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焦る心  作者: 兎餅
1/1

短編 完結済です

「何で何で何で!!」


私は冷や汗を垂らしながら学校の成績順位表を見ていた。

1位だった私の名前があるはずの場所には他の人の名前が表示されていた。


あんなに頑張ったのに、何で負けるの?!


出来うる限りの時間を勉強にさいたから、負けるはずなんてないのに・・・。


「あ、高坂、1位じゃ〜ん!やったな」


横で脳天気な声が聞こえる。

私が横をバッと見ると、そこには同じクラスの高坂と山本が立ってた。


サッと再び成績表に目を戻すと、1位の名前を確認する。

さっきは自分の名前じゃないって事だけしか頭になかったけど、そこには高坂光希って書いてあった。


「1位なんだ。別に順位はどうでもいいよ。自己ベスト更新出来れば」


「は?本気で言ってるの?」


私は高坂の言葉に思わず口を挟んでしまう。


「あれ?戸川さん?いつも1位だよね、凄いよね」


高坂は私を見てそういう。高坂は、私のこと知ってるんだ。意外。私は私の順位しか気にしたことなかったから・・・じゃなくて。


「私、今回は1位じゃないけど。嫌味?1位に執着ないなら返してよっ、1位の座」


私は高坂にムキになって言っていた。

自分でも何でこんな感情的になっているのか分からない。


「たまたまだよ。誰だって調子いい時と悪い時あるでしょ。戸川さん、いつも1位取ってるから、次はきっと取れるんじゃないかな」


慰められると余計にイライラしてしまう。

そのまま無言で私はクラスに帰る。


何が悪かったんだろう。席に戻るとテストを見返す。

ケアレスミスが何問かあるのを発見した。

どうして、どうして出来なかったの?!


自分を責める。


家に帰るのが憂鬱だ。

どうして出来なかったの?ケアレスミスなんかして。これがなければ100点だったでしょ!!


母親の怒鳴り声が予想できた。

2番なんて、言いたくない。唇を噛みしめる。


放課後、ホームルームが終わっても、私は帰りたくなくて、自分の机でうだうだと宿題をしていた。


はぁぁ。5分おきにため息が出る。


「どうしたの?ため息なんかついて」


後ろから声がして振り返ると、無人だと思っていた教室に、体操着姿の高坂がいた。


「別に、次のテストこそは1位を取るために宿題してるの」


「そっか、本当に勉強熱心なんだね、偉いな」


そう言いながら、高坂は、自分のカバンからタオルを取りだす。


「高坂って、部活やってるの?」


タオルで汗を拭く高坂に質問してみる。


「やってるよ。バスケ部」


「他のことしてても1位取れるの?全て犠牲にしてる私が馬鹿みたい」


私は思わずそう言っていた。

高坂が私の机に歩いてくる。


「1位が取れても、他の楽しいことを犠牲にするのは辛くないの?」


「・・・・」


辛くない・・・って言いたかった。でも、母親に友達と遊ぶのもダメって言われて、部活も禁止されて、1位しか私の頭の中になかった。1位を取りたい。

そんな欲望に呑み込まれてしまうような・・・。


私が、沈黙すると、高坂は言った。


「さっきも言ったけど、たまたまだよ。今回は勉強した所が良く出てたから。次はきっと戸川さんが1位を取るよ。だけど、少しでいいから楽しいことしたほうが勉強もはかどると思うけどな」


「少し・・・ね。ほんの1ミリ位しか出来ないと思う。とりあえず、今日はお母さんに怒られるの決定だし」


私がそう言うと、高坂は、カバンを探って何かを持って私の所へ来た。


「手を出して」


「え?」


高坂の言葉に手を出すと、高坂は紙に包まれたキャンディを私の手に落とす。


「これで、元気だして」


「えっ、キャンディ?・・・ありがと」


「1ミリ位は元気出たかな?」


高坂が何だか気遣わしげな顔でこちらを見ているのが嬉しかった。私を心配してくれる人がいることが嬉しい。


「そうだね、出たと思う」


そう言うと私は宿題を片付けてカバンを持つと、椅子から立ち上がる。


「帰るよ・・・ありがとね」


私が、そう言うと高坂は頷いた。


「どういたしまして、じゃあ僕は部活に戻るから」



高坂と別れて校門を出ると、私はさっきもらったキャンディを出す。


お菓子を持ってくるのは校則違反だけど、お母さんはお菓子は虫歯になるからダメって言うけど、なんかどうでもいいや、と思った。


包みを開けると、綺麗な淡いピンクのキャンディを口に放り込む。


その甘い味は、私に不思議と勇気を与えてくれた気がした。

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