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突然変異で女の子になった元男はずっと引き籠って生きてたい  作者: メモ帳
また高校受験しなきゃいけないのマジ?
5/10

入学大失敗の巻き




「人はいつ死ぬと思う? 家を出る時さ」

「何言ってんだこいつ」


 私は微動だにせずに自室として宛がわれた部屋で仁王立ちしている。正確に言えば命令された通りに体を動かしているけど立ったままなのでセーフだ。


「スカート履かせるから足上げて」

「あ、はい。分かりました」

「はあ……全く。なんで私が妹になった弟の着替えを手伝わなきゃいけないのよ」

「そっちが言い出したんじゃないか。罰ゲームだって」

「こんな精神削れるんだったらやめときゃ良かったわ」


 なんと今日は高校の入学式。体調不良を装いベッドで咳き込んでいたのだが何故か直ぐに見破られた私は罰ゲームという名目で姉さんの手によって着替えさせられている。初日というのもあって荷物は恐ろしい程少なく通学用の肩掛けバッグに入っているのは書類と筆入れくらいだ。後は着替えだけなのだが、凄まじい勢いで精神が削れていくのを感じ、こんな状態で持つのか怪しんでいると頭を叩かれた。


「はい終わり。自分で確認して」

「あい。うおぉ」


 姿鏡に映っているのは紛れもない女子高校生だった。所謂JKというやつだ。まさか自分がこの制服に袖を通すなんて考えた事もなく女子になった今でさえも見てて違和感が凄い。これ犯罪じゃないよな?


「男だってバレたら社会的に殺されそう」

「今のアンタを見て男だって思う奴いたらそっちの方が異常だから安心しなさい」


 くるりと一回転。スカートがふわりと浮き上がり制服のひらひらした部分がひらひらする。うん、語彙力がない所為で表現に苦労するけどこれはかなり可愛いんじゃないか? 正直この完成度と言い服の動き方や表現度は相当の価値がありそうなコスチュームだぞ。幾ら課金すれば良いんだ?


「少なくとも一万円は優に超える性能をしてる気がする」

「性能ってなんだ性能って。前から思ってたけど凛ってゲーム好きよね。話聞いてるとまるで現実とゲームの世界を混同してるみたい」

「それは……しょうがないじゃん。現実味がないんだからさ」

「え? ほんとにそう思ってるの? 今からでも直した方がいいわよ? 何かあった時に大変なことになるわよ。例えばそう、これはゲームだから問題ないとか」

「流石にそこまで酷くないって。それじゃあ下降りよう」


 ぱたぱたと足音を鳴らしながら部屋を出る。三階建ての我が家は日本の家よりもアメリカの建築に近いらしい。各階にシャワーとかトイレとかあって広い地下室もある。実際にアメリカに住んでいた姉さんが言うのだから間違いないだろうが、そう考えると設計とかを頼んだのは向こうの建築家なのかもしれない。聞いた事はなかったけど新築で帰って来た時に完成していたと考えるとそうとしか思えない。


「なんで気にならなかったんだろ。普通は家が出来てたら疑問に思うわな」


 まあ、色々慌ててたししょうがないという事にする。三階から一階に下りて朝飯を済ました私は車で送って行こうかという姉さんに断りを入れて予定通り電車で行く事にした。登校初日から車で登校なんて変な目で見られる気しかしない。そんな度胸はないのだ。





 その選択肢が後の悲劇を生むことになるとは知らずに。





「普通についてしまった」


 段々と混み始める車内。もしかすると変質者とか現れるかもしれないなんて警戒していたら乗り込んできたのは殆どが学生で学校の最寄り駅に着くと八割がたが下りて行き車内はすっからかんになった。


「あ、下りないと」


 ベルが鳴り始めたのに気付いて急いで降りる。駅から学校まではかなり近いらしい。高校を選んだのは私じゃないしほぼ強制だったから菫高校という名前しか知らないと言ってもいい。いやだって行きたくないのに行かされたら不貞腐れて碌に調べようとしなくて当然じゃないか? 受験もオンラインだったし前を歩いている人に付いて行けば着けるって思ってたしね。


「でも、そんな必要すらないかも」


 菫高校前駅という名前の駅のホームからはもう見えていた。合併寸前だった前の高校よりも広く大きい様子がここからでも確認できる。駅を出たらすぐ目の前に校門があるのだろう、道に迷う方が不自然と言ってもいい感じだ。


「友達……出来なそうだな」


 朝から重たい溜息を吐いて駅を出る。予想通り改札を抜けた先には校門があって、全校生徒合わせて五千人はいるらしいマンモス高校を目の前に胸の高鳴りを抑えきれなかった。勿論これはプレッシャーによる動悸である。ヤバい吐きそう。





「A組……か」


 ぽつりとこれから所属する事になるクラスを呟く。玄関前に張り出された大きな紙の前に群がる生徒達から一歩離れた場所からスマホに表示されたクラス割り当て表で確認する。紙が見えない人の為にだろう大きくQRコードが張り出されててもしやと思って開いてみればビンゴ。正直背が小さくて全然見えなかったからありがたい。


