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突然変異で女の子になった元男はずっと引き籠って生きてたい  作者: メモ帳
また高校受験しなきゃいけないのマジ?
2/10

一般病棟でもいいから個室が欲しい

「個室が欲しい。切実に」


 トイレで用を済ませた俺は手を洗いながら鏡に映る美少女を眺めつつそんな事を思う。


「でも個室なんて無理な話だよな。隔離しなきゃいけないらしいしそうなると絶対部屋数足りないもん」


 若返り病患者が隔離されているといっても病棟を丸ごとという訳ではない、一フロア分だけ占有しているようで誰か一人を優遇する訳にもいかず個室待遇なんて許される訳はなかった。


「でも個室がないとなぁ、自撮り撮影会が出来ないからなぁ」


 集団部屋のデメリットはいつも側に他人がいるという事だ。一人で病院の夜を過ごさなくて良かったりとメリットはあるけど、大きすぎるデメリットがメリットを掻き消して余りある。


 エロい自撮りをしたい。それが美少女になって常々思う俺のやりたいことランキング上位に入る願いだ。別にr18みたいなのをしたい訳じゃなくて、エロいポージングをしたり際どい服装をしたいだけだ。美少女のそういう写真なんてそうあるものでもなく、自分自身でそれを生産出来るのならあり寄りのありよしでしかない。


「俺の自撮りかぁ」


 試しに想像してみる。ベッドに脚を広げて体育座りをするミニスカヘソだし肩出しダブルコンボを決めて挑発するような目を向けてくる俺の姿を。一瞬前の俺の姿で想像してしまい吐きそうになったが、美少女の俺に修正すれば成程、これは最高でしかないだろう。


「俺が俺じゃなかったらなぁ」


世界で一番可愛い美少女である俺が別人だったらどんなに良かったことか。どれだけこの姿が俺の理想だったとしても結局は自分自身だ。付き合うなんてことも出来ない。


「さっきからずっと何を言ってるの? 君」


 心臓が口から出てきた。いや、大丈夫みたい。俺の気の所為だったようだ。胸を手で押さえて安心しつつ後ろを振り向けば胡散臭そうに俺を見ている少女がいた。


「何を言ってるかは聞き取れなかったけど、ずっと鏡の前でぶつぶつぶつぶつ、いつもそれやってるんだったら治したほうがいいよ、その癖」


 俺ほどではないけど可愛らしい容姿。年齢は同じか少し上くらいだろう。黒髪をショートにした少女に対し、俺は周囲への警戒を怠らずに答える。


「そ、そうですね。はい、治します」

「なんか挙動不審……本当に分かってるの? ちゃんと人の目を見て言って」

「え、あ……はい」


 警戒心から泳がせていた目を少女に向き直す。その意思の強い目は俺とは全然違って、思わず目を逸らせば不機嫌そうなため息が聞こえてきて怖くて漏れそうになった。何がとは言わない。


「君の話はよく聞くよ。隣の病室にすごい可愛い子がいるって噂があってあんまり信じてなかったけど、直に見てみたら確かに、すごい可愛いわね」

「あ、ありがとうございます」


 気の強そうな女子は大の苦手だ。選択を謝れば一生暴言を吐かれたり苛められるかもしれない。男だとバレれば殺される可能性すらある。だから気を使って話さなければいけないのだがすごく疲れるのだ。


「私は先に行くから。じゃあね」


 軽く手を洗ってトイレを出ていく少女。その後ろ姿を見送りつついい加減手を洗いすぎかもと反省した俺は壁に取り付けられたティッシュで手を拭きつつ病室に戻る。

 俺が入院してから半年が過ぎた。国内では新たに発症者が出たらしくさっきの少女も最近入院したばかりだろう子だろう。隣にいた男も既に退院していて、全体的に患者が減っているらしい病室は幾つか抜けがあって少し物寂しい。


