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「…なんて言ってる場合じゃない!」


アストラルは懐から防御符を取り出すと、向かってくる黒竜に向かって投げつけた。


「Gyaっ!?」


上級魔術すら防ぐ、符術使い調(みつぎ)のそれだったが、ほんの一瞬のみ、黒竜の突撃を食い止めるのが精一杯…しかし、それでもアストラルが会敵一瞬のうちに全てを失うことは回避される。


アストラルは横っ飛びしての回避の後、驚いた様子でほんの少しの隙を作った黒竜の横っ面に全体重を乗せた内部破壊の一撃を!


「はっ!!」


ズドンッ!!


重機でもぶつかったような音と生まれる衝撃波。


それは普通の魔物ならば、一撃で意識を刈り取るどころか、生命を奪うほどのそれ。それはアストラルの剣無しで撃ち込める最大の技だ。


なんでこんな大技を最初から使ったのかというと、それは単純明快だ。


勝機は短期決戦のみだからである。


相手はアストラル自身見たことがないくらいの大きさで、上位種のため体力は計り知れない。さらに、こちらはその体躯に掠りもすれば、重症間違いなしと、攻撃を避けるだけで神経を擦り減らし続けることは請け合い。


圧倒的に不利。


もしかしたら、もうこんな隙が生まれることすらないかもしれない。


故にアストラルは自身の戦闘センスが出した答えに従い、


これで駄目なら打つ手がない。果たして…。


「Gya?」


……やはりダメか…。


瞬間、アストラルは身体強化を施し、逃げ回る。


これで()()()アストラルに勝機は完全になくなった。


絶望は確かにある。


しかし、まだ打つ手がないわけではない。


アストラルは翼で外壁を崩しながら、彼を追いかける黒竜の攻撃を避けながら、必死にリーゼロッテを呼ぶ。


彼女とはしっかりと本契約をしているわけではないのだが、仮契約ということでパスは繋がっているので、手の甲にある契約印を通して、彼女を召喚することが可能だ。


『リーゼロッテ!リーゼロッテ!!』


現実の身体が「はあはあ。」と息を乱しながら、黒竜の攻撃が避けられる、本当にギリギリのラインで意識を割くアストラル。


でも、いつまで経っても、リーゼロッテからの反応はない。


それからしばらく逃げ続け、黒竜の攻撃は避けるものの、礫により、徐々に身体が傷めつけられ、もう限界がすぐそこまで見えて来た時、ようやくその声は届いた。


『うっさいわね!!アストラル!!こっちは忙しいのよ!!今ちょうど良い流れが来そうだったのに!!あんたのせいで賭け金持ってかれちゃったじゃない!!』


リーゼロッテはいつものようにどうやらカジノで賭け事の途中らしい。思うところはあるが、今はそれどころではないので、助けを求める。


『リーゼロッテ!助けて!!竜が!!黒竜が!!』


『はん?なに言ってんの、あんた?竜?黒竜?ばっかじゃないの?そんなのこんなところにいるわけないじゃない!そんなことよりさっさと仕事終わらせて、買うもの買って帰ってくること!!』


わかった?と一方的に通信を切られてしまう。


「リーゼロッテ?リーゼロッテ!!」


思わず意識のみでのやりとりをしていたそれが口から出た。


その瞬間、守られていた均衡が微かに崩れた。


「GYAaaaaaaaっ!!」


「しまっ!?」


とっさに身体を逃がしつつ、残り少ない防御符を無理な体勢で展開するが、黒竜も一度はそれを体験していたからだろう。力で押し込まれ、勢いよく身体を地面に打ち付ける。


「ガハッ!!」


間違いなく、身体の骨が数ヵ所…いや、おそらくもっとだろう…ほど折れ、万事休す。


それでもアストラルは頼みの綱であるリーゼロッテを呼び出し続け、なんとかそれは繋がる。


『…助け…て…。』


アストラルのその声が届くか、届かないかというところで、リーゼロッテの言葉が耳を打つ。


『うざい。』


その言葉が聞こえたかと思うと、二人のつながり、絆を感じなくなり…契約印は虚空にキラキラとした光を放ちながら、儚く消えていく。


アストラルの目からホロリと涙は流れ、力なく垂れ下がる腕とは対照的に、アストラルを追いかけていた黒竜は天高く上っていく。


見逃してくれるわけではないことはわかった。


あれだけ逃げ回ることができた、抵抗できたアストラルへの褒美のつもりなのかもしれない。


大きく口を開くと、その奥には炎が見えた。


アストラルは最後に契約印を見つめ、「くそ。」と小さくつぶやくと目を閉じ、己の運命を受け入れる。


契約印が完全に消え去り、炎がアストラルを襲う。


瞬間。



『助けて!!』



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