❽初めての舞踏会 侯爵邸にて
「どういうことか説明してちょうだい。」
「そうよ!あんたのせいで、私のデビューが台無しじゃない!!」
フリージア侯爵邸の一室で、お継母様とマーシャがずっと喚き散らすのを黙って私は聞いている。
(あの後、王太子様はどうされたのかしら…)
ダンスが終わり、侍従らしき方が近づいてきた。
「バルディ公爵様とご令嬢がお待ちです。」
そう伝えられた王太子は笑顔を張り付けたまま、小さく、ほんとに小さく、舌打ちをした。
叔父様の元へ送られて「所用を済ませて、すぐ戻るから待っていて。」と、あちこちで令嬢たちに話しかけられながらも王太子様はバルディ公爵の元へと向かって行った。
その後すぐに父と継母が飛んできて、叔父様への挨拶もそこそこに馬車へと押し込まれて侯爵邸へとひとり帰らされた。
『また後で…』と去っていった王太子様のことが気になりつつ、別邸で就寝の支度を終えた頃、王城から帰宅した父に呼び出されて今に至る。
「ちょっと、聞いてるの!?」
今日の出来事を思い返していた私は、お継母様の声でハッと我に帰る。
「は、はい。あの、王太子様とは子供の頃に一度お会いしたことがあって…。その時のことを覚えていらして、声をかけてくださったようなのです。
あと、お父様がした娘とダンスを…ってお願いを、娘違いされたのかと…」
レースのこともあり町で会ったことは話せないので、昔お茶会でお会いしたことを話す。
「ありえないわっ」
「はぁっ?娘違いですって!?なんで…」
「何か言われたか?」
ずっと難しい顔をして聞いているだけだったお父様が、お継母様とマーシャを制して話しかけてきた。
「ええっと… 病弱だと思われていたようで、身体のご心配をしていただいただけです。」
別れ際、「精霊のことはしばらく内密に」と、王太子様にこそっと囁かれた。
「うむ…。今夜、婚約者の発表はされないとのことだったからな。途中で下がらせてもらったからわからんが、今夜殿下が踊ったのはシェリルとバルディ公爵令嬢だけだ。他には?」
継母とマーシャが、ギリリッと歯を食いしばって悔しそうに顔を歪ませてシェリルを睨みつける。
「あ、あとは何も。すぐにお城を出たので、だあの後お会いすることもお話もしておりません。」
「ふん。まぁ、いいだろう。下がれ。」
たいした情報もないと判断したのか、顎でドアを示した。
挨拶をしてドアを閉めようとした時、ブルブルと怒りに震えて私を睨みつけるマーシャと目が合った。
娘違いをしたのは王太子様のほう。お父様がこっちの娘だとはっきり示さなかったせいでもあると思うの。
そう思い、ため息をついて部屋をあとにした。
だけど、新たな疑問も私の頭に浮かんだ。
魔力の強い者には、精霊のキラキラが見えると王太子様は仰ったが、お父様から光るものや精霊の話は一切なかったのだ。
(たしか、お父様は国の上位に入るほど魔力が強かったはず。見ていなかった?それとも、見えていなかった?)
部屋に戻るなり、初めての舞踏会に心身共に疲れ果て硬いベッドへ倒れ込んだ。