第40話 そして出発、軽く悪女の片方についてネタバレしてみる。
「テイクちゃん、遅刻よ遅刻」
「すまんこった! おいら、ちょっと時間喰っちゃった」
スティラお姉ちゃんに怒られちゃった、何の事はない、
ネット動画配信のアーカイブで『Kuma-Kichi』さんの箱マスプレイ配信を見ていただけだ、
ああいうのは本当、時間を忘れちゃうね! といった間に、修行場にみんな勢ぞろいをしている。
「テイク君が最後だよ、戦闘スタイルだけど、あくまで友好的な師団だからね、そこを気を付けて」
「はいエリオ王子、やさしい顔して近づいて、砂漠の国の悪い奴らをこらしめに参りましょう、ホー!」
「なんだいそのホーって」「おたけびー! 本当は勝った時にやるんだけどね」「まずは友好からだから」
新日のレジェンドレスラーなんて誰も知らないか、異世界だし。
「正直スマンカッタ、ヴァー」
「それでテイク君のお目当ては」
「聞いちゃうの? 言っちゃうよ? いいんだねいっちゃって?」「出発だから手短にね」
もう、さっさとネタバレしてしまおう。
「ええっとドミニクの姐さん」
「なんだどうした、コンビニで巨大マシュマロを買ってくれるのか」
「あれ本当は焼いて喰うんだよ、は良いとして、砂漠の国の、悪い女竜騎士と仲良くなれる?」
そう、ゲームではこのドミニク姐さんと犬猿の仲だった。
「どのような悪い竜騎士だ」
「んっと、ドミニク姐さんが砂漠の街で少年と仲良くなったとするでしょ」「ああ」
「その少年が、ドミニク姐さんが落とした大切なアイテムを届けに来てくれたとする」
実際にゲームにあったシナリオだ。
「それはありはたいな」
「でも渡す直前で上空から、その悪女が竜の足で少年を掴む」「それで?」
「逃げて、離れた場所で見える位置で、目一杯上空から少年を落とし、アイテムもろとも……」
これはその悪女との、
宿命の始まりだったりする。
「それは悪女でなくとも誰でも許せない話だが」
「そんなこと、その悪女にさせたくなーい! 協力して」
「しかし、そんなに性格の悪い女なのか」「悪い将軍を愛しているだけだよ!」
ここで何か気付いたサイモン将軍。
「なるほど、そいつの名前がモッコス将軍か」「ちがーう! 忘れて!!」
こんなにすぐに擦られるとは。
「ではその悪い将軍を倒せば」
「んーーー、どうでしょーーー」
「なんだその、おじさんみたいな良い方は」
さすがドミニク姐さん、
中身の俺が四十九歳とお見通しか、
いやそんな訳ではない、単なる元レジェンドプロ野球選手のモノマネだ。
「さっきも言ったようにまずは友好だ」「はい王子! おいら従う!!」
「案外、贈り物であっさり改心するかも」「ハンド扇風機ごときでー?!」
「他に何かあるのか?」「みそきん三種セットとか」「ああ、あれ美味しかったよ」
俺がせっかくスティラお姉ちゃんマリーヌちゃんに沢山買ってあげたのに、
他の人達にも分けてやんの、貰い物を流すなよっていう、まあ多かったからね、
にしても一国の王子が、しかもゲームの主人公が『みそきん美味しかった』とか言うのかよ。
「テイクちゃん、戦闘になったら勝てるのわかってるから最初はやさしく、
そうしないと、女性には気を使わないと嫌われちゃうよ?」
「あー、スノちゃんとクリネくんが恋人手繋ぎしてるー! ひゅーひゅー!」
と、無駄にマリーヌちゃんを曇らせた所で出発だ。
「では最初は我がバスモー国からだ」
「へい将軍! 甘いのが苦手な人用に『ところてん』も用意したよ!」
「ありがてえ、心遣い感謝する」「いいってことよ」「……お前はいくつなんだ」
と言うサイモン将軍を先頭に、
細かいメンバー紹介は省略して、
ついに修行場を離れたエリオ王子御一行なのであった。
(おいらテイクは、あくまで脇役のひとりだよ!)
本来は早々に戦闘から外され、
育てられる事もなくゲームのエンディングを迎えるキャラだ、
ただ今回、俺がその空気キャラに転生したというだけの話で……
(ほんっと、目の前のハゲに転生しなくて良かった)
というハゲ僧侶もといハゲモンクの、
リーフ様の後頭部を見つめるおいらであった。
さあ、悪女竜騎士のたわわを見つめに行くぞーーー!!
「テイクちゃん」「はいスティラお姉ちゃん」
「私と恋人手繋ぎをしましょう」「うっほほーーーい!!」
こっちのたわわも、
なかなか良いものだよっ!!!
「……テイクくん、私とも」
「あっマリーヌちゃん、さっきはごめん」
「いいの、テイクくんがいる……からっ……」
こういうの、
地味に心に効く。
まあ俺が悪いのだが。
(ちょっと反省)
新しい悪女に期待を込めるのも良いが、
今のおいらを、俺を愛してくれている悪女も大切にしないとね!!




