第21話 悪女ハーレムの第一歩はじじい抹殺から
「ぐうっ、なんだお前達は、魔法がまったく……効かぬ!!」
このゲームある意味最大の悪役、
人体実験が大好きな大魔導師シャバドが今、
床に這いつくばってドミニク姉さまに顔を踏まれている。
(正確に言うと右の頬が床で、左の側頭部を踏まれているよ!)
正直、作中でのコイツの悪事を考えれば当然だ、なにせ最期が……
『ぶわっはは、ワシを倒した所で姫の記憶は戻らぬ、
身も心も永遠にあのお方のものだ、永遠になっ!!』
とまあ、ゲーム好きな少年少女に寝取られのトラウマを植え付けた張本人、
うん、このまま踏みつぶされた所で慈悲は無い、まだする前の状況であっても。
「テイクのおかげで闇の攻撃魔法も涼しい風だったな」
なにせ修行場、秘密基地で魔法防御力を最大値まで上げて貰った、
防御確率99%なうえ喰らっても受けるダメージは1か2だ、余裕の圧勝である。
レイラさんも険しい表情で見下ろしている、汚物を見るかのように。
「あれだけの子供の死体……許せませんわ」
だよね、まるで某大穴冒険アニメの、
第五階層最深部に住むなんとか卿みたいな、
それはそれは酷い実験をしていた、おやおやおやって言いそうな。
(あっ、ミラールさんが蹴った!)
「聞いたらいろんな各地の子供が連れ去られていたけど、どうする?
ボクはこの場で殺して良いと思うけど、あっ、ファルはその子達の面倒を見てる」
偉いな最年少、俺も本当は手伝わないといけないんだろうな。
改めてドミニクお姉様が俺に、いやおいらテイクに尋ねる。
「どうする、殺すのであれば手を汚すのは私の仕事だ」
むしろ、この段階で消してしまわないとやっかいだ、
ゲームでも何度も何度も取り逃がす存在だから、
確実に仕留められるタイミングで、とっとと抹殺しておいた方が良い。
(ちなみにモブというか助手というか、名無しの敵魔法使いは全滅です)
「んードミニクの姐さん、やっちゃってくだしあ!」
「くだしあとは何だ」
「あっ、くださいって意味です(真顔)」「やっぱりテイクくん、顔が変」
子供の顔してないよね多分。
「では子供達の魂に成り代わり、慈悲は無い、行くぞ」
「待って! 待ってよーーー!!」
奥から少女がやってきた、あれは確か……!
四大悪女のひとり、小悪魔女マリーヌだ!!
そう、見つけたら共闘か回収と考えていたのは、彼女である。
「お願い、私、協力する代わりに弟の病気を治して貰うの」
「なんだ、お前は被害者ではなく加害者なのか」
「まず、約束通り弟を治して貰って! その後なら何してもいいから!!」
……いや、それはオススメできない、
なぜならこの這いつくばっているシャバドのせいで、
弟のクリネくんは、とんでもないバケモノになって主人公達の行く手を阻むのだから……!!
「だそうだシャバド」
「な、治す! 治すからまずは放せ!!」
あっヤバい、これ罠だ。
「ドミニクさん、まずは首を狩って」
「いいのか?」
「でないと今後、相当な長期間、まずい事になりますよ」「よしっ」
躊躇なく剣で首を……!!
「ぐあああああああああ!!!」
うん、これでめでたしめでたしだ。
「あああクリネが! クリネがまだあああああああ!!」
「マリーヌちゃん、弟くんの所へ案内して」
「……なんで私の名前を知っているの?!」「あっ」
まずい、まあ相手は子供だからどうとでもなるか。
「クリネくんどこどこ、おいら、なんとかする!」
「……急に口調が変わってない?」
「いいから! おいらに、おまかせーー!!」
案内されて行った場所には……!!
(うわっ、緑の水槽に沈められている)
でも絶えず空気はポコポコ入れられている、
ってこれで命が長らえているっておかしいだろ、
さすがゲームの中の世界だ、こまけぇことはいいんだよ的な。
「お願い、君、なんとかして」
「なんとかするかわりに、条件がある!」
「なあに、私、クリネのためだったら、何だってする!!」
……そのせいで、ゲーム内で何人の重要人物が消された事か。
(本当に、育てばとんでもない悪女魔法使いになるんだよなぁ)
だからこそ、味方にしたときの頼もしさは絶大だ。
「悪い事はしない、おいらの言う事をきく、以上!」
「弟を助けてくれたら、そうするわ」
「んじゃ、こっから出して」「ええっ?!」「では私達で」
四姉妹で水槽から無理矢理出す、
弟クン、口から緑の液体を大噴出である。
(意識はあまり無いみたいだな)
よく見ると全身まだら模様、
たしか不治の病気に犯されているんだっけ、
最終的に姉弟共々、別々の意味で悪のバケモノになるんだけれども。
「じゃ、これ、飲ませるよーーー!」
「それってまさか……エリクサー?!」
「よく知ってるねー、はい、どばどばどばーーー」
あっ、むせながらも飲んでる!
レイラさんが上手い具合に補助、介護しながら……
やがて全身の斑点が消え、血色も普通になった!!
「クリネ! クリネー!!」
「……あれっ、お姉……ちゃん?!」
「クリネーーーーー!!!」
感動の再会である。
(あーあ、これでマリーヌちゃん、悪女でなくなっちゃうかも)
まあ今更か、
確かに四大悪女のひとりではあるものの、
俺からしてみれば若すぎるしその、憎いだけで色気が無い。
(子供向けゲームでもあるからね仕方が無いね)
わんわん泣きながら抱き合う二人を尻目に、
俺は記憶を消す魔導書をじっと抱えながら思う。
(さあ、いよいよ本丸へ突入しに行くぞ!)
「テイク良いか」
「あっはいドミニクさん」
「人格がころころ入れ替わるな……」
やっべ、こうなったらテイクを演じよう。
「おいら、子供達を解放できて、嬉しい!」
「それはそうとこれだけの人数だ、どうする」
「んーーー……あのハゲに、おまかせーー!!」
そう、会いたくてもなかなか会えなかった、
孤児院のあのハゲ僧侶の所へ、押しつけてしまえー!!
(ついでに最大の悪女戦に、助っ人として参加させよう!!)
ふう、これが小説なら、
やっと第一章クライマックスが見えて来た、って感じだな。
※子供の死体はちゃんと弔ってあげました。
じじい? そのへんに埋めとけ!