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情報が集まるのは酒場か組合所か。おおよそ公益性の高い話はギルドに寄るので、ぼくたちはギルドへ立ち寄った。石化解除の知恵を得るためだった。無論、方法論が確立されているわけはない。ただ、世界を旅している人間が集まる場所で、なんらかの手がかりがあればと思ったまでのことだった。
「石化? 実際にそんなもの使う魔物がいるの?」
呪いと言っていいのだろう。そういったものの解除は魔術士か聖術士か、あるいは呪術士か。おおよそ手練れの集まるこの場所で、能力の足りないものは奥へは入りづらい。ぼくたちはカウンターから窓側へ行った、景色のいいところへ陣取っているパーティの聖術士へ話しかけた。
「……お前ら、相当のやり手だな。ちょっと座れよ。情報を共有しないか?」
そのパーティの呪術士がそう口にして、椅子を引いた。
「あんたたち……魔王と戦ったのか」
「まさか、そんなヤツが……いや本当なんだろうな。あんたらふたりは、この世にそう無い術士だ」
所作といい、実際に実力のあるパーティなんだろう。ぼくたちの能力を、見て感じ取れるようだった。最初に話しかけた聖術士の女性はアナスタシアと同世代だろう。アナスタシアよりほっそりとしてしかし戦いなれていそうな彼女は、顎に手を当てて考える風にしながらぼくたちの話を聞いていた。
その人が口を開く。
「それで……魔王は石化魔法を使ったのか」
「ええ。いや、魔王は刀剣を使いつつ頻繁に体術を織り交ぜ、同時におなじくらいの頻度で魔法を放っていた。私たちはそれを見ていたに過ぎないんだ。正直、石化魔法なんてものがこの世に創造されていることを想定していなかった。たぶん魔法だけれど、魔法じゃない可能性もある。なにしろ仲間が石になったことに気付くまで、私たちはハインツが殺されたことに呆然としていた」
呪術師が合いの手を入れる。
「なるほどな。まあ、相手が魔王ならそのくらいなんだろう……ハインツというのは?」
「勇者だったんだ。……だから石にすることもなく、殺したんだろう」
聖術士の女性が苦い顔をした。勇者は貴重で、魔王にとって明確な脅威とされていた。恐らく彼女らは魔王を殺すために旅をしてきたパーティではないけれど、魔王が倒されることは切実に願っているのだろう。
「俺ら呪術士の呪術と魔術による呪いは恐らく構築方法は違うだろう。だけど、結果として呪いであるには違いない。俺の師匠はまったく実戦向きじゃないんだが、その分ずっと研究を続けてきた人なんだ。……会ってみるか?」
ぼくはアナスタシアと顔を見合わせた。その表情は大変な興味を示しており、無論ぼくもそうだった。呪術士は言った。
「紹介状を書こう。なに、実際に石化魔法を見た人間がいるんだ。師匠の方があんたらに話を聞きたがるだろうけどな。トンデモねえ婆さんだから、驚くなよ」
目的地が南洋の交易街、ナーゼリンと決まった。