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プロローグ
久しぶりに夜空を見上げた。煙草の煙の向こうに、月明かりに照らされた飛行機雲を見つけた。何年も生きてはいるが、夜に飛行機雲を見たのは初めてだった。
飛行機雲……
それを見た僕の思考は、一気に子供時代に引き戻された。夏の眩しい、真っ青な空。大きく盛り上がった、真っ白な入道雲。青を切り裂く、飛行機雲の軌跡。そんな景色が大好きだと言った彼女の、華奢なワンピース姿が浮かんだ。向日葵の模様がプリントされた、ワンピース。よく焼けた真っ黒な細い手足。その体にはまだ、女性らしさのない、中性的なシルエットしかなかった。細い髪が、汗ばんだ額にへばりついている。そんなことを微塵も気にすることなく、僕に満面の笑みを向ける彼女。
彼女は笑う。屈託のない、清い笑顔を、僕に向ける。
あの頃の彼女の瞳に、僕の姿はどんな風に映っていたのだろう。