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ファンタジー小説(仮)  作者: 諸星中央
18/30

18

「こっちのほう、明らかに構造が単純だね」


 区画の移り変わり、今までマッピングしてきた魔法図面を見ながらアナスタシアが言う。


「出口はまあ、普通ならこっちだよね……って」


 魔物はいないと図面を見ながら歩いていた彼女の前で動いた影に、ぼくは聖法防護膜を展開しながら前へ突出した、が。


 術式を映像構築しきる前に伸びた腕は間抜けな突きみたいだっただろう。横に身をずらして剣で薙がれ、ぼくの左腕が肘のちょっと先から飛んでいった。


「ラズリー!」


 アナスタシアの叫びは単なる悲鳴に終わらず、伸びてきた杖がぼくに斬りかかる影を弾き飛ばした。と、突かれた影の体内で爆発魔法が炸裂し、内側から破壊されて……さっと影は消えた。確かに見た参加者のひとりの顔だった。


「ホントにゲームだね。相手は消えちゃったし、腕も痛くない」


 まるで感覚のない切れた腕に、ぼくは回復術をかける。腕は白い光に包まれて、元に戻った。



 竜の里から十日、元の街道へ戻り歩いて、大陸最大の王国へ入った。大河の渡しから船に乗り、入った街が今いる交易街、ルートリードだった。少々の補給の前に情報収集のため酒場へ歩くと、通りの市場で商店主たちの催し物の噂を聞いた。どうやら大陸の至宝と囁かれる聖剣が手に入ったらしい。どうにか苦労して入手したそいつを、高く、かつ有益に売り払おうと商店組合で話し合い、そうして考えられたのがゲームだった。


 商店組合の会議室へ行くと受付は始まっていた。受付嬢のとなりで商人の男がぼくたちのなりを訝しむ。


「あなた方、術士ですな?」


「ああ、魔王と戦った勇者パーティだ。力及ばず敗走した。聖剣があれば戦力補充になる」


 アナスタシアがこともなげに言った。だが、魔王の前に立った人間は恐らくぼくたち以外にいない。商人は目を剥いて、「そうでしたか……」とぼくたちをそのまま奥へ通した。


「どうせ、適格かどうかはゲームで判断されるでしょう」


 アナスタシアは腹が据わって頼もしい。小心のぼくは苦笑いした。


 ゲームの参加費は二千ベーク。ちょっとした宿の、宿代十日分ってとこだろうか。旅人の安宿とは違うので結構な額だ。ぼくたちふたりなら三ヶ月はゆうに暮らせる。迷ってアナスタシアを見ると、彼女は当然のように財布を出していた。まあ、彼女がやる気なら、いいだろう。支払いの前に概要は説明されたが、支払いが終わった翌日、集められた部屋では、詳細にゲームの内容が語られた。


 この地には悪戯好きの精霊がいるらしい。その精霊は領域に入ったものの複製を作り出す。よくある化かし話だ。でも、今回はそれを利用するらしい。領域に他の精霊が遊びに来て、悪戯精霊の領域をダンジョンにした。精霊ふたりに捧げ物をしてそれをお借りするんだそうだ。ぼくたち参加者は領域内の小部屋にそれぞれ入り、ダンジョン内にぼくたちの複製が作られる。ダンジョン内に隠された聖剣を持って地上へ出たものが、その聖剣の主となる。ただし、地上への出方が特殊なため、その方法を探すのもゲームの内である。


 個人も、パーティもあって、それぞれの小部屋に通されたのは十七組。小屋から入った小部屋で係員が扉を閉めるのを確認したアナスタシアは言った。


「なるほど、商店組合は本当に聖剣の価値を優先したいみたいだね。十七組三万四千ベークじゃ、聖剣の支払いには足らない。集まる金より、実力のある人間に渡すほうを重視してるんでしょう。小部屋に分けたのは、本体に手を出させないためでしょうね。意識を本体に残す意味はない」


 やがて、複製が作られたのだろう。意識が二重になる感覚があった。ぼくたちはためらいなく、その意識を片側――ダンジョンの中にある複製のほうへ寄せた。


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