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❼初めての舞踏会 初めてのダンス

 

「ひぇっ」


 驚いてとっさに手を引っ込めようとするが、強く掴まれると同時に自分の手を取った相手を顔を上げてキッと睨みつけ、身体が硬直する。


 ——こっ、皇太子っ殿下ぁ!?


 先程令嬢たちに囲まれていた男性が、にこやかにこちらを眺めている。


 周りで令嬢たちの悲鳴が聞こえる。


(えっ?えっ!?何この状況ーー)


 掴まれた手と殿下の顔を交互に見て、働かない頭でようやく叔父の顔を見る。


「はぁー…殿下…殿下の出番はまだ先のはずでしょう。私とのダンスの後に出直して来て下さい。」


 顔に片手を当て、シェリルに差し出した手はそのままに、明らかにガックリと肩を落とした叔父がよくわからないことを呟いた。

「仕方ないだろう。私だってシェリル嬢とファーストダンスを踊りたいんだ。…我慢出来なかったんだ。」


「ひっ」


 もう一度引っ込めようとした手をギュッと握られ、思わず悲鳴が溢れる。


「シェリル嬢、逃げないで。驚かせてすまない。

 私は、この国の王太子カディル・ロイ・グリンピアだ。」


「は、は、はいっ。存じ上げております。

 フリージア侯爵が娘、シェリルでございます。」


 片手を掴まれたまま、お辞儀をする。


「顔を上げて。シェリル嬢。」

 優しげな声に、シェリルはゆっくりと顔を上げて王太子様を見た。


(…あら…???)

 ポカンとした顔を見て、イタズラが成功したかのようにニヤリとカディルが笑う。


()()お店で会って以来だね。」


「!!! お店でお会いした方ですの? え?王太子様? え?髪と目…が…?」


「ふはっ!ちょっと落ち着いて。

 魔法で色を変えてただけだよ。くくっ」


 目を見開いてワタワタとパニックに陥ったシェリルを見て、カディルが堪らず噴き出す。



 〜♪〜〜♪〜


「あ、音楽が始まったね。と言うことで、セルグリーン子爵、シェリル嬢をお借りするよ。

侯爵からも我が家の娘とダンスをってお願いされたしね。」


叔父様にウィンクして、呆然としたシェリルの手を引いてそのままダンスフロアに歩いて行く。


「それは娘違いで!!父はマーシャをと…マーシャ…」

この状況に頭を抱えたくなったシェリルは、ズルズルと引きずられるように王太子に連れて行かれた。


「はぁぁー。

せっかく会えた可愛い姪を奪われてしまった…。周りがダンスどころじゃなくなってるじゃないか。」


 既に踊っていた国王夫妻と公爵夫妻、それに連なる人々も王太子とシェリルを見て驚いている。


(一番驚いているのはシェリルだろうがなぁー)


 ふぅっと溜息をついて、2人を眺めながら壁にもたれシャンパンをひと口飲む。


 頭が真っ白のシェリルだったが、アルマ伯爵夫人によるシゴキの賜物か、体が自然と反応してカディルにリードされるがままダンスを踊りだした。



「シェリル。——シェリィ」

 クツクツと笑いながら、カディルがシェリルの耳元で囁く。

 幼い頃に呼ばれた愛称に、ハッと我に返り顔を上げたシェリルは、カディルを見て目が合うと顔を真っ赤に染めて慌てて目を逸らした。


「ほら、ターンだよ。」

「ひゃっ」


 言われるがままクルッと回ると、フワッと舞い上がったドレスの裾の辺りがキラキラと光る。


 ほぅっ…と、周りから溜息が溢れるが、いっぱいいっぱいなシェリルは気づかない。


「シェリィ、子供の時に木の下で会ったことも覚えてる?」


「あ…は、はい。王太子様のこと覚えています。えっと、申し訳ございませんがお顔はうろ覚えで…。お店で気づかず失礼いたしました。ですが、あのゼリーのこと、よく覚えています。」


(王太子様も覚えていてくださったのね。)


 顔を染めたまま微笑むと、カディルもフッと微笑み返した。


「凍らせたゼリーだね。君の母上が病に倒れられて…手紙を送ったんだけれど、君は領地に行ってしまった後だった。手紙を読めないほどの衰弱ぶりだと聞いてね。

 ずっと心配してたんだ。」


「手紙を…ですか?」


 実際には王都の屋敷にいたのだが——侯爵家が徹底的にシェリルの存在を隠していたので、来客者とすれ違っても、眼鏡に使用人の服装をしていたシェリルに誰も気づくことはなかった。


「ああ、まさか、ずっと王都にいるとは思わなかったよ。シェリィと町で会うまではね。」


「えっ!?あの姿の私に気づいたんですか?」


 あの眼鏡は魔道具で、かけると瞳の色もだが顔もどことなく変わって見えるらしい。


「最初は全く気づかなかったんだけどね。笑った顔と…

 シェリィには見えていないのかな?精霊の姿が。」


「せ、精霊ですか?」


「うん、はっきりと姿はわからないけど、君の周りに光るものがいくつか見えるんだ。精霊は、魔力が強い者に見えると言われてる。」


 カディルは魔力が王国一、強いと言われている。


「魔力…では、私には見えませんわ。魔法が使えませんもの。」

「うん、だけど何かを感じているだろう?」


(何か…)

 少し考えて、ふと思い出す。


「あ、声。小さな頃から、不思議な声が聞こえるんです。ハッキリとは聞き取れないんですけど…。」



「声か。なるほど。君が反応する時、光が一際、小さくだけど輝くんだ。精霊が話しかけていたんだろうね。」


 精霊。

 魔力のない自分には、縁のないものだと考えもしなかった。


「シェリィは、魔法を使えないけど精霊の加護を持っているんだと思うよ。」

「加護…え?私??」


 カディルの正体に加えて、さらに精霊の加護とは——シェリルの頭は、色々と整理がつかなくなってきた。


「たぶん、だけど。僕の魔力にも反応しているのか、踊りはじめてからずっとシェリィの周りがキラキラしてるんだよ。精霊の声、聞こえてる?」


 シェリルに微笑んだカディルが、あぁ、もう曲が終わる…と呟く。


(精霊の声…いっぱいいっぱいで気づかなかったけれど、話しかけてくれていたのかしら。)


 なんだか心が温かくなって、笑顔で最後のターンを一際大きく回ると、周りから感嘆の声が出た。

 その時——


 『シェリ、きれい!!』


 ハッキリと鈴が鳴るような声が聞こえた。


「!!今…声が…」

「うん、上からキラキラした光が沢山降って来たよ。すごく綺麗だ。」


 お互い驚き信じられないとばかりに輝いた目を合わせ、フッと笑い合った。


 ダンスも終わり、お辞儀をして手を離そうとしたシェリルの手をグッと握りしめたカディルが、そっと手の甲にキスを落とした。

 割れんばかりの響めきが王宮に響き渡った——

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