと俺は我慢した。
そんな日々が続いたある日、いつも通り酔ったA子と電話をしていたのだが、
その日の夜はお互い布団に入ってからの会話の時間も長かったため、
テレビ電話を繋いだままA子が寝てしまったのだ。
初めて見る寝顔になんとなく見惚れてしまった俺は、
テレビ電話を繋いだままその寝顔をずっと見てしまっていた。
気づくと朝になっていた。
どうやら俺も寝てしまっていたようだ。
夜は弱くても朝は強いため普通に朝早く目覚めた。
ふと横をみると目の前にA子の寝顔があった。
まだ、テレビ電話が繋がっていたのだ。
起こすつもりはなかったが、無言で切るのも忍びなく声をかけた。
俺 「おい、A子?電話繋げっぱなしだぞ?」
意図的に切らなかったのは俺のくせにそんな言葉をかけた。
A子 「・・・うーん?あ・・うそ・・ごめーん」
俺 「おはよ、高校生のカップルみたいなことすんなよw」
A子 「おはよ・・・いやまじそれな・・・」
俺 「バイト昼からだろ?もうちょい寝とけ。おやすみ。」
A子 「そうするわ・・・おやすみ」
俺は電話を切った。
俺 「(・・・・え、なに?この恋人感!?)」
単純な俺はウキウキ気分でバイトへ向かった。
その日から2人のテレビ電話の雰囲気が少し変わったような気がする。
酔いの勢いと若さで少しエロめの会話も多くなり、
勝手に期待を膨らませる日々もあった。
そんな時、俺が熱を出してしまった。
体調が悪い時にはどうしても寂しくなるものでA子に電話をした。
A子 「もしもし?お前体調悪いんだろ?電話してないで休んどけよw」
俺 「いや、まぁもう熱下がったし、こういう時寂しくなるじゃん?」
A子 「わかるけど、私を都合よく使うな」
俺 「どの口が言ってんだよ、いっつも酔ってる相手してやってんのこっちだぞ?」
A子 「それはありがとw」
俺 「ホラー映画一緒に見ない?」
我ながら古い手を使っている。
吊り橋効果でも狙いたいんだろう。
全く脈絡もない提案だ。
A子 「いやなんで?意味わからん」
俺 「うん、そうだよな。・・・・じゃあ看病は?」
A子 「良くなったんでしょ?しかもうつりたくないしw」
俺 「くそが!自分の心配かよw」
A子 「甘えんな!」
俺 「だって恋人に甘えるのって難しくない?だから甘えてるんですけど」
A子 「それはわかる。甘えれないよな。でもお前恋人居ないよな?」
俺 「お前もだろ」
A子 「うるせ。まぁでもほんとに必要なら行ってやるけど?」
俺 「え、マジでくんの?0時過ぎてますけど?」
A子 「別に家近いしな」
俺 「・・・いやくるなよ!うつるだろ!」
A子 「お前が言ったんだろ!」
俺 「いや、そうなんだけどさ・・・」
この時俺は冗談半分、本気半分でA子を誘っていた。
A子 「・・・ほんとにいくよ?いいんだな?」
この質問で俺もA子もなんとなく察した。
今日会えば一線を越える。
俺 「・・・・・いや、こないでくれ」
A子 「・・・わかった。じゃあちゃんと早く寝ろ!」
俺 「そうするわ。付き合わせて悪かったな!おやすみ。」
A子 「おやすみ。」
電話が終わった後の静けさが忘れられない。
なぜ断った?自分から誘ったのに?一線を越えるのが怖かった?
最低だ。
自分勝手すぎる。
俺 「くそ・・・」
そこからA子とのやり取りは一切なくなった。
そしてそのまま俺は東京を去り北海道へと帰った。
そこからあっという間にまた2年という月日が経ち、
当時の事もなんとなくどうでもいい記憶になり、
惜しいことしたな、くらいの思い出になっていた。
クズ男というのはそういうもんだ。
新しい環境に身を置き再スタートを切った俺は順調に生活できている。
と思っていたのだがとある病気にかかってしまった。
『うつ病』だった。
うつ病なんて少しネガティブになって薬で眠くなってみたいなもんだろ?
って思っていたが完全に舐めていた。
相手の言葉や行動、自分の存在価値、先の見えない未来がどうしようもなく怖い。
役者時代を思い出した。
役を演じる際には、実際に舞台に立っている自分を上から俯瞰して冷静に操り、
そのうえで役の感情を大きく表現し役としてその場で生きる。
その当時の感覚と似ていた。
ただ演じることと大きく違うのは、
上から俯瞰している自分は「そんなことない、考えすぎだ」と理解していても、
現実の自分を操ることはできないのだ。
涙も止まらない。死にたい気持ちも止められない。
気づくと救急隊に囲まれていることもあった。
でも死ぬ勇気はない。
どうしようもできない毎日だった。
「どうしてほしい?」 「考えなくていいよ」 「頑張ろう」
そういった言葉が俺をより苦しめていった。
「そんなのわからない!」 「考えないことなんてできない!」 「頑張ってるんだよ!」
だれか俺を助けてくれよ・・・・
そしてまたあの感情だ。
『寂しい』
家族にも支えてもらっているのに。
知人友人も心配しているのに埋まらない感情。
俺はこんな状態でもなお恋愛体質なのか?
