佐藤凛はお世話がしたい
更新遅れて申し訳ないです……
「世の中の女子達が自撮りとかショート動画を出す理由が分かってしまうのが辛いな」
片手にスマホ、メグミンさんに勧められてインストールしたTOKTECだけど流れてくる動画に出てくる人達は全員が自分に自信を持ってるように見える。
「なんか色々問題とかやばい人達もいるらしいけど、面白い人はやっぱり面白いんだよなぁ」
ネットではこういう人達を馬鹿にしたりする意見が多いらしい。でもまぁ、楽しければいいんじゃないかな? というか私も撮りたくなってきた。
「……沢山の人から可愛いと言ってもらえるのかも。あぁ、考えるだけで承認欲求が満たされる」
短いスカートとか履いたりして踊ればそれだけでこの容姿ならちやほやされるに違いない。だって世界一可愛いしね、考えれば考える程にありな気がしてくる。
「部活の人達もそういうの寛容みたいだし」
入部してから暫く経ったけど特に問題なく過ごせてる。というか問題がなさすぎて味気ないくらい。
というのも私としては部活に入ったら何かしらイベントが起きてなんやかんやあると思ってたのに、全員が全員好き勝手にしてたり普段はそもそも顔を出さなかったりすることも多いみたいで。あの時のライブみたいな状況が珍しかったらしい。
「メグミンさんは私が部活に顔を出さない時は別の部活に行ってるし。なんか部活にさえ入れば高校生活を満喫できると思い込んでたのが馬鹿みたいだ」
男の時はめっちゃ小さい高校だったし、友達とつるんでるだけで楽しかった。だけど今は違う。こんなに広い高校にわざわざ通ってるんだから、将来の心配がないのも踏まえて楽しめるだけ楽しんだほうが特に違いない。
「だから……そう、これは仕方のないことなんだ」
最近ではネットで色んな服を買えるらしい。そう、多種多様な服だ。例えば凄い大胆な服だったり、スカートの丈が短いのに態々切れ込みが入ってたり、胸が露出しているのだったり
男の時に着たらただの性犯罪なのに女になった途端に許されるようなのが沢山売ってる。
「金は……ある。必要なのは勇気だけだ」
欲しいものを手当たり次第に選んでカートに入れる。サイズは前に測ったのがあるから正確だ。だって定期検診で毎回サイズ計測されるんだもんな。
「三十万か……余裕だな」
余裕じゃない。正直金に困ってはないけど流石にこんな大金を一気に支払うのは指が震えて汗が滲んで唾が枯れて目眩がしてくる。しかしそれら全てを飲み込んで、私は指を一息にタップした。
「ふぅ……あぁ」
スマホを落とし、ベッドに寝転がる。露出が過ぎる服を着ている己を想像し、自らの体をなぞるように手を這わせてこのプロポーションからなる姿を想像する。
「……エロすぎんだろ」
到着するのは一週間後。めっちゃ楽しみになってきた。
「来てしまった。ここに」
今日は休みの日。というか昨日が金曜だったから学生の限りない休日の始まりの日だ。という訳で私は何処にいるのかと言うと一人で大型ショッピングモールに来ていた。
「事前に下調べしとかないとね」
目当てはあるけど今日買うわけじゃない。もし買うと決めたら車を出してもらわないといけないだろうし、以前にパッと見ただけだからまだちゃんと確認してないし。
「やっぱり可愛い女の子にはペットだよね」
周囲からの視線を独り占めする優越感に悶えているのを見せないようにしながら潜り抜けた入口にはペットショップ『アマゾン』の文字が。
「やっぱ爬虫類のペットっていいよねぇ。水生植物の水槽とかもいいかも。浪漫があるわぁ」
犬猫は正直飼える自信がないけど、爬虫類とか金魚、植物ならまだ何とかなる気がしないでもない。多分ネズミとかそういうのを食べるんだろうけど、食費なら全然問題なく出せるし行ける気がしてくる。
「うわ、おっきい。こんなに大きいの飼ったらすごいだろうなぁ」
一メートル位あるオオトカゲ。この子を体に乗せたりしたらめっちゃカッコいいかもしれない。
「ううん、ちょっと待って。先ずはどんな大きさの水槽とかケージが売っているか確認しておかないと」
今考えている候補としては大雑把に水生植物、熱帯魚、爬虫類に分けられる。一番簡単というか面倒がかからなさそうなのは水生植物かもしれない。そこから熱帯魚、爬虫類と来るのだろうけど、一番飼いたいのは爬虫類なんだよなぁ。
