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ファンタジー小説(仮)  作者: 諸星中央
9/30

9

 山岳の村落、フォレスリードまでは二日もあれば着く距離だった。標高は十五パーセル程だろうか。さほどの高山都市ではないけれど、それでも山道は結構つらい。そろそろ気温も高くなる中で、山登りのあとすぐ戦闘なんかになったら、キツくて堪らない。


「山登り、やだなあ」


 こぼすとアナスタシアは存外前向きで、


「体力つけるのにはちょうどいいかも。走る?」


 なんて言う。


「ええ、それは勘弁」


 アナスタシアは笑った。久々に純粋な笑みを見た気がする。


「冗談だよ、さすがに。走ったら登り切れはしないよ」



 木々の向こうに見える山々は、昼間にしては異様に暗い。


「なんか、おかしいよね」


 アナスタシアも感じ取っている。


「ドラゴンが闇なんか連れてくるか?」


 ドラゴンは本質的に魔物とは異なるもので、魔王なんかに付き従うものではない。魔王のほうがよっぽど強いけれど、それほど高潔な生き物だ。闇は魔物のもので、この大地に住むドラゴンはよっぽど光を好む。



 山を登り切って村を望んだとき、やっぱりイヤなことに数匹のドラゴンが上空を旋回していた。彼らの上には闇が降り注いでいる。


 アナスタシアが顔を歪めた。


「コイツら、魔物だ! ドラゴンのくせに魂を売ったのか! クズども!」


 口汚く罵って、アナスタシアはいきなり爆発魔法と重力魔法を連続で放ってドラゴンを叩き落とした。


 慌てて援護のために光聖法を使う。ぼくたちくらいになると口に出して詠唱はせず、頭の中で絵のように術式を構築して、秒まで待たずに術を使える。光聖法は怒り狂ったドラゴンが牙を剥く前に視神経を焼き切った。


「一体はこちらを感知でしかたどれなくなったが……」


 怒り狂った残りの三体がこちらを睨みつけている。どう考えてもふたりでケンカを売ったようなものだ。慎重にと言ってまったく慎重でない。やっぱりアナスタシアは魔物への憎しみをより一層深くして、怒り狂ってしまうのだ。


 しかし、なぜだろう。ドラゴンが闇を抱えて、魔物のようになっている。魔王に屈したのか? そもそも彼らはどう考えてもおなじ親から生まれた、この地をねぐらにしていたドラゴンじゃない。ファイアドラゴンが二体と、アイスドラゴン、アースドラゴンがそれぞれ一体。わざわざ集まったのだ。ドラゴンが魔王のために孤高を捨てるなんて、そんな屈辱なことするだろうか。


「アナスタシア、多分コイツら、意思がない。破壊されてるか、操られてるか」


 アナスタシアはいつもの冷静な彼女に戻っていた。


「……ごめんなさい。いちど退く?」


「村の近くだからね、怪我させるとかして向こうに退いて貰わないと」


 言いながら術力を押し込んで少し移動したぼくらはとりあえず目を潰したアースドラゴンに過剰回復聖法をかけた。ヤツまで約一パーセル。この距離でねじ込めば。


 アースドラゴンの肉体に浸透した聖法が外から内から細胞を急速に修復、成長、分裂を繰り返させて、一気にテロメアを磨り尽くす。朽ちた肉の断面から血液が噴き出した。


 間髪入れずアナスタシアは杖を振り下ろしている。瞬間、空中に生成された巨大な岩石が勢いをつけてアースドラゴンの頭を叩きつぶした。


「まあ、上出来だね。しかし……」


 ファイアドラゴンがブレスを吐きつけてきた。アナスタシアが慌てて緩和魔法を展開するけれど……ダメだな、ブレスが高熱量過ぎる。というか、ブレスは熱量をこちらに押し込む力もある。既に熱くて法衣が焦げる匂いがし始めているけれど、このままでは浸透されて焼き尽くされる。


 ぼくは状態保存聖法をその炎に向かって放った。炎は炎のまま丸め込まれて、輪の中で燃えさかっている。アナスタシアが無茶な、と言って苦笑いをしている。ぼくはそのままそれを弾き飛ばした……アイスドラゴンのほうに。


 炎は虚を突かれたアイスドラゴンの頭を焼いた。ギャオワ、などと鳴いてアイスドラゴンは向こうへ飛び去っていく。


 ファイアドラゴンはまさかそんなことを人間如きがするとは思わなかったのだろう、少々ひるんでいるように見える。ぼくはかこつけて、はったりに光聖法を正面に広く飛ばした。目を眩まして彼らの皮膚を少し痛めたぐらいのものだろうけれど、意欲を失っていたのこりのドラゴンも、山の向こうへ飛び去っていった。



 ひどい有様だね、アナスタシアがつぶやいた。あれから少し歩いて集落の中心とおぼしきところへ来たけれど、家屋の三分の二ほどは吹き飛ばされていた。見回していると冒険者らしき十五名ほどが歩いてくる。


「まさかあんなことをできるヤツが居るとはな」


 ぼくたちは驚きを以て迎えられたようだった。


「というか、ふたりなのか? ふたりだけであれくらいならなんとかなるもんなのか?」


 ぼくは苦笑した。


「いや、ホントはなんとかならないところだったんだけどね……」


 アナスタシアが気まずそうに顔を背けた。


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