「あとちょっと半年の辛抱だ。そしたら気が済むまで自撮り出来るぞ。だから頑張れ俺」


 決意を新たに固めて病室に戻りいつもと同じ生活を繰り返す。この頃になると一人で歩く事も余裕で可能になった。まだ走れるかは分からないけど歩くだけなら特に違和感なくいける。今はもうどれだけ可愛く美しく、そしてエロい感じで歩けるかの研究を並行するくらいには余裕がある。


「早く、早くエロい格好をしたい」


 こんな美少女が際どい服装をする姿はどれだけの目の保養になるだろうか。早くその時が来ないかなあと妄想しつつまた一日が終わった。


「聞いてもいいのか分からないんだけど、いいかな?」


 隣のベッドの坂本さんが申し訳なさそうな顔をしながら聞いて来る。向こうから直接聞いた訳じゃないけど看護婦さんがそう言っていたのを聞いて数ヶ月前に知った。

 何を知りたがっているのか、坂本さんは俺よりも前に発症した人で話によれば一週間後に退院らしい。そんなタイミングでの話なんて相当厄介そうな感じがする。


「いいですよ、何でしょうか?」


 綺麗なソプラノボイスに今日も俺の声は美しいなんて思っていると、日が経つごとに若返ったというか今では普通の二十代男性みたいになった坂本さんが口を開く。


「俺はさ、家族とか見舞いに来てくれてるんだけど凛さんは見た事なかったなぁって。すごい答えづらい質問だって分かってるんだけど、気になっちゃってさ。ほんとごめん」

「……あ、そういうことでしたか。てっきりもっと答えづらい話しかと思いました」

「結構答えづらいと思うんだけど、大丈夫そうなら良かった」


 安心する坂本さん。まあ、理由が理由ならというか普通はセンシティブな質問だと思うけどこと俺に限って言えば家族が見舞いに来ない理由はそんな悲しい話じゃない。


「私、一人暮らししてまして。姉が一人いるんですけどアメリカに留学してるんですよ。それで家族全員でアメリカに行くってことになったんですけど私は高校をやめてまでアメリカに行こうとは思えなかったので」


 当初の記憶はかなり鮮明に覚えている。家族としては俺もきて欲しかったらしいが俺が無理を言って日本に残った事。特に家族仲が悪くなった訳ではないが、アメリカから日本まで見舞いに来るのも難しいし、そう来れない事情もあったりする。


「アメリカ……というと、もしかして政策で?」

「そうなんです。私が若返り病になったのを伝えた時は直ぐに帰って来るって言ってたんですけど、やっぱり止められちゃったみたいで。ひっそりと帰ろうとしてたら家に警察が来てびっくりしたって言ってました」


 ついこの間、といっても一年以上前だけど若返り病にかかった人間がいる家族は国外への移動が禁止される政策がアメリカで発表されたみたいで、何処から知ったのか俺の事を知ったアメリカ政府は家族を半ば拘束していたらしい。

 とは言っても研究への協力要請でその分莫大なお金を貰ったらしいけど、要するに若返り病の血縁にも研究の手を伸ばしているということ。


「でもつい先日に終わったみたいで二週間後に日本に帰ってくるみたいです。私の退院時期に合わせてですね」

「そっか、それなら良かった。いや、君だけ見舞いがなかったから寂しい思いをしてたんじゃないかって心配だったんだ。いつ帰るのか分からないけど家族と一緒の時間を少しでも長く過ごせたらいいね」


 そう言って笑う坂本さんは本当に人が変わったようで、家族にとってはこんなにも若返った人を相手にするのはどんな気持ちなんだろうなと思った。


 あれから一週間が経った今、迎えにきた家族は皆笑顔を浮かべていて、その裏にどんな感情が隠されているのかは分からないけど、でも坂本さんが幸せに暮らしていけたらなと思わずにはいられなかった。


「遂に退院の日が来たね凛ちゃん。外の世界に出る準備はいい?」


 一年間で大分打ち解けてきた看護婦の島田さんはもう敬語なんて使わずにフランクな態度で接してくる。準備が良いとはとてもではないが言えないけど、()()その瞬間を呼吸を整えて待つ。


