なんだか未来がズレてきている気がする
更新遅くなりました!
ここからペース上げていけたらと思います!
改めて考えてみよう。私は類稀なる美少女でありそして毎日贅沢しても生きていける収入(支援金)があり、正直高校に通わなくても問題ないレベルだ。
そう、問題はそこにあったりする。
「いざ何もしなくて良いと言われるとしたくなるんだよな」
普段は何もしたくないと休みの日は家でゴロゴロしたりするのが、長期休みに入ったりインフルエンザになったりすると何故だかめっちゃやる気が出たりするあれだ。
「私の目的は何もせずにぐうたら過ごすこと。だけどここまでくるとなんだかなぁ……何もせずにはいられないっていうか絶対面倒臭いことになると分かってるのにやりたくなる」
具体的に言うならあの部活が気になってたりする。あのなんだっけ……えっと確かこの辺に……あった。貰った冊子を開けば現代娯楽研究同好会とかいう長ったらしい名前が。
「帰宅部でも良いというか帰宅部が良いというか、でも部活に入ったほうが確実にぼっちにはならなさそう。三年間友達がいなくなるとかいう地獄を味わうのは勘弁な」
女友達の作り方とか分からない。より正確に言うならば女目線から見た友達の作り方。多分だけど男側に靡いたら調子に乗ってると思われて苛められる。だけど全く見向きもしなかったら調子に乗ってると思われて苛め……あれ? これってゲームオーバーじゃね?
「やっぱクラスでは中立を装って普段から部活に入り浸るのが正解ルートか」
今後の動向を決定した私は座っている回転椅子をくるくる回しながら手に持ったスマホを目の前に掲げてパシャリ。
「自撮りしたがる奴の気がしれなかったけど、これは確かにやりたくなるよな」
私の今の服装は頼りない肩紐に支えられた生地の薄い上着とミニスカート。これまた生地の薄い上着を羽織ってるけど要するに露出の激しい姿をしている。
そして私の手に持つスマホには脚を抱え込み笑みを浮かべる儚げな美少女がいた。潰れた大きな胸はその柔らかさを画像越しにも主張し、シミ一つない綺麗な太腿はしかし絶妙な角度によってその神秘が露見することはない。
「これチェッターに上げたらどんだけ良すぎね? 来るんだろうなぁ。きっと全国の男共がこの画像を片手に……やばいやばい背徳感と嫌悪感と興奮が絶え間なく襲い来る」
想像し、興奮し、そして転がり回る。これが最近の私の日課だった。まだ自分自身に手を出すのはなんか怖いからしてないけどこのくらいの妄想は許して欲しい。
「小悪魔系女子とかプライド高い系女子なんて実際にいるのかと思ってたけど、この体になって分かる。この全能感は美少女になってみないと分からないやつだ」
床に寝そべりチェッターを開く。世界中の人達と繫がる事のできるこのアプリは最近は他のSNSに押されているみたいだけどそれでも未だに大人気アプリの一角を誇る。
かくいう私もチェッターの廃人とまではいかないけど、ちょくちょくチェックしてみるくらいには利用してたり。
チェッターはフォローとフォロワーがある一般的なSNSであり、数年前から利用している私のアカウントはその長い期間の成果もあってかフォロー数四桁にフォロワー数二桁を誇ってたりする。
……いやだってしょうがなくない?
「基本的に何も投稿しないし、良すぎね? か拡散? しかしないからなぁ。なのにフォローしてくるのが異常説」
私はこの美少女を利用したSNS活動を今のところしていない。別に身バレが怖いとか何言われるか分からないとかそんなことは全然全くこれっぽっちもないけど、こういうのはやっぱり自分だけで楽しむのが正解なのだ。
「ほら、パシャリ」
仰向けで目元を指で隠し脚を良い感じに動かして自撮りをすればほら出来上がり。
「これは……いかんでぇ。いやマジでコレはヤバイ。誰かにフォルダ見られたら死ぬ気しかしないわ」
ひたすら自撮りをして楽しんでから私はパソコンを起動してスマホと繋げる。そして分類別に自撮りを分けて保存してからスマホからデータを全て削除する。
因みに分類別というのは人に見られても大丈夫、人に見られたら怪しい、人に見られたら終わるの三つに分けてたり。最近の悩みは見られたら終わるフォルダが増えすぎていること。
ベッドに体を投げ出して天井を見上げる。正直な所この体になってから私は……いいや、俺は得しかしてない。
普通かそれ以下だった容姿は誰もが羨む美少女になりその美貌が失われることはなく、何不自由ない生活を保証されるばかりかそれ以上に稼げるスペックがある。
「子供が作れないっていうデメリットはあるけど、正直男と付き合うとかましてや結婚するなんて全く想像すらつかないからなぁ。デメリットがその体をなしてないのよね」
男から男に、女から女になった人達は困るのだろうが御生憎様こちとら元々男なのだ。最初から男と結婚しようなんて思ってないし全く問題はないのだ。
