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第19話 俺の前世は、土間幸一。

 俺は放送部で好き勝手喋るのが好きだった、

 親が共働きで帰るのが遅いため、俺はお婆ちゃんに育てられ、

 テレビの時間は勉強や家事手伝いが多く、娯楽はもっぱら枕元で聞くラジオだった。


(ラジオ局で喋れば、沢山の人を相手に話を聞かせる事ができる)


 自分は聞く方より喋る方に憧れ、

 学校の昼食時間、本当に好き放題喋りまくった、

 先生の悪口を言って怒られた事もあったっけな。


(毒は面白ければ薬だって思ったけど、毒自身にとっては毒だった)


 まあそんな話はいいとして、

 俺は早くしゃべり手になりたい、

 そんな思いで高校を卒業した先に入ったのは、放送の専門学校。


(正確にはアナウンサーの専門学校だけれども)


 もちろんキー局のアナウンサーを目指すなら立派な大学に四年通う必要がある、

 でも俺がなりたいのはあくまでDJ、粗く言えば『馬鹿でも喋りが面白ければできる』パーソナリティーだ、

 現にラジオの帝王と言われるDJの人は中卒、まああの人は元落語家だけれども。


(経歴はどうでもいい、面白ければいいんですよ)


 そして専門学校で講師に来ていたテレなんとかサウンなんとか、

 今はもうどっかのラジオ局に吸収されたラジオ番組制作会社のディレクター、

 その人が東京区外のコミュニティFMで格安でDJをする人を探していて、俺がそれに受かった。


(当時はスポンサーも複数付いて、月二万円のギャラだっけ)


 正確には源泉徴収で18000円だったけど!

 そこで俺は本名の土間幸一ではなくって、

 ディレクターが土間の『ど』から『どんぐり幸一』の名前をくれた。


(見た目もそんな感じとか言われた、今はそんな物陰も無いけど)


 幸い、住んでいた中野坂上のボロアパートで大家のお婆ちゃんが良くしてくれて、

 取り壊されるまでの十年間は食事に困ってもそのお婆ちゃんが助けてくれてたっけ、

 生きているとしたらもう111歳かぁ、うん、生きてないな、俺だって死んでるみたいだし。


(そんなこんなあって、もちろんバイトも並行してDJを続けていたんだけれども……)


 五年くらい経ってからかな、そのミニFMのディレクターが移動になった、

 アメリカの日本人街にある『在米日本人向けコミュニティFM』で現地の日本人とやるとかで、

 代わりに来たディレクターは冷たかった、ギャラも六千円に下がり、それから一年半で俺もクビになった。


(そこから先はまあ、紆余曲折だった)


 一応は『ラジオ視聴ライター』みたいな仕事も少しやっていたが、

 ほとんどがDJとは関係の無いバイト、でもさすが東京、ぎりぎり食っていける。

 そんな間もテレビゲーム機でゲームをやる時間だけは作っていたっけ。


(そんな毎日を送っていた俺に、ついに時代が来たとでも言うべきか)


 そう、ゲーム実況者ブームである。


「ええっと、俺のこと憶えている人っているかな、え、知らない?

 昔、とある地域FMで『どんぐり幸一』っていう名前で……え、俺って言うなって??」


 地道に動画生配信を続けているうちに、

 投げ銭というシステムで俺は潤って行った。


「はい、重大発表なんですが、どんぐり幸一って名前は当時のディレクターさんに付けてもらったもので、

 そろそろもう、こっち専門の名前で行こうと思ってね、俺、いや私は、これから『どんぐりコロリ』で行こうかと」


 などと行っていた配信は当然、DJ時代より潤っていった、

 バイトを辞めてもやって行けるくらいには……

 過去の名前を否定しておいて何だが、コミュニティFMでのトーク力が本当に俺を助けてくれた。


(当時、一緒に仕事した声優さんの裏話を挟んだからかな)


 実は俺をパーソナリティにしてくれたディレクターさんが、

 声優事務所ともつてがあり、月に二、三回はゲストに格安で声優さんを呼んでくれた、

 すぐ消えて行った声優さんも居ればのちの大物声優さんもいたり、あれは本当に楽しかった。


(ラジオを辞めてからも、その経緯もあって声優ラジオを聞きまくったっけ)


 だから実況中も面識あるない関わらず、

 声優ネタをちょくちょく挟んでいたのが、

 それマニアに受けが良かったのかもしれない。


(でもさすがに、配信主を何年も続けていたら、飽きられるんだよなぁ)


 かといって他の配信主とのコラボは上手くいかなかった、

 やはりこっちがまがりなりにも『ちゃんとした』プロのDJを経験しているのに対し、

 なんたらチューバ―やら配信主は独学というか独自の進化、ノリ、無法的な喋りだったりする。


(その壁が、どうしても、ね)


 こちらは一応、経験に基づいて例えば悪口を言うにしても『怒られないスレスレ』を『笑える』ように言っている、

 でもああいう若い子達は『悪口』は単なる『悪口』で、攻めるとかいう、その『ぎりぎり』すら考えていない。


(などと言うと、老害扱いされるんだろうなあ)


 そこはまあ49歳だから仕方が無いとして。

 人気が落ち始めるとどうやって視聴者や投げ銭を確保し続けるか?

 それは……『より過激な方向へ行く』か、『身体を張る』しかない。


(前者は、どうしてもストッパーが働いてしまう)


 同人ゲーム『私立おねショタ学園』実況は怖くなって途中で止めた。

 だから後者だ、でも長時間RTAはいまいちというか、自分が飽きた。

 なのでひとつの有名RPGをダラダラ喋りながら……これが俺の性に合った。


(でも、でもそれが俺には行き過ぎて……そして命を)


 おそらく僕は、死んだのだろう。

 じゃあこの世界は何だ? 心臓が止まって死ぬ直前、

 脳がフル回転して死ぬまでの数分、いや数秒を長い長い時間にして妄想世界を作り出しているのか、それとも……


(本当に異世界なら、それは『神』という視聴者の前で、実況をさせられているのでは)


 それなら大体わかる、

 というかそう考えてやるしかない。

 だったら……ならば神の望む通りに、やるしかない。


(だとしたら、この世界での俺の命も、そう長くないかもしれない)


 そうであるならば、

 俺は俺で俺の好き勝手にやらせて貰おう、

 もちろん見ている視聴者を楽しませながら。


(目標は、ゲームの四大悪女を仲間にして、俺は、俺は、ぐっちょんぐっちょんにされたい!!)


 それで死んだら本望だ、

 そのために一番悪くて一番憎くて、

 そして一番強い悪女からまず攻略してしまおう!


(そのために、行かなくてはいけない場所がある!!)


 そこへ行こう、うん、

 まずは魔法都市ジーマの秘密魔法研究所、

 そこに居る闇魔道士から……あのアイテムを、手に入れるんだ!!!



「……という前世なんですよ」

「はあ、そうですか」

「わかります?」「わかりません」


 やっぱり受付人形に言っても意味無いかぁ。

 それにしても何だろ、一人でコレに話すと前世の喋り方が出来た。


(あとこの、受付カウンターに布団敷いて寝るのも、すっかり慣れたなぁ)


 寂しくないしぃ、ねっ!!

 さあて、明日は朝から四姉妹を巻き込んで、

 悪女ゲットの旅その序章へと、出発だあああああ!!!

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