「貴女もA組なの? 私もなんだ! これからよろしくね?」


 心臓が止まった。瞬間勢い良く高鳴る鼓動は高速で血液を脳へと送り思考回路は限界を超えたその先へと加速する。何かがいる、後ろに知らない誰かが。振り返っていいものか、なんと返事を返せばいい。私の人生で一番フル稼働しているといっても過言ではない今、十数秒かけて編み出した結論は取り敢えずそこにいるのが誰かを確認することを決定した。


「だ、誰ですか?」


 知らない人だった。もしかすると男の時の私を知っていて声を掛けて来たのかもと思ったけどこんな人知らない初めて見た。茶髪のポニーテールを妙に大きい髪留めで留めている少女は明らかに私とは相いれない人種であると理解できてしまう。きっと陽キャの類だろう。でなければ明らかな独り言に対して同じだなんて話しかけてきたりしない筈。何が目的だ? 金か? 生憎百円くらいしか持ってないぞ。


「あ、ごめん。驚かせちゃったかな? 私は相原恵って言うんだ。メグミンって呼んでね?」


 人差し指だけ伸ばして、こう。掌をこっちに向けて自分の頬に当てている。ぷにっと潰れた頬が柔らかそうだなって思いつつ私は身の危険を感じていた。これはあれだ、シンパシーアタックだ。


 シンパシーアタック。今思いついたそれを端的に表せば同類だと思って話しかけたけど、相手は思うようなノリじゃなくて幻滅するまでがセットの攻撃技だ。きっとこの後微妙な反応をする私に対して、あれこいつノリ悪くね? キモとか思って蔑みの目で見られるに違いない。


「そ、そうですか。私の名前は佐藤凛です。よろしくお願いします」

「凛ちゃん! 可愛い名前! じゃあさとリンだね! 一緒に行こ!」


 相原さんは私の手を取って駆け出し校舎に入って行く。注目を浴びているのなんてお構いなしに行く唯我独尊の気を感じ取れる傍若無人さはいっそ清々しい程で、私は自己嫌悪になった。


「めっちゃいい子やんけ」

「ん? どしたのさとリン?」

「すいません相原さん。なんか……すいません」

「もう、相原さんじゃなくてメグミンだよ! 全く!」


 怒ったとばかりに頬を膨らませるあい……め、メグミンさん。男だった時にこんな女子が居た記憶はないからやっぱり都会だと違うのかもしれない。全体的に感情表現が豊かで積極的に話してきたりする女子は初めてだった。


「そ、そういうのは他の人にしたら駄目ですよ?」

「う~ん、何かしたかな?」

「と、とにかく早く行きましょう」


 状況は最高と最悪の狭間を行き交っている。いつどっちに転んでもおかしくない状況で既に予定からは大きく逸脱した未来へと舵を切っていた。


 初日は誰とも交流はないが一週間くらいかけてそれとなく話せる友人をつくる。


 女子になってしまった私が女社会を生き抜く上で情報収集をしつつ平和な生活を送る為に編み出した計画は破綻している。既に未来は二つに分かれてしまったのだ。一つはクラスカースト上位になるであろうあ……メグミンさんと仲良くなり続けて平和な生活を送るか、さもなくばメグミンさんが他のグループを作ってしまいその間に友達を作れなかった私は孤独な学生生活を送る。


 男友達が作れれば良かったのに。


 なんて思っても無駄だ。この姿で作ろうとするものならきっと百発百中の精度で惚れられてしまうしアイツ生意気じゃんとか言われて目の敵にされるに決まってる。だから私がしなければならないのはもう一つしかない、そうするしかないのだ。


「あ、あの……メグミンさん」

「ん? どうかしたのさとリン?」


 出来るだけ可愛く見られるように胸の前で軽く両拳を握り背中を屈めて上目遣いでメグミンさんを見遣る。メグミンさんは私よりも若干身長が高い。だからこの手は有効だろう。部屋の姿鏡の前で何度も練習したこの姿で今現在出来る最高の可愛いを同性相手にぶつける。効くかどうかは知らん。


 もう、俺にはメグミンさんを落とすしか未来はないのだから。


「こ、これからよろしくお願いします……ね?」


 可愛い仕草で、可愛い声で、相手の心を鷲掴みにする。それしかない!


「あ、うん。私もよろしだよさとリン!」

「あ、はい」


 拝啓、未来の自分へ。未来の私はどうなっているでしょうか? 今の私は微妙な表情を浮かべたメグミンさんに引かれています。未来の私は生きてますでしょうか? 今の私は死にそうです。









「一目見て可愛すぎと思って話しかけちゃったけど……やばい、めっちゃタイプかも」


 トイレに行くからと凛と別れた恵は洗面所の鏡の前で手を付き赤く火照った顔を映していた。口が若干開いたバッグから見える中身は本が数冊入っていた。片手で持てるくらいのサイズの本に書かれたタイトルが見える。


 『初めての恋はクラスメイト!? 入学して直ぐに付き合ったのはまさかの女の子でした』


 可愛らしい女子生徒が二人抱き締め合っているイラストが表紙に印刷されていた。









「私のこと考えて気持ち悪くなって吐いてそうで草……もうやだ死にたい。二度とかわいこぶるか」


 私はメグミンさんをトイレの前で待ちながら下を向いて呪詛を吐いていた。















オンラインゲームネタ使ってるけどオンラインゲームあんまりやったことないなんて言えない()

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