病気を治す為にと、仕事も何もせず家でボーっとしている俺を、
ただ抱きしめて、頭をなでて「頑張ってる」と言ってほしい。
そしてそんな俺の頭に浮かんだのはA子だった。
全く都合のいいクソ男だ。
思いきってA子に電話をしてみた。
呼び出し音を何とも言えない感情で聞き続ける。
電話に出てほしい。
でも何を話す?
もう会える距離ですらないのになにを望む?
抱きしめてもらうことなんてできないのに。
そのまま電話が繋がることはなかった。
少しホッとする自分もいた。
ー♪
俺 「!?」
A子だった。
慌てて電話に出た。
A子 「もしもし?久しぶりじゃん!なした?」
俺 「おう、久しぶり。いやあの・・なんか・・・うつ病なったわw」
A子 「らしいね!SNSでみたわ!」
俺 「あ、そっか、俺投稿してたもんな」
あまりにも普通のトーンで話されたことに驚いた。
A子 「大丈夫なの?」
俺 「まぁ大丈夫ではないな、何回か死のうとしたしなw」
A子 「いやー。死ぬのはやめな?」
俺 「まぁ結局は死ぬ勇気もないから死なないんだけどさ」
A子 「ま、いつでも話聞いてやっから電話してよ!
バイトの休憩中だからとりあえず切るわ!」
俺 「お、おう・・・」
嵐のように通話が終わった。
そして2年前と同じ気楽な軽い会話で少し救われたような気がした。
その夜またA子から電話が来た。
テレビ電話だった。
A子 「もしもし?ごめんね、バイト中だったからさ!んで、なにがあったのよ?」
A子はお酒を飲んでいた。
当時と変わらない様子に笑ってしまった。
俺 「まぁ、環境も変わって色々とね」
A子 「寂しいんでしょ。
どうせあんたはそういう時にしか連絡してこないからw」
俺 「あ、おっしゃる通りです・・・」
A子 「私に連絡して元気になるならいつでも相手してやるわ」
俺 「そういう軽いノリで助かるわ、マジで」
A子 「重くていいことなんてなくない?だから頼ったの私なんでしょ?
自分の大切な人を自分が助けられるなら、助けたいのよ!」
俺 「なんか、おまえすげーな・・・」
A子 「ま、こっちも色々あって今の私がありますからね~」
俺 「そっか、そりゃそうだよな」
当たり前だが、明るい奴は今まで悩んだことがない。
そんな訳はないのだ。
こんな状態の俺に最適な対応ができるということは、
その状況に似た心情を体験しているからできるんだろう。
A子 「あんたも心にギャル飼いな?辛い時はそのギャルと会話すんのよ!
したら気楽な回答しか返ってこないから!」
俺 「いい年したおっさんの心にギャルなんか飼いたくねーよw
てか、そっちは最近どうなのよ?」
A子 「なんもないよ、普通!」
久しぶりの普通の楽しい会話。
それに救われた。
そこからまた数日おきに酒を飲むA子とのテレビ電話が始まった。
そして何となくあの日の話をしてみた。
俺 「あの日のさ、俺の家に来るか来ないか問題覚えてる?」
A子 「あー!覚えてるよ!
あの日家に行ったらヤってたよね?」
俺 「やっぱそうだよなw
ワンチャン付き合ってたかもな」
A子 「全然可能性はあるね!でもそうならなかったからそういう運命なんよw」
俺 「確かにw
今東京に居たらまだわからんぞ?それか北海道来る?」
A子 「いや今彼氏いるしな、年齢的にそろそろ作らないとって思って作った」
俺 「そんな理由で簡単に作れるなんて羨ましいっすわ」
A子 「私は絶対北海道いかないから、お前が来たら彼氏と照らし合わせて選ぶわw」
俺 「あっそw 俺ももう東京には行かねーよ」
A子 「じゃあやっぱうちらはいい友達関係のままなんだよ」
俺 「そうなんだろうな。ありがとう」
その時ふと思った。
俺はA子に何もしてあげれてない。
自分の都合のいい時に連絡を取って、勝手に俺だけ気分がよくなってるだけ。
じゃあA子のつらい時には俺は何をしてあげられる?
