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❺初めての舞踏会 いざ出陣

 夜会当日、朝から私はマリアとサリナに身体を磨かれている。

 毎日お肌のお手入れはしてくれるが、水仕事が多いため私の手はカサついているし爪も短く、とても令嬢の手には見えない。一生懸命、全身にオイルでマッサージをしてくれる2人には感謝しかない。


「お母様のドレス、素敵に仕上がったわね。2人とも、手伝ってくれてありがとう!」


 お母様のドレスを露出が少ないデビュタントに相応しいドレスになるよう、肩の部分と腰から下にシフォンの生地を重ねてふんわりさせ、3人で編んだレースを花のように仕立てて胸元を華やかにした。


 そして唯一の心配は…



「ぐ!ぅぇっっ」


 2人にこれでもかと締め上げられる初めて着けるコルセットに辟易する。


「さぁ、お嬢様、あと少しですよ!ふんっっ!」

「シェリ様、がんばれ〜〜!えいっ!」


 さらに気合いを入れる2人が恨めしい…


「っっっっ!!!」


 ぐったりと壁にもたれる私を横目に、2人は満足気に頷き合う。

 (はぁぁー…… お昼を少なめにしといて良かったわ…)



 ドレスを着て鏡の前に立つ。眼鏡も外してお化粧をし、髪を緩やかに編み込んで片側に垂らしたその姿は、まるっきり別人で自分でも夢を見ているかのようだ。


「2人とも、素敵に仕上げてくれてありがとう。自分じゃないみたいだわ。」

「とっっっても綺麗ですよ、シェリ様!」


 マリアが涙ぐみながら、箱を開けて中からシンプルだけど上品なパールのついたイヤリングとネックレスを取り出す。


「お嬢様、これは奥様が奥様のご両親から贈られたものです。奥様も16歳のデビューでつけられたんですよ。」


 母はセルグリーン子爵家の1人娘で、祖父と祖母は私が小さな頃に馬車事故で亡くなっている。



 (そういえば、伯父様お元気かしら。お母様が亡くなってから、お会いできずにいるわ…。)


 小さい頃は子爵家にも何度か行ったことがあり、従兄弟たちと遊んだ記憶がある。

 ハンナとマーシャが侯爵家に来てからは、領地で静養していることになっているため手紙を送ることも禁じられているのだ。


「セルグリーン家の皆さんもお元気かしら。今日の夜会でお会いできると嬉しいけれど、人が多いと聞くし、見つけれないかもしれないわ。」


 マリアがネックレスとイヤリングをつけてくれ、俯く私を見て優しく目を細める。


「今日のお嬢様はとてもお綺麗なので皆様の目を惹くことでしょう。デビュタントのご挨拶もありますし、子爵様が見つけてくださいますよ。なんせ、若い頃のセリーナ様にそっくりですもの。俯かないで、堂々と前を向いてくださいまし。」


 そうですよ!とサリナもグッと親指をたてる。


「ふふっ。ありがとう。こんなに素敵にしてもらえたのだもの。緊張するけど、頑張ってくるわ!」

 と、気合いを入れる。


 ハンナとマーシャの嫌味にも、今日はより一層余裕で受け流せそうだ。




 本邸の前に止まっている馬車の前で従者と待っていると、父に連れられたハンナとマーシャがシェリルを上から下まで眺めて片眉をあげる。


「こんな古くさい流行遅れのドレスを着る令嬢なんて、あんたくらいじゃない?よくお似合いよ。」


 そう嘲笑するマーシャは、王都で流行っているマダム・ポルテで作った胸元を強調した赤いドレスを着て、父に買ってもらったのだと自慢していた大きなイエローダイヤのネックレスとイヤリングをつけている。


「ありがとう。マーシャあなたもとても綺麗だわ。」

 微笑む私を見て、眉間に皺を寄せる。


「ちょっとマリア!この子の髪の花をすぐに取ってちょうだい!花の匂いがキツくて、気分が悪くなってしまうわ!

同じ馬車に乗るんだもの、あなたも強い香りは苦手でしょう?」

 ハンナはマリアへ怒鳴り、腰を抱く侯爵へは甘えるような声音で話す。


「あぁ。」


 シェリルを一瞥してから、従者に指示を出し始めた。


(相変わらず私に興味はないのね。

このお花、至近距離じゃないと香もわからないくらいだし、お継母様の香水の方がキツイと思うのよねー。)

 フッと小さく息を吐く。


「お嬢様、申し訳ありません。」


 シェリルの髪に飾った花を丁寧に取るマリアに、そっと「私は大丈夫よ。お守りのパールがあるもの。」と笑顔で囁くと、マリアも安心したように微笑む。


(侯爵家の令嬢として、恥ずかしくないようにしなくちゃ!)

 心の中で、再度気合いを入れ直す。



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