「取り敢えず明日は部活の見学会にでもいこうかな。メグミンさんが一緒に回ろうって言ってたし。というか部活動見学の為に一日丸ごとっておかしいでしょ。マンモス高校って何処もこんな感じなのか?」
少なくとも私が元いた高校では部活動見学は放課後に各自でするのが当たり前だった。授業丸ごと潰して行われるなんてあり得ない。
「メグミンさんは現代娯楽研究同好会……長いなこの名前。ごらけんでいいや。ごらけんはないなって言ってたし一頻り見て満足してきたらうまいこと言って別れて私だけ行くか」
明日の予定を立て終わり目を瞑る。すると途端に眠気に襲われて夢の世界へと誘われる。この体になったメリットの一つに寝付きの良さがあったのを今思い出した。
「じゃあ私もごらけんに入るよ」
「え? まだ何も言ってないんだけど?」
思わず敬語も忘れて突っ込んでしまう。調子に乗ってるだなんて敵意を向けられると思ったけど、どうやらメグミンさんは気付いてなかったらしい。
「だってさとリンが気になってる部活なら入るしかないじゃん? あと敬語なんて使わなくていいよ?」
「いや大丈夫です。じゃあ、はい……見学行きますか」
気付いていたらしい。これが本心からなのか、それとも暗に調子に乗るなと言われているのか。二つに一つ、天国と地獄を味わいながらズシズシと響く胃痛に悩まされつつ部活動見学の続き、正確には同好会に目指して歩き出す。
メグミンさんはその活発な性格に似て運動部が好みらしく大体の運動部の見学を既に終わらせた。それは男女区別なく、女子部からは可愛い可愛いともてはやされて男子部からは是非マネージャーになってくれと言われた。
運動部に入るのは兎も角絶対マネージャーにはならないに決まってるだろ。頭おかしいのかこいつら。こちとら男だぞ?
「ここがごらけんかぁ。正式名称は現代娯楽研究同好会だったっけ? 長い名前の割にあれだねぇ……ちっちゃい?」
「メグミンさん。もう一回最後の言葉言ってください」
「え? えっと……ちっちゃい?」
「はい、ありがとうございます。でも同好会ならあまり大きな部屋を使わせて貰えなくてもおかしくはないですよ」
メグミンさんの言葉を脳裏で何度も反芻しながら、絶賛見学中! と紙が貼られた扉を前に深呼吸。廊下に並んだ扉の間隔から恐らく部屋の中身は教室の四分の一くらいだと思われる。
マンモス高校に相応しい大学並みの敷地面積と校舎の規模を誇る学校にしては小さいが、他の扉と繋がってるなんてことはないだろう。曇ガラスで見えないけど両隣にも張り紙があったりした。『地球陰謀歴研究同好会』と『宇宙摩訶不思議同好会』の二つの張り紙。正直ごらけんと同じか下手したらそれ以上に興味を唆られるけど、長い廊下にある扉ほぼ全てに貼られた張り紙も虚しく人っ子一人いない空間は正直気味が悪い。
「それじゃあさっさと入ろうよって重!」
メグミンさんが扉に手を掛け、そして悲鳴を上げた。学校の扉にしては珍しいスライド式ではない扉は取っ手を下げて引くタイプらしいけど、メグミンさんは両手で持ってなんとか扉を開けていた。何故にこんな小さな部屋の扉がそこまでの重さを持っているのか? 開いて分かる扉の分厚さに目を丸くさせ、そして聞こえてきたそれに理由を察する。
「なんか……帰りたくなってきた」
中から聞こえてきたのは誰かの話し声だった。それも一つや二つじゃない。恐らくは何らかの映像を見ているのだろうが複数人の喧しい話し声に混じって誰かの叫び声だったり楽器の音だったり自己紹介だったりが聞こえてくる。
「えぇ……なにこの魑魅魍魎」
「意味が違うと思うけど、合ってると思う自分もいる」
突然だった。扉が開いた音に気付いたのか中にいた同好会の一員らしい人達が一斉にこっちを向いてくる。何故だか全員の目がガンギマリになっている気がして、思わず扉を閉めようとした私は同じような行動をするメグミンさんと目があった。
瞬間、何も言わずとも私達の意思は一致した。このまま扉を閉めて何事もなかったようにここから逃げ出そうと。
「新入部員だぁ!」
重たい扉を簡単に開いて中から飛び出してくるのは女子の制服を着た男子生徒。まだ着てるのかこの人。
「え!? あ、えっと、ちがくてその……私達は」
「ありがとう! 皆ぁ! 新入部員だぁ!」
メグミンさんが助けを求めるように見てくるけどごめん、私にはどうしようも出来ない。
気付かれないように中に入っていく二人を置いて扉を閉めようとする私の肩に誰かの手が重なった。
「一人で逃げようなんて考えたらだめだよ?」
耳元で聞こえてきた声。恐る恐る振り返ったそこには魔法少女のコスプレをした人がいた。私よりも一回り以上背の高い女の人。170センチはありそうな背の高い美人さんといった人がフリフリのコスプレをする姿は正直……。
「いま変なこと考えなかった?」
「考えてないです。今入ります」
もう逃げられない。そう分かってしまった私は連れられるままに中に入るしかなかったのだった。