彼氏が支えてくれるか。
でも、彼氏には甘えられるのか?
そういや、甘えるの苦手って言ってたよな・・・
そんなことを考えていると急に目の前に古い家が現れた。
どうやら親戚の家のようだ。
たくさんの親戚が集まっており夜も遅くなっている。
玄関を眺めていると出てきた親戚のおじさんがこちらに怒鳴ってくる。
おじさん 「こんな時間まで何やってんだ!
今日と明日は大事な日だろうが!!!」
どうやら何か大事な日のようだ。
やらかしてしまった気分で家の中に入る。
中には沢山の親戚が集まり布団を敷いていた。
そんな中、親戚の青年達が談笑している。
青年A 「あれ聞いた!?なんか大雨の中で傘もささないで立ってる女!」
青年B 「あー!聞いたというか見たよ!隣町の方向かって歩いてたわ!」
外を見ると確かに雨が降っていた。
雷こそなってはいないがかなり激しい雨だ。
青年A 「見ちゃいけないものみたな・・・枕元に出るかも知れないぞ?」
青年B 「こわっ!やめろや!!」
その話を聞いた時には俺は家を出て、隣町に向かって走り出していた。
俺 「(行かなきゃ!!)」
なぜか確信があった。そんな訳もないのに。
かなりの距離を川沿いに走った。
雨もどんどん強くなっている。
それでも、誰かが見つける前に。
ほかの誰でもなく自分が助けなきゃいけないと強く思って走った。
俺 「・・・見つけた」
傘もささずに川を見つめ、立ちすくむ黒いワンピースの女性がいる。
全身ずぶぬれだ。
俺はそのまま駆け寄り抱きしめた。
俺 「はぁ・・・やっぱりな」
その女性はA子だった。
A子 「っ!?なんでいんの?」
俺 「こっちが聞きたいわ!!こんなとこで何してんだよ!」
A子 「いや・・・別になんもないけど・・・」
俺 「大丈夫。頑張ったな」
俺は抱きしめたまま頭をなでた。
自分がしてほしかった事を相手が望んでいるかなんてわからないのに。
A子 「・・・なんかしんどくて」
俺 「うん」
A子 「・・・気づいたら来てた」
俺 「うん」
腕の中で静かに泣くA子。
俺 「こういう時は彼氏とかじゃなく俺かな?と思って来てみたんだけど合ってる?」
A子 「・・・正解」
俺 「良かった。少しは恩返しできた気分だわw」
A子 「恩返しとしては全然足りないから、もう一個お願いしていい?」
俺 「なんでもどうぞ」
A子 「この川下ってみない?」
俺 「・・・は!?」
A子 「下りたい気分なの!!流されてみたいの!!」
俺 「全然意味わかんないんだけど!?死ぬぞ!?」
A子 「そこはおまえが守ってくれるっしょ」
俺 「そういうレベルじゃないけどな・・雨降ってるときの川って・・・」
そう思い川を見ると、とても穏やかに流れていた。
俺 「あ、大丈夫だわ。守れる。任せて」
そこから2人で手をつなぎ川を流れてみた。
俺 「流木あるからこっち来て」
A子を抱き寄せた状態で川を下っていく。
流れ着いた先は親戚の家の前だった。
気づけば雨も止み、朝日が昇り始め、明るくなり始めていた。
A子 「あーすっきりした!!」
俺 「それは良かったわ」
川から上がると、親戚の家の前には般若のような顔で
おじさんが立っており、その横には犬がお座りをしてこちらを見ている。
更に周りには大勢の親戚が集まっていた。
おじさん 「おまえなあ!!!!」
俺はまた怒られることを覚悟し下を向く。
おじさん 「・・・ほーん?はいはいはい。」
顔をあげると親戚一同が、俺たち二人を見てニヤついている。
俺 「あ、あの、A子です」
一応親戚にA子を紹介する。
おじさん 「・・・はやく家に入りなさい」
そういうと親戚一同は家に入っていく。
なにか勘違いをされているなと思いつつも、
恋人関係に見られることに悪い気もせず一応A子を見てみる。
A子は照れた顔をし、まんざらでもなさそうだ。
それを見て俺も照れた。
俺 「とりあえず入って?風邪ひくし。」
A子 「あ、うん」
手をつないだまま家に入ろうと前を向いた。
するとお座りしている犬だけが残ってこちらを見ている。
その犬の表情は決して犬の表情筋では再現できない程の悲しい顔をしていた。
~~おはよう自分。
今日は病院言って会社行かないとだな。
めんどくさ。
なんか立ったら目眩とふらつきすげぇし・・・ねむっ。
久しぶりにA子と夜中まで電話したせいなのか?
てかあの人みたいな悲しい顔してた犬ってどういう感情だったんだろ・・・
起床