「はい、この姿になって私初めて家族と会いますけど緊張しないでいられたらなって思います」


 家族は俺の姿はもう知っている。けど実際に会ってみてどんな反応をされるかは未知数で、それを思うと緊張しないでいろなんて無理な話だった。


「なんだか凛ちゃん、女の子に慣れてきたみたい。心の中での一人称を私にする訓練が身を結んだのかな?」

「はは、そうかもしれないですね」


 愛想笑いを漏らしながらバレてやいないかと内心ヒヤヒヤする。慣れるために一人称から変えていこうと言われたのは昔の話だけど、実際に行動に表したのはここ最近の話だった。心の中でまだ私なんて使ったら本当に男だった俺が消えてしまうみたいで嫌だったから。


「でも、もうそんな事言ってられないから」


 もう俺は女として生きていくしかない。この現代社会で男だとバレてしまう、若しくは違和感として捉えられれば生きにくくなってしまうのは明白だから。

 だから俺は私になって適応して生きていかなければならない。そう決めたんだ。


「どうやら家族の方がお見えになったみたいよ。行きましょうか、凛ちゃん」


 俺は島田さんに案内されて進んでいく。最早このフロアは一年間過ごしてほぼ実家のような安心感すら覚えるようになっていたけど、一歩外に出ればそこには沢山の患者が行き交う知らない世界になっていた。


 一年間、人前に出ないだけでこんなにも人見知りになってしまうのか。俺はその光景を見て尻込みしてしまうけど優しい笑みを浮かべる島田さんに勇気を貰いエレベーターから足を踏み出して玄関ホールに向かう。

 昔は個室が良かったと思ってたけど、大部屋で良かったと今は思う。もしずっと一人で過ごしてたら今頃大パニックになっていたかもしれない。同じ姿ならあれだけど今の俺は昔とは違う姿で、周囲からどんな目で見られるかが分からなかった。そんな状態でこんな場所に連れてこられたらと思うと本当に良かったと思う。


「あの……なんか見られてる気がするんですけど」


 周囲からやけに視線を感じる。もしかしたら私が美少女すぎて見られているのかもしれない……なんてことはないか。幾ら私が超絶美少女だったとしてもこんなに注目されるのはおかしい。何か理由があると考えるのが自然だ。


「……もしかして!」


 今の俺の服装は外出用に買ったお洒落なやつだ。初めてのお披露目だからと気合を入れたやつを買おうということになって島田さん含めた看護婦さん達が選んだのだけど、それが何かおかしかったのかもしれない。


「いや……特に乱れとかはないな」


 膝上丈のミニスカートにシャツと上着を羽織った服装だけど、もしかしたらスカートが捲れてたりするのかと思ったけど特にそんなことはなく、じゃあ何が原因なのかと言われればなんだろう……分からん。


「凛ちゃんがとっても可愛いからに決まってるじゃない」

「そんな……冗談はやめてください」

「本当なんだけど……なんかムカつくわね」

「ええ……」


 髪が崩れない程度に頭を強く撫でて来る島田さん。そんなこんなで玄関ホールまで来た私は、そこにいる三人の姿に変わってないなぁなんて感想を持った。


「……もしかして、亮?」


 一年ぶりに会う姉さんは何も変わっていなくて、いや髪が伸びたかな? まぁそのくらいしか変わっていないいつも通りの姿だった。後ろに立つ父さんも母さんも同じで、皆驚いた顔をしているけど、特に変わりがなく。そんな三人を見て私の中の俺はやっぱりいたんだなって実感が湧く。


「本当に亮なの? こんなに変わっちゃって」

「ごめん、でも私は本当にり」

「めっちゃ可愛くなってるじゃない!」


 突然興奮しだした姉さんに抱きつかれて頭を撫でられまくる私。何が起きているのか分からず混乱していると同じく興奮している両親まで近くに来た。


 やいのやいのと騒ぐ三人と俺に注がれる視線。宥めている島田さんには悪いけど、俺が加勢するのにはちょっと時間がかかりそうだ。

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