25
楽しげなパーティだった。彼らと旅することもまた、人生で益になるだろう。だが、ぼくたちには目的があり、世は困窮していた。
食事も進み、楽しい時間はお開きが近づいている。アナスタシアは酔い潰れ、イザベラはとなりに来て介抱している。ぼくは切り出すべきか考えていた。ぼくらには力が必要だ。それでも彼らにだって力をつける伸びしろはある。
そのときアナスタシアのうわごとが場を静かにした。
「イザベラ……さん。魔術士がなんとかしなくちゃ……あれを。あれは魔術だ……魔術による……」
「え、なに?」
なにを口走るか、アナスタシアに興味を向けていたのだ。イザベラだって言った言葉は分かっただろう。内容だ。重要なことだ。アナスタシアは分析していたのだ。魔術での攻撃が通りづらい魔王との戦いで魔術士が活躍する術。……あるいは、本当に魔術による策でしか防ぐ手立てがないと見ているのかも知れない。
ぼくは少し困惑した眼でアナスタシアを見るアイリーンに呼びかける。
「アイリーンさん、君たちもいずれ魔王に挑むだろう。アナスタシアもあなたたちに伝えたいことがあるようだ。明日、旅立つ前に、少し時間を貰えないだろうか」
肩を支えるようにもアナスタシアはほとんど意識がない。腕に載せようとして、宿まで連れて行く自信がなかった。ためらいはしたけれど、結局背に負った。薄くも厚くもない彼女の胸が当たって、ぼくはいまさらながら仲間なしにふたりで泊まっていることを意識した。恐れぬ訳ではあるまい。確かに攻撃に長けた彼女が男に組み伏される可能性は低い。けれど建物の中で、近距離で、戦いやすい職ではないのだ。
ぼくはアナスタシアの心の傷が自分よりよっぽど深い可能性を考える。癒やしきらねば再び魔王の前に立ったとき、戦いの役に立たないかも知れない……そして、彼女の人生に影を落とし続けることも。
ベッドに降ろしてぼくは彼女の額に手を置いた。安らかに眠れているだろうか。聖職にあるとて、ぼくは信心の深いほうではない。自分たちが操作できることの多いことを願っている。祈りは無駄だろうか。ぼくの手が温かいことを願う。
寝息は静かに、夜は更けていった。