19
「……行き止まりか」
ぼくの言葉にアナスタシアが四方を確認する。中心にプレートの埋め込まれた台座があって、周囲に石柱の立った部屋はそれまでの迷路と違って明らかになんらかのスペースだったけれど、冒険者を迎えるダンジョンの入り口ではない。文様も装飾も、なにしろ空に開かれた口がないのだ。出入りの仕様がない。
「さっきの剣士は出入り口だから張ってた訳じゃないのかな」
部屋の壁を調べ終えたアナスタシアが戻ってくる。魔力がなければ、聖力がなければ、と言うのではゲームは成り立たない。ぼくは台座を調べた。プレートがあるだけではめ込む部分もいじるような装置もない。
「明らかになにかを行うか……発生させる場所なんだけどな」
台座の下のほうを調べるぼくの頭の上で、しゃべりながらアナスタシアが手を置いた。と、頭の上で白い光が出た。
「ラズリー、光ったよ? なにかした?」
「いや、見てただけで、なにも」
「ふむ」
立ち上がったぼくの目の前で、アナスタシアは指を伸ばしてプレートに線を引いた。引いた指のあとが光跡として残り、しばらくして消える。
「これは、なにかを書けってことだね」
「そうだよね」
ふたりでうなずく。
コードかなにかがこのダンジョンのどこかに印され、あるいは集めるようになっているのだろう。どれだけのパーティがそれを認識しているか分からないが、各組の人数的に戦闘をしつつ書き込んで脱出するのは恐らく不可能だ。
「そうであれば、この広さならそれなりの規模の術は使える……ここで待ちかまえてすべて駆逐した上で、コードを回収するって手もあるけど」
アナスタシアはそう言うけれど、小心のぼくはあんまりやりたくないことだった。
「通路はここだけ……ここに突っ込んでくる人に対して聖法でも魔法でも撃てばいいけど、こんな封鎖された空間じゃ、通路を術で覆い尽くしたら目が潰れるよね」
「その間に次の手に侵入されるか……」
アナスタシアが納得した。
「ここでぼくたちが張っていたら、それこそ協力するって流れになるだろうからね……アナスタシア」
ぼくの呼び声に辺りを見て考えていた彼女は振り向いた。
「聖術と魔術で罠を張ろう。幸い通り道はひとつだ。それと、台座の前に転送座標を仕込んでおく」
うなずいて、彼女は通路の位置を測りだした。