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「ドラゴン?」
「ええ、現れたみたいで。ここから西に行った山岳都市です。成体が群れでとか。退避するものも多いようですが。でも、彼らにとっては育ち育んだ故郷です。もし戦いに慣れていらっしゃるなら、行って上げてはくれませんか」
ぼくたちは顔を見合わせた。おかしい。ドラゴンは群れなど作らない。それも意識のかたまった成体なんて。気高いドラゴンは孤独を好むはずだ。そもそも、ドラゴンは好んで人里を襲いはしない。彼らは食事も最低限でいいようだし、人間は不味いのだろう。それに賢い彼らにとって下等が過ぎる人間は蟻のように見守る存在で、歯牙にもかけてはいやしない。
それだけに討伐例も少ないのだが、討伐されるようなことがあった際には皮から骨から、すべてが利用され高値で取引される。まあ、依頼内容としては悪くない。けれど。
「ぼくたちは今ふたりで……とてもじゃないが、群れは相手にできないです」
けれど店主は言う。
「ドラゴンが高価値だからでしょうかね、皆協力的で。知らせは一昨日入ったのですが、昨日今日立ち寄った冒険者はこぞって行きましたよ。協力するそうです。ギルドはそのうち通すのでしょうが、なにしろ緊急性が高い。村からも報酬を出すと連絡だけありました」
まあ、群れならふたつみっつのパーティじゃおおよそどうにもならないだろう。協力は正しい。
部屋に入って僕はアナスタシアに聞いた。
「どうする?」
「みんなを早く助けたいとは思うけれど……助かりたいのはみんな同じだよね」
「みんななら、助けに行くだろう……勇者パーティだから」
「そうだね……」
明言はなかったけれど、行くことは決まった。
就寝前、腕立てと体起こしをする。お札屋のじいさんの言ったことはもっともだ。みんなだって、アナスタシアだって、いざという時にはぼくが前に立てるかも知れない。
「ラズリー、なにやってるの」
なにをやっているかは明白なのに、彼女は聞く。
「まあ、消耗なしに行軍できるに越したことはないからね。戦闘中も、疲労が薄ければ判断も鈍らないかも」
アナスタシアは、そうか、とつぶやいた。
「私もやる」
アナスタシアはベッドの上で上体を起こしてその体勢を保った。
「アナスタシアがムキムキになるの……?」
「私だってパーティメンバーなんだけど」
「いや、まあ、その通りなんだけどさ」
女性で筋肉があまり付いているのは彼女としても嫌だとは思う。それでもやるべきこととしてやっている彼女だから素敵だとは思う。
でも、怒ったアナスタシアは結構苛烈で、ムキムキのアナスタシアにはたかれることを想像すると、あんまり笑えない。