「どうしようかな……あんまりケージとか売ってないみたいだし」
ショッピングモールなだけあって幅広いジャンルがあるのはいいけど専門と比べると劣ってしまうらしい。あんまり大きなケージとかは見当たらなく、あのオオトカゲを飼ったとしても飼育できるケージがない。
「どうしようかなぁ」
「なにか困ってたりする?」
「はい、少し……え?」
なんかいる。見上げた先にいたのはパーマをかけた黒髪を靡かせたイケメンな人。ナンパするには爬虫類スペースという特殊過ぎる場所であり、ただの善意かと思ったけど前までの俺ならまだしも、今の私に声を掛けてくるのはまず間違いなく下半身だろう。
「私……知らない人にはついていきません」
「この近くに爬虫類とか熱帯魚の専門店があるんだけど、よかったらそこまで案内しようかなって」
「しょうがないので行ってみます」
今の私は昔の俺じゃないけど行動力は上がってる気がする。なんてったって美少女だから。どんなに失敗してもやらかしても美少女だから許される。一生懸命な女の子って可愛いよねって自画自賛出来るのだ。
「それじゃあよろしくお願いします」
「あ、うん。誘った手前あれだけど警戒心は持ってたほうが良いと思うよ?」
「大丈夫です。人並み以上に持ち合わせてます」
あぁ、この時が経つ度に思う増加していく自尊心と警戒心が分からないとは。まぁ、元々男だったし変に警戒しても意味なんてない。どうせ元男だって言ったら特に襲われても問題ないだろうしね。
「姉さん、お客さん連れて来たよ」
「え? そういうのありなんですか?」
「良くはないけど僕はこの店の従業員じゃないからね。色々と理由があってこんなことをしてるんだ」
「姉さんってことは家族がここで働いてるから?」
「う〜ん、そういうのじゃないんだけど……まぁ、後で詳しく話すよ」
言うが早いかお兄さんは店の奥に去っていく。すれ違いざまにやって来るのは人好きな笑顔を見せるお姉さんで、揉み手をしながら来る様は正直不審者みたい。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃんっと! それでお客さんは何をお探しなんだい?」
「取り敢えずあの人との関係性を教えてもらってもいいでしょうか?」
「え? じゃあ家族でもないのに姉さんって呼ばせてるんですか? それって大丈夫ですか?」
「何が大丈夫なのかは敢えて聞かないでおくけど、私達はそんな乱れた関係じゃないから勘違いしないでね」
軽く話を聞いた限りではこのお姉さんの名前は奈切早苗さんというらしく、お兄さんは藤原蓮司さんらしい。幼馴染みでなにかと世話を焼いてきたそうで、ショッピングモールができてから少なくなってしまった客を取り戻す為に色々と手伝ってもらっているだとか。
「じゃあ話の続きだけど爬虫類を買うのは結構大変だからね。凛ちゃんは今まで何か飼ったことはないんだっけ? それじゃあ最初は飼育が簡単な子とかにした方がいいかな?」
奈切さんは最初はやばい人だと思ってたけどその実凄い親切な人で、知識もある人だった。色んなことを沢山教えてくれた結果、私は植物水槽を作ることにした。
正式名称テラリウム水槽。詳しい話を聞いた結果生き物を飼うのは私にはまだ早いと思って、それなら自分だけの世界を作れるテラリウム水槽にしてみようとなった。
これなら色んな水槽の形を選べるし、大きいのも小さいのも自由自在だ。
「一回家に帰ってから考えてみようと思います。今日はありがとうございました!」
「いいってことよ。それじゃあまた今度ね」
早苗さんと私は別れを告げて家路に戻る。今日は色々と話を聞けて満足な一日だった。また買い物に来るとしても来週になるだろうけど、それまでに色々と案を固めておこう。
「そういえばなんか忘れてる気がするけど、なんだったっけ」
まぁ、いいかと思い直して私は休日を楽しむ。そして月曜日の朝、学校に向かう私の前を歩く数人の生徒達の中にその人を見た。
「あ、藤原さん」
「ん? あぁ、やっぱそうだったよな。姉さんから色々と話は聞けた?」
「はい。藤原さんが教えてくれるって言ってたのに結局戻ってきてくれませんでしたから」
「うっ、それはその……申し訳ない」
通学中に何度か見た姿。既視感があるなぁと思ってたのはどうやら間違いではなかったらしい。




