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ギルドへ立って、しかしぼくらは声をかけようがなかった。仲間と運命を共にしなかったぼくらに、信用などあるはずがない。ぼくたちはふたりでそう思ったのだった。不安そうにうつむくアナスタシアの手を、勇気を出して握った。きっと僕たちはまだ気持ちの整理が付いていない。つけようがないのかも知れない。けれどもとりあえず今は、誰をも受け容れない方がいいんだろう。
「アナスタシア」
アナスタシアはぼくを見上げる。
「きっとぼくたちの仲間は彼らなんだ。ハインツ、ユーグナー、アリアス、サリア、そしてアナスタシアとぼく。しょうがないじゃないか。だってぼくらはあんなに一緒に旅をしたんだもの。別れたばかりのぼくらが、誰かを受け容れるには、まだ」
またうつむいた彼女にぼくは言葉を継ぐ。
「ふたりだ。無理はしない。まずは情報を集めて、整理しないかい?」
男女であったのに、ぼくたちは六人で、毎回ひとつの部屋を取っていた。それくらいぼくらは信用し合っていたのだ。逃げ出したぼくらにもうそんなものは残っていないのかも知れない、そう思ったけれど、宿に入ってアナスタシアは二人の部屋を求めた。ひとりじゃなくて大丈夫? と言うぼくに彼女は、ひとりじゃやだよ、と答えた。
「盾士がいるにしろ、あれは受けちゃダメだ。保険として物理防御、術防御をかけるにしろ、基本は動いて躱さないと」
「魔王はやっぱり魔法が得意だ。それだけ、魔法防御は効果が高いと思う。それは私がやるとして、いつもはラズリーのサポートが多いけれど、魔王はちょっとした聖法でさえ苦痛なようだった。闇が強すぎるんだ。あれはきっと明確な弱点だよ」
「でも、聖術士重視の人数割りじゃ、前は後衛を守り切れない。かといって単純に人を増やしては、どうしても目についてあの地獄門を同時間に渡れない。やっぱり、パーティは基本の四人から六人が理に適ってたんだろうね」
目にした魔王のことからつらつらぼくたちは話した。魔王を思い返し、魔王城を思うに、斃れた仲間のことをどうしても思い出す。
それはアナスタシアもおなじだっただろう。ふと彼女は言った。
「ねえ……あれは、石化……だったんだよ、ね?」
ぼくは首を振った。だって見たことがない。確証がないんだ。
「分からない。分からないけど……」
でもやっぱり、ぼくもそうとしか語る言葉を持たなかった。
「おとぎ話の石の呪い、のようには確かに見えた」
アナスタシアは黒い魔法衣の下に出る赤とオレンジの襦袢の裾を正し、ぼくに向き直る。
「ねえ、ラズリー。おとぎ話では、たいがい石の呪いは解かれてハッピーエンドに向かっていた。あれはどこかで一般的なもので、解けるんじゃないの?」
おとぎ話を誰が書いたかなんて、今では知る由もない。でも多くは創造主だとか、女神の名が語られるのだ。それならば、確かにこの世の理に組み込まれた、一般性のあるものなのかも知れない。
「そうであればみんなの石化を解けるかも知れない。ハインツは無理でも……他のみんなは取り戻せるかも知れないんだ」
アナスタシアは少し悲しそうな顔をする。
「そうだね。でも、みんなは魔王の前に」
ぼくは首を振ってみせた。
「アナスタシア。ぼくらが戦ったのは謁見の間だ。居室は別にある」
「別?」
「魔王だって生活している。移動をまったくしないわけじゃない。それに、人の大きさのものを戦ったまま置いておくのは邪魔だ。魔王に謁見するものもあるだろう。居室か……あるいは、ぼくたちが入った部屋でものを飾れそうなところも、見せびらかすのに良さそうな通路もあったろう? きっとそういうところに置くはずなんだ」
「じゃあ」
「石化の解除方法さえ分かれば、みんなを回収して戻った上で、戦力を整えることもできるはずだ」