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突然変異で女の子になった元男はずっと引き籠って生きてたい  作者: メモ帳
また高校受験しなきゃいけないのマジ?
4/10

美少女と服と羞恥心



「あぁ……学校行きたくない」

「いやあんた何言ってんの。来週にはもう入学だよ?」

「なんで? なんでそんなに時の流れは早いの?」


 素直に驚く。いやだって退院したのが十月半ばくらいだから大体五か月くらい過ぎた計算になる。私は退院してから特にすることもなく、高校に合格するのは最初から決定していたから形だけの受験を受ける必要はあったけど勉強なんてしないで生きてきた。


「そりゃずっと家に引き籠って生きてたらそうなるよ。あんた一度でも外に出たことある?」

「いや、それは幾ら何でも馬鹿にしすぎ……あれ?」


 そういえばあれから外に出た記憶がない。いやいや、でも月に一回の検査があるから最低でも五回は家を出ている筈。


「五回も外に出てるじゃん。なんだ、びっくりさせないでよ姉さん」

「それって検査の日だけじゃない。それ以外はないの?」

「ある訳ないじゃん。何言ってるの?」


 姉さんは頭を抱える。まあ、考えていることは分かる。実の弟、じゃないか。妹が引き籠り生活を続けていたらそうなるだろう。だけど何も理由なしに外出していないんじゃない。そこにはちゃんとした理由があるのだ。


「それで、どうして外に出ないの?」

「その理由を説明するのには先ず大前提として話さなければならない事がある。あ、それ取って」

「これ? はいよ」


 リクライニングソファに横たわる姉さんにタブレットを取って貰い電源を入れる。新築なだけあってこの家は便利で快適な家具とかも揃っている。この三つ並んだソファが良い例だろう。座っているだけで非常に心地良い体験を与えてくれるというのに足場を上げて横たわれば気付けば寝ている事もしばしば。

 私と姉さんは二人並んでソファに寝そべりスマホを弄っているのだが、姉さんも普段からこんな生活をしているのでとやかく言われる義理はない気がする。


「外を歩けば沢山の人達がいる訳じゃん? ほらこれ見てみ? 今の東京の交差点映像」


 タブレットには東京中に設置された定点カメラによる映像が流れている。無数の人達で溢れかえりその様子はさながら電車の満員状態だ。


「ただでさえ人混みに慣れてないのにこんな所に放り出されたら死ぬ気しかしないね」

「でも来週からは確実に身を晒すことになるよ」

「うわあ~いやだ~外出たくない~」


 男だったらまだよかった。だけど今の私は女でしかも美少女と来ている。きっと色んな男からナンパされるだろうし、下手したら路地裏に連れ込まれてそのまま……うう、そんな趣味はありません。


「全くもう。こんな美少女になれたっていうのに人様に顔を出せないなんて世界の損失よ。私と変わってほしい位だわ。そうしたらモデルとかインフルエンサーとか色々やりたいのに」

「まあ、確かに? 私は姉さんよりも可愛いし脚長いし細いし胸も大きいけどふっ! いたいいたい!」

「アンタは元男の癖にどうしてそんなに可愛いのよ!」


 頭をぐりぐりされて痛みに悲鳴を上げてしまう。この体になってから以前と比べて痛みに弱くなったように感じる。というか仕方ないじゃないか。変わった後の姿なんて決められないのだから。


「うぅ……そういえば思ったんだけどさ、私の佐藤凛っていう名前は何処から持ってきたん? 新しい体に合った名前を決めるってなった後、結構早い時間で送って来たけど」


 若返り病患者は基本的に従来の戸籍をそのまま使用できる。厳密に言えば違う体なのかもしれないが本人が変わった訳ではない為に特に問題なくそのままの人生を謳歌する訳だが、性転換してしまうと話が変わってくる。前例がない上に手術とかではなく体そのものが異性になってしまったのだから前の本人と同一人物とするには余りにも違い過ぎたのだ。


 そこで出てきたのが新しい戸籍を作るということ。これに関しては異例の速さで手続きが終わって病院の人も一か月は先になるかと思ったなんて言ってた。早めに終わるに越したことはないし、そこで新しい名前を作ることになったのだけど、両親から爆速で今の名前が送られてきて驚いたのは記憶に新しい。


「なんでも妹が生まれてたら凛っていう名前にしようって決めてたらしいわ。佐藤は日本で一番使われている名前だから出身とか聞かれても困ったりしないようにだって」

「はえ~、よく考えてたんやね」

「何その反応。まあ、いいわ。出かける準備して」


 姉さんはソファから立ち上がると去って行く。それを横目で流し見ながらちょっと眠たくなってきたので目を瞑っていると唐突に頭を叩かれた。


「準備しなさいって言ったでしょ。なに寝ようとしてるの」

「ええ? なんで私までしなきゃいけないの?」

「決まってるじゃない。今から買いに行くのはアンタの制服と私服だからよ」

「ああ、そういえば一週間前に取りに行くとか言ってたっけ」


 最近ではオンライン上で採寸とかも出来るから便利だなあなんて思った記憶がある。そうか、取りに行かなきゃいけないのか。まあ、確かに微調整とかも必要だもんね、うん。


「姉さんが代わりに服着てサイズ調整しといてよ」

「駄目に決まってるでしょふざけんな」





「なんというか……ほんと人が変わったみたいね。もうそのままでいたら?」

「……うるさい」


 私達は今二人で大型ショッピングモール行きの電車に乗っている。平日の昼前というのもあって人は少ないらしいがそれでも私からすれば多いように感じる。シートの端に身を沈めて黙っていると隣に座る姉さんが揶揄うように言ってきて、小声で反論するが効いた様子もない。


「……だから外に出るのは嫌なんだ」


 スカートの裾を握り締めて出来るだけ周りを見ないようにする。だけどいやでも感じてしまう視線は皆俺の方を向いていて、なんでこんな服装で来たのだろうかと後悔する気持ちが強くなる。


 久し振りの外出というのもあって気合の入った服装にしようと意気込んだ私は脳死でミニスカを履いていれば可愛くなるだろうと決めてきたは良いものの、それは自分自身で楽しむからいいのであってこんなに注目されると恥ずかしさの方が勝ってしまう。


 男の時にはなかった状況に疲弊していると、どうやら着いたみたいで電車のドアが開く。我先にと飛び出して姉さんを先導し進もうとするも、エスカレーターの手前で止められた。


「ちゃんと歩くときも気を付けなきゃ後ろから見えちゃうよ?」

「わ、分かってるよ」


 しっかりとスカートをガードしながらエスカレーターを上る。きわどい服装をしているとやけに疲れてしまうので難点だ。気にしなきゃいいなんて言われるかもしれないが、誰が好き好んで覗かせてもいいなんて思うのか。やっぱり慣れるしかないのかもしれない。それまでは我慢するかいっそのことスカートを履くのはやめるか。


「いや、それはないな」


 こんな美少女がスカートを履かないのは有り得ない。真っ白で美しい美脚を惜しげもなく見せつけなければ可愛く生まれた理由がないだろう……なんて、何だか自分の事をゲームのキャラクターみたいに思ってしまうのはまだまだ現実感がないというのを示しているのだろうか。





「思ったよりも早く終わったね。にしてもメッチャ制服可愛いやん。ああ、私がアンタだったら良かったのに。私の高校の制服びみょかったからそっちの方が良かったわ」

「私は今から憂鬱だよ。慣れない女子集団に入って虐められないかな」

「そんな大丈夫だって……多分」

「うわあ……いやだあ」


 いつでも変身可能だったら良かったのに。学校では男で家では女。そんな力があれば最高だったのに人生とは上手くいかないものだ。


「でも実際行ってみないと分からないしね。菫高校が良い子ばっかりだったらいいけど。姉さんは実の所心配だよ」

「ほんと……クラスに恵まれてたら良いなあ」


 かちゃかちゃと、服を吟味しながらそんな会話をする。此処に来て分かった事だけど私は案外こういう場所が苦手ではないらしく、寧ろ好きなくらいだ。男だった時も何回か付き合わされたことはあったけどその時は早く終わってくれないかななんて思ったりしてた。


 けれど今はどうだ? この美少女にどんな服を着せれば似合うかを考えているだけで楽しい。オンラインゲームで自分好みのキャラクターを作り、他のプレイヤーに対して可愛い衣装を着させてマウントを取る感覚に似ているだろうか。今の私はそんな気分でいたりする。


「その服、とってもお似合いになると思いますよ。可愛らしいお客様にぴったりだと思います」

「あ、ありがとうございます?」


 あれよあれよと服を選んでいる内に姉さんから離れているのに気付かず、いつの間にか近くに来ていた店員の人に囃し立てられていた。姉さんが助けてくれるなんて希望がとっくの昔に潰えた。私を探しているのだろう姉さんがさっき通り過ぎた時にこっちを見た瞬間の笑顔はどんな化け物よりも恐ろしかった。


 今姉さんは何処にいるのだろう。宝くじ百枚買いたいなんて家で言ってたから今頃全力で紙に筆を走らせているのかもしれない。


「そうですね。お客様は足も長いしスタイルもいいので肌を見せつけていくのありかも! あ、それならこういうのとか? オフショルダーとか良いんじゃない? 着てみて!」

「え、あ、はい」


 服屋で話しかけてくる店員なんて初めてで、いつもはオンラインで購入している私はなすすべなくおすすめされた服を試着したり購入していた。下着類は以前に纏めて買っていたから今は必要ないが、それでもカートに入っている服の量はちょっと多すぎるかもしれない。


 そろそろ断った方が良い。


 そう考えてかれこれ三十分近く、店員は良いカモが来たと思っているのだろうが何故だか今はそれだけじゃない気がする。鼻息荒く迫ってくる姿は何処かで見覚えがあって、試着室で服を着替えながら度重なる着替えで手際が良くなったなあなんて思っている時にふと気づく。


「ああ、あれだ。レアコスチューム見つけた時のおれ……私、だ」


 私が昔やっていたオンラインゲームは衣装限定のダンジョンみたいなのがあり、そこではレアなコスチュームがドロップするのでそれ目当てに周回した覚えがある。何時間も回して漸く見つけた服を着させた時の喜びは今でも覚えていて、あの店員はその時の俺の様な感じがする。


「つまり……着せ替え人形にされてるって……こと?」


 実際私自身が自分の事をそんな感じに見ているので何とも言えないが、なんだろう。オンラインゲームのキャラクターが感情を持っていなくて良かったと思った。ずっとこんな感覚を味わってたのだとしたら非常に申し訳なく感じてしまう。


「あれ? 姉さんもいる」


 試着室を出るとそこには店員さんと談笑している姉さんが居た。何を話しているのか、やけに楽しそうなのが気になるがふとこっちを見た二人は唖然としている。


「……え、なに? どうしたの?」


 そんなに変な部分でもあっただろうか。切れ込みの入ったスカートは長めだけど脚が長いからか太腿の辺りでひらひらと揺れていて、裾に行くにつれて広がっているそれはベルトによって腰に固定されている。シャツは何だかダボっとしていて空調の風によってゆらゆらとしている。オフショルダーというのだろうか、胸の辺りから上がないシャツは心もとないけど全部が露出している訳ではない。


 総じて人前に出るには恥ずかしすぎるけど家で楽しむ分には最高の服。それが現在の評価だった。


「美少女ってほんと犯罪だと思う。私達を何だと思ってるの?」

「そうね、これが許されるのは体型とか弄れるネットの中だけよ」

「なんかすごい怒られてる気がするどなんで?」


 結局その服も買った私達は着の身着のままで帰る事になる。そう、そのままだ。人前では恥ずかしすぎるその服で帰った私は今迄以上に強い視線を浴びてしまい、姉さんはいい気味だと鼻で笑った。

 帰って改めて鏡で確認してみれば健康的な脚は勿論のこと大きな胸の上半分近くが出ていて、漸く体の大部分が露出した極めて際どい服装だったのだと理解する。これがゲームであればエロ可愛いとだけ思う服装だけどリアルとなると……非常に不味い。


「俺……痴女だって思われてないかな?」


 際どい恰好で世間を練り歩いて許されるのは創作の世界だけだ。もうこの服は家の外では二度と着やしないと此処に誓った。




 まあ、家で一人で楽しむ分には問題ないのかもしれない。きっと私の秘蔵コレクションの良き一ページとなってくれるに違いないと、そう確信した。


 










気付いたらブクマ二桁行ってて驚きました。ありがとうございます!

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