第35話 本編のストーリーが動き始める前に
おいらテイク十五歳のバースデーケーキをみんなで食べ終えた、
ええっと、そうは言っても元の世界では四十九歳で(多分)死んだから、
それを足すと……いや、転移してきてからの年数だけを足せばいいのか、えっと……
(こまけぇことはいいんですよ!)
「どうしたのテイクちゃん、今夜はお姉ちゃんふたりと一緒に寝ましょう?」
「テイクくん、挟まれて寝るの好きだもんね」
「それだとリリアンちゃんが一人で寝ることに」
笑顔を見せるリリアンちゃん。
「私、一人で寝るの、夢だったんです!」
「あっそうか、孤児院だとみんなで寝るもんね」
「泣きたい時、一人になりたい時は押入れに入ったりするけど、ちゃんと個室が欲しくて」
なんとなく気持ちはわかる、
前世で見たテレビ番組で相撲部屋の特集をやっていて、
幕下以下は大部屋で雑魚寝でどうしても一人になりたい時は布団部屋に籠ってたな。
(布団を入れる倉庫部屋ね、普通の押入れじゃ入りきらないから)
ただ、このアジトだと個人部屋はまだ四つまでだ、
ひとつはこのアジトの存続、僕の保持を許して貰う条件として、
ガルデーダスの兵士の皆さんが共同で使う部屋として献上させられた。
(あとたまに例のハゲも使っているよ! 今日も来てるけど)
えっなぜこのテーブルに呼ばないのかって?
ハーレムの宴にア●ムスファミリーに居そうな男を入れるのはちょっと……
話を戻そう。
(残りの三部屋、ひとつは当然僕、後はスティラ様とマリーヌちゃんね)
マリーヌちゃんは本来はようやく病気の完治した弟と一緒に使って、
今まで辛かった、苦労した、本来は悪女になってまで護ろうとしたクリネくんと、
仲睦まじく幸せに暮らすはずだったのが、早々にマティスリアの第二王女に奪われてしまった。
(辛いのが、たまにふたりでこっちへ来てマリーヌちゃんの部屋で……)
辛くなって半泣きで僕の部屋へ逃げてくるんだよな、
それでその日の、夜の僕のお世話がそれはもう濃厚に!
僕も僕で「おいら、マリーヌちゃんを慰める!」とか言ってですね……
「テイクくんどうしたの? どこかかゆい?」
「ううん、マリーヌちゃんと寝てた時の事を思い出して、ちょっとむずむずした!」
「いいよ、今日はこの後、明日朝まで一緒に」「でしたらこのスティラ、わたくしも」
確かにそういう日もある!
三人して丸一日、ほとんど部屋から出ず、
僕の部屋で……でも、今日は誕生日でも、そういう事やってる日じゃないんだよな。
(リリアンちゃんは、十一歳でどこまで把握しているんだろう?)
現実世界、元の世界では反抗期まっただ中かな、
ちょっと恥ずかしそうに俯きながらチーズクラッカーを食べてる、
本来はみんなのお土産だけど、孤児院に帰らない事になった? ので、彼女自身の分か。
(視線に気づいてハッとなった!)
「あっ、テイクお兄ちゃん、その、気になって、いっこだけ」
「別にいいよ、でもごめんね、個室欲しいって言っても埋まってるんだ」
「それなのですが、ホテルというものを作れるようですわ」「それはちょっと」
まあ確かにホテル暮らしの作家とか居るよね、
年配の大作家とか実家がもうボロボロで住めなくなって、
独身だと掃除とか食事とか全て用意して貰えるホテルに住むとかあるらしい。
(セキュリティも安全だからね、まあお金はすんごいかかるけど)
リリアンちゃんが自分でポイント稼げるようになって住むのはいいんだけれども、
下手に泊まれる人を多くすると、ただでさえ余計な? 人がいっぱい来ているんだ、
俺の城たるここをこれ以上、有名にしたくない、ぶっちゃけハーレムの今後が危うくなる。
(NTRの危険性も、無い訳じゃあないんですよ!)
余談だが、なろうだとかカクヨムだとかにタグにNTRとかネトラレとか寝取られとか入れると、
引くほど閲覧者が増えるとか、現にカクヨムコン短編部門で寝取られものを締め切り間際に適当にぶっ込んだら、
とんでもない数の閲覧数&星の評価が入って、最終週間順位が抜けて総合一位になったとかなんとかかんとか……
「それであの、質問が」
「はいスティラさん、どうしました?」
「ホテルの下に、ラブホテルというのがありましたが、どういうものでしょうか?」
(あっ、見つけちゃったかぁ)
マリーヌちゃんがぽそりと『大人が出てきた』とか言ってるけど、気にしない!
リリアンちゃんも小声で『えっだれ?』とか言っているけど、まあ慣れて貰おう。
「んー、ラブなホテル、男と女が泊まる宿だよ、多分ピンク色してるよ! あとは察して!」
ていうか文字でわかるでしょ『ラブホテル』って!
ラブなホテルだよ、異世界、ファンタジー世界だからって甘えんな!
子供も遊べるゲーム? こちとらもう悪女ふたりと毎晩ピーしてピーしてピーーーして貰ってんだ!!
(と、実況なら叫んでいます)
実況主の『きろえもん』さんなら「そぅなのぉ?」とか言ってきそう。
っていけないいけない、食後に今後のルートについて説明するつもりだったんだ、
でも甘いケーキいっぱい食べて眠くなってきちゃった。
(だから、手短に話そう)
「ええっと、ここからは真面目な話、今後起きる事なんだけど」
「はい、天啓、予言ですねテイク様」
「話は聞くけど、ちゃんと後でテイクくんを戻してよね」
あーーー……
この二人が好きなのは、
やはり土間幸一ではなくテイク少年なのか?!
(この世界に実況タグがあったら、後でNTRとか入れておこうか)
現にスティラさんを寝取ったようなものだし。
「世界を救うために仲間にしたいのが、とりあえずあとふたり、
余裕があればもうひとりかふたり、は良いとして、本来ならばもうすぐ、
魔界と手を組んだ国の者がガルデーダス城を襲うんだけど、そのメインの国は潰したんだ」
と、そのメインの国、ダングルキアで悪の側近をやっていたスティラさんに言うとウンウン頷いている、
その勢力に加勢する予定だったマリーヌちゃんも……今こうやって生きているだけでストーリーが大幅に歪められている。
(だからこそ、慎重に事を運ばないと)
お水を一杯飲んで、話を続ける。
「ええっと、この大陸に飛竜の産地が二か所あるのはご存じで」
「はい、高地にある雪国のマティスリア国と、あと確か砂漠にある」
「タラマスカス国だよね、あそこ、『砂の魔道士』ていう不気味な魔法使いが多いらしいけど」
マリーヌちゃんよく知ってるな、
本来のストーリーだとその魔道士軍団に、
ちゃんと足止めしないと実験体にしちゃうよって脅していたけど。
「そのメインの国と全面的に手を結ぶのがそこなんだ、
まあ言う事を聞かないと全てのオアシスを枯らすって魔王に脅されたのもあるけど、
野心家の王子がもうすぐ継承して、砂漠周辺の国を全て奪おうって考えているんだ、それが動き出す、はず」
そう、ダングルキアとは別口で魔界の方からアプローチが行くんだ、
確か時系列的にはダングルキア国のグナガンが魔界と手を結び、そこから情報を得て、
魔界の魔王がタラマスカス国へ……だから、きっかけは潰してあるのかもしれないし、それはそれこれはこれ、で起きるかもしれない。
「では先手を打たれるのですね?」
「んー、動かなきゃいいんだけど、探りは入れたい」
「じゃあテイクくん、その周辺国に警告を」「無い所に煙は立てられないからなぁ」
完全な大人口調にちょっと怯えているリリアンちゃん、
まあ十一歳の少女からしてみたら、今日十五歳になった少年が、
中身四十九歳な口調で淡々と話してたらそりゃあ怖いよなっていう。
(でも今は真面目な話だ、続けよう)
後でテイク少年に戻ればいいんだし。
「では情報を入れるために、アサシンを」
「実は仲間にしたいふたりのうち、ひとりはアサシンなんだ」
「まあ、それはどちらの」「タラマスカスの隣国、闇の森に住む……まあそれは後で」
どっちにしろ、中心となる本命・タラマスカス国からだ。
「それではそうなされるのですか?」
「あの国の首都、中心のオアシスの周りに八つの砦がある、
その中のどこかと通じたい、できればそうだね、女性の竜騎士隊長が居ると見た!」
そう、まさに彼女が、
スティラ様と並ぶ大悪女なのであーる。
「……お見通しなのですね」
「まずは友好的に行くの?」
「そうだね、と同時に水面下で悪い事をしていないか調査だね、砂漠の国だけれども!!」
……ツッコミが欲しい、
配信で実況